温泉はどこ
温泉はどこ
その日はいつものように食後は魔法の練習から入り体術そして剣術という具合に寝るまでの1時間みっちり訓練をした。
「姫様明日は何処へ行くのですか?」
「明日は温泉を見に行く」
「温泉ですか…」
「最初の目的は温泉じゃろう」
「確かにそうでしたね」
「入れるかどうかは別としてちゃんと見ておかねばな、それに湖も見ておきたい」
この日は疲れもあって学生たちのほとんどはすぐに寝付いてしまったが、数人はやはり寝付けなかった。
「姫様眠れませんか?」
「リリアナか?…うむあまりにもすんなり行き過ぎじゃ」
「考えすぎでは?」
「そうか?」
「脅しのために魔族の伝令を解放したのです、ちゃんと伝わればバカなことはしないと思いますが」
「それは安易な考えじゃと思うぞ、なんせ敵の情報もろくに調べもせず攻め入るのじゃからな」
「頭の痛い限りです」フロウラ
「なんじゃおぬしも聞いておったか」
「ちなみに魔族は半分がバカだと言っていいです」
「ということは死ななきゃ治らぬという事じゃぞ」
「残念ながら…」
「いくら言ってもダメな奴は懲らしめてやらないといけないという事か・・」
「おぬしらもちゃんと教育は受けておるのじゃろう?」
「はいわたくしも18歳までは魔法学院におりました」
「勉強はしてきたのじゃろう」
「勉強といっても学院では簡単な文字の読み書きや魔法の詠唱、それに貴族の身だしなみ程度です」
「数学は?」
「積算は教わりますが、上級魔法を覚えない限り普通はあまり必要ないですから」
ちなみに魔法も上級になれば細かい術式に数式が必要になったりする、魔力量が豊富であれば力ずくで補うことも可能だが。
より大きな術式を展開する場合は数字が大きく成功の可否を左右することになる。
特に土系魔法の土地造成などはどこからどこまでという範囲指定には数字を当然ながら書き込まねばならず。
リリアナやマーシャのような上級者だから詠唱だけで発動させているが。
魔力量が少なく頭の中に魔法陣が思い浮かばない場合などは、地面に書く時当然知っていなければならない文字の一つが数字なのだ。
そうなるとその上の立体魔法の構築になってくれば2次関数3次関数や円の定理などという幾何学も知っておかなければならない。
「なんじゃそれでは学院とは言えぬじゃろう」
「だから私は結婚を拒んでいるのです」
「ということは本当にバカばかりという事か…」
「これがどういう事かわかるかリリアナ?」
「男尊女卑で相手がバカではそんな奴らと婚姻など私も絶対拒みますね、それとこの戦いそんなバカばかりでは話し合いでは絶対終わりませんね」
「そうじゃ妾でなくても良いが、誰かものすごく強いものが行って力ずくで馬鹿どもを粛清しない限り戦が終わらないと言う事じゃ」
話せばわかる、とは言葉が通じるものに話した場合。
バカとは馬鹿と書くが馬も鹿もそれなりに賢い、では人族のバカという定義はというと、言葉が通じないものを指す。
言葉が通じないものには何を言っても無駄だし説得なども何の意味もない。
ではその者たちはどういうものたちなのか?
よく言う単純バカという言葉もある通り、ほぼ原始人に近い。
言葉は使えても考えるより手が足が先に出る、要は暴力大好きな生き物という事。
これらを納得させるには同じく暴力で従わせるほかに手立てはない。
「頭が痛くなってきたぞ…」
「申し訳ございません」
「いやいやおぬしが悪いわけではないだろう」
相手のことを知れば知るほど一筋縄ではいかないということが分かってきた。
それに今回北の砦には第一王子が赴任している、彼はそれほどバカではないが、マーシャと比べればまだ甘いところがある。
まあ隣にロドリゲスとビルシュタイン将軍がいればそれほど心配することもないが、いかんせん相手がバカだということを聞いては、何をしてくるかすらわからない。
「これは早いところ手を打った方がよいかもな」
「どうするんです?」
「向こうの将軍に会う必要があるな、それと現王妃じゃな」
「まあそれが元凶ですから、一番手っ取り早いですけど」
「フロウラよ転移魔法は何処まで使える?」
「…」
「一度拷問してみるか?」
「ヒエッごめんなさいお許しください」
「使えるのじゃろう?」
フロウラは召喚魔法を使えるということは転移魔法も使えるという事。
魔法陣の違いこそあれこの2つは同系統の魔法だから。
ではその転移魔法を使えば逃げられるじゃん、とも思えるが実は奴隷紋の魔法、逃げる=主に仇をなすことになる。
その場合は発動する前に気絶するだろう、奴隷2名が逃げ出せないのもそういった意味合いからだ。
だが転移魔法は奴隷でも主とともにならば可能となる。
フロウラが言わないのは、じつは魔王城への直通転移が可能だからだ。
彼女は一度魔王に呼ばれ妃になるのを拒んでいる、まあこれは後ろ盾がおりその後ろ盾である腹黒宰相をも拒んだからだが。
彼女も一度は魔王と接見している、その時に魔王城の転移門を使ったことがあるからだ、通常普通の魔族ならば魔王城の転移門は使うことができない、魔力も少なく転移魔法も知らないからだが。
彼女は魔力も十分あり転移魔法も使ったことがある、しかも一度行っているのでちゃんと魔法陣を記憶しているのだ。
「言いたくないのは分かるがな、直接行けるなら行って話した方が早いじゃろう」
「私は殺されます」
「大丈夫じゃ、妾といれば死ぬことはない」
「姫様どうして断言できるのです?」
「わらわがそう思うからじゃ」
(やれやれ…)
実はここでは言わないが、上級魔法のリザレクションはすでに取得済み、まだ使用したことはないが、目の前で死ねばすぐにでも生き返らせることができる。
それにマーシャは元々神の使いなのだ一応、一応と言っておくが、まあ本当のところマーシャはそれほど気にしていないし言うこともないと思ってたりする。
バラすと後で面倒だから言わないだけだったりするし、2人の魔族に刻まれた奴隷紋も実はマーシャの使徒だという証なので、その紋がある限り死ななかったりする。
今までにそうなった者がいないので、確証がないだけなのだ、なんとなくそうなるとしか言えないのがもどかしい。
「まあすぐにとは言わぬが、覚悟しておくんじゃな」
「…わかりました、もし死んだら恨みますからね」
「ああ構わぬ」




