ルルドの泉
ルルドの泉
翌日
「おお~気持ちの良い朝じゃな」
「行くんですか?」
「まずは温泉じゃ」
「あ~魔王城じゃないんですね」
「それはもっと後じゃ」
「楽しみは後にとって置くものじゃろ」フッフッ・(ほほ笑む)
(わ~~この子ほんとに王女なの?)
朝の用意が終わり、まずは朝食をいただく、すでに魔真隊の食事係が鍋や皿を出してテーブルを並べ椅子も用意している。
昨日ストレージ魔法を教えてくれた隊員も朝早くから食事の用意をしてくれていた。
「昨日はすまなかったな」
「いいえこちらこそ」
指輪を見せながらお辞儀をする。
「また下賜されたのですか?」フラン
「うぬ、練習じゃ」
「言っても無駄ですよ」クレア
「善い行いにはそれにふさわしい対価があるべきじゃと思うぞ」
「まあたまたまという運もあるがな」
(やれやれ)フラン
魔真隊の給仕係が腕によりを付けた朝食がテーブルの上に並んでいく。
と言っても朝食なので夕食よりは質素だが、あたりは紅茶の香りが漂いパンも固焼きではなくフランスパンのようなカリッとしたパンだった。
付け合わせは野菜のソテーとベーコン、スープはオニオンと野菜で作ったなかなかの味だった。
「本当に魔真隊の給仕係は上手ですね」
「この隊は当たりなのか?」
「あ~確か将軍からのお達しで一流のシェフが同行しております」
今回の遠征には王族が2名いる第一王子と第三王女、当然ながらこの2名の食をそこいらのおっさんのキャンプ仕込みで補うにはいささか難易度が高い。
それを知っているならば当然ながら一流レストランで修業したこともある魔真隊付のシェフを王族につけるのは当然だろう。
「あ~それでかすげー美味かった」ジョシュ
「まあそれも今日までかもしれんからな」
「えっ そうなの?」
「今日で予定の日程の半分は過ぎてますからね」リリアナ
「あ~確かに、今日温泉見たら帰るんですか?」
「まだ決めておらぬ、温泉を見て入れるようなら入る、そのあとは妾の予定としては魔王城攻略じゃ!」
「姫様!」クレア
「まあ ちょいと見てくるだけじゃ、そうじゃろ?フロウラよ」
「も もち論ですそうしないと私が死んじゃいます」汗;
「じゃあ今日明日で帰るってことですね」
「そういう事じゃ」
「最低でもバカな魔族にしっかりくぎを刺しておかねば、ゆっくり学園生活も送っておられん」
「まあそうですね」
「半分は興味本位じゃけどな」
「後でちゃんと教えてくださいよ~姫様?」ミミー
「もちろんじゃ」ワクワク
朝食が終わり片付けも終わると、身支度を終え今日の目的である温泉を見に行くことに。
ルルドの泉とその近くに湧き出る温泉は別物だったりする。
ルルドの泉は地下水源、洞窟から1k離れた山裾にある美しい森の中だ。
そこから湖まで川が流れていてその湖の端に温泉が湧き出ているという。
数キロ離れた村にも温泉の元となる硫黄のにおいが漂ってくる。
「これが温泉の香りですか?」
「そうじゃ」
「それでは出発するか」
「行きましょう」
村から温泉地まではすぐに行けるわけではない、少し遠回りになるが一度ルルドの泉へ行きそこから川を下るといった形だ。
そうしないと直線で行こうとすると20メートル以上の断崖絶壁を降りないといけない。
魔法を使えば行けないこともないがそこから先は生い茂った森が行く手を妨げる。
すでに泉までは道ができており森を進むより川沿いを下る方が障害物が少ないという理由だ。
泉から湧き出る水はそこそこ豊富だが、湧き水ということは大きな川が流れているわけではないので川沿いの道もさほど水の心配をすることもない。
まずは覆い茂った草をかき分け泉を目指す。
「やっぱすげー草だな」ジョシュ
「まあ季節がそういう時期だから仕方ないさ」ロッド
歩くこと10k森の中ほどから水の流れる音がする。
「あ 着きましたよ」
「おおここか」
近くまで寄ってみると大きな岩の下から水が湧き出ている、そばには村人がお供えでもしたのか枯れた花や彫り物が祭ってあった。
水は冷たくそしておいしい。
「この水は雪解けの水じゃな」
「ああそうかもしれません」
「そういえば山のてっぺんにはまだ雪がありましたね」
「雪が溶け水が地中にしみこんでここから湧き出すという仕組みじゃ」
「姫様何してるんです?」
「うむストレージボックスに水を入れておる」
「え~入らないでしょ」
「いや入っておるが出し入れが少し工夫がいるな…」
マーシャはストレージに水を入れ出すときに水鉄砲のように出せるか考えていた、それができれば水を使って岩や木などの固形物の切断も可能になる、高圧水流の利用。
うまく使えば瞬時に敵を葬る武器としても使える可能性がある、通常の水魔法は空気中の水を集めるところから始めるので、氷魔法もすぐには発動できない。
手元で少し待たないといけないタイムラグが生じる、よく地面から相手を縛るときに使用するアイスバインドは地面の水分を直接使用できるので水を集める時間も少なくて済むが。
それでも多少の時間ロスが生じる、アイテムボックスから直接水を取り出しそのまま水ドリルや氷槍にできれば相手より先に攻撃を叩きこむことも可能だ。
マーシャはしばし水を入れたり出したりしてストレージから出す時の水の形を練習していた。
「姫様どうです?」
「うむ 何とかコツはつかんだぞ」
「マジ!」
水を取り出すときに位置指定をしてやればいいだけの話だった。
通常ストレージから物を出す時は目の前に場所を指定する、つまり魔法陣のある場所という事。
魔法陣には指定する文字が書かれている、マーシャはすでに魔法陣の形や文字を覚えているので出す時も魔法陣を使用した時と同じように出せるが、それでは先ほど入れた水は目の前にバシャと出て終わりになってしまう。
そこで覚えた魔方陣の位置指定を変更、目の前しかも胸の前の空間に指定し。
ついでに蛇口のように分量も指定してやる、つまり魔法陣は2つ設定し頭の中に思い浮かべるというふうに。
これで使いやすい場所に位置指定、さらにたくさん貯めた水を少量だけ出して使える。
こういうことをできるのも数学がすごく重要なのだが、この世界ではさほど数学を追求していないようだ。
「ほれこうじゃろ」
すると目の前に直径5センチの水の球が現れた、さらにそれを凍らせる。
(ピキッ)
「どうじゃ?」
「お~」
「私もストレージ使えるようにしないといけませんね」
女子は全員マーシャの魔法を見てそう思った、そういう使い方があるとは知らなかったからだが。
本来こういうノウハウは秘匿とする場合が多いのだが、そんなことマーシャは全く考えていない。
これこそがマーシャと同行すると得をすると言う意味でもあるのだが、まあ全員そういう風に感じているかは別だったりする。




