氷雪狼
氷雪狼
何処まで行っても真っ白な世界、いや一応100k行けば行き止まりになっているらしい。
物好きな冒険者が壁伝いにマップの中身を埋めていくことに成功した。
中央よりやや手前には山脈のような雪山が連なっているように見える。
進めば進むほど気温が低くなるという設定らしい。
「体が凍ってきたのにゃ、眠くなってきたのにゃおやすみにゃ~」
「こら寝るな!」
「パシン」
「仕方がない休憩しよう」
30kほど進んだあたりで仲間の状況が変化してくる。
寒さに弱いヨツマタ、そしてカユーラもその体が小刻みに震え出した。
「グラビティプレス」
「ドズズン」
「小屋ですね」リリアナ
「中ぐらいの奴じゃ」
雪山というシチュエーションならばやや大きめのログハウスが似合うだろう。
そう思ってストレージから取り出したのは2階建ての木造コテージ。
8人が楽に入れる簡易宿泊施設だ。
「あったかいにゃ~」
もちろん暖炉迄ついている、魔法で温める暖炉なので煙などは出ない。
「休憩時間は1時間ぐらいじゃな」
「ついでにお食事も用意しましょうか?」
「そうじゃな」
ダンジョン攻略を始めて約3時間、時間的にはお昼休みと言った所。
だがそんな彼らに招かれざる客が襲い掛かる。
「グアー」
「ワオー」
「ようやく休憩できたのに…」カユーラ
「妾が行ってこよう」ダーラ
「うむ」
先にダーラが様子をうかがいに外へ出た、そこには氷雪狼の群れがいたのだがそれだけでは無かった。
「くそう、まだあんなにいたとは…」
「伯爵様どうします」
「おまえあれを食い止めてこい」
「そんな」
「そもそもお前が大丈夫だというからこんなことになったのだ」
どうやら先にこのエリアを冒険しているグループらしい。
しかも攻略を焦ったのかひきかえしてきたようだ。
「あ あれは家か?」
「あのようなものは無かったはず」
「そんなことは構わぬ、あの中に入るぞ」
遠くからでも見える2階建てのログハウス風コテージ。
窓からは明かりが見えるので、人いや魔族がいるであろうことは分かる。
だがそこにいるのが王国から来た最強攻略者だという事までは知らなかった。
ドアは開かない
命からがら逃げてきたのは魔王国のファウンデン公爵の部下である、ミシュケウス・トルマーニ伯爵とその部下3名。
魔王国の雷蝶部隊と称される部隊の末席に所属しているが、彼らは他の部隊に付いてきたにすぎない。
本隊はエリア3の中央へと進軍しエリアボスの攻略へと向かっている。
「伯爵様がお宝などと言うからこんなことに」従者兵ヨモギル
「ええい うるさいおぬしが氷雪のカギを手に入れればフェンリルと戦うのに有利だと言ったからだぞ」
「お二方、無駄口叩いていては足が鈍りますぞ」従者兵コッカリス
「…」従者兵ルザン
「誰か出てきたぞ」
コテージのドアが開き吹雪の中だというのに、褐色の肌を惜しげも無くさらした黒髪の美女が一人。
まるで雪遊びでもするかの如く、笑顔のままこちらへと歩いてくる。
「竜人族」
「おー竜人族か?」ミシュケウス
「その様子だと逃げてきたようじゃな」ダーラ
「なんだと」
「違うのか?」
「逃げてはおらぬ!」
「伯爵様」
「ならば連れてきた氷雪狼、おぬしらが片付けねばな」
「え!」
「ワオー」
その数、数十匹。
放って置くとどんどんその数が増えて来る、
「まずい」
「ひえ~」
「何じゃ戦わぬのか?」
「おたすけー」
ダーラを残して伯爵以下4名はコテージの中に入ろうとするが。
もちろん許しが無ければドアも開かないようになっている。
「ドンドン」
「今すぐドアを開けよ、我が名はミシュケウストルマージ魔伯爵、開ければ褒美を取らせるぞ!」
「びくともせん」
「私がやってみます」ヨモギル
「グー ハアハアだめだびくともしない」
どうやら小屋ごと氷雪狼に取り囲まれてしまったようだ。
「そろそろ片付けるとするか」ダーラ
人型に変身したとしてもダーラの攻撃はそれほど変わらない。
指の先にある鋭い爪を5センチほど伸ばしまるで小刀のように敵を切り刻む。
真っ白い毛におおわれた氷雪狼もその鋭い爪で切り刻まれればひとたまりもない。
「シュン」
「ギャウ」
「ビシュン」
「キャウン」
(せっかくの獲物、戦えばよいのに)
別にダーラは伯爵たちが何もしなくても構わないと思っている。
そして彼女はこの氷雪狼を全部退治すればエリア3の小ボスフェンリルが現れるのを知っている。
「ドンドン」
「くそう」
「ギャウ」
「ドスン」
「戦え」
「そんな」
「私を守るのがおぬしらの仕事だろうが!」
どうやらミシュケウス魔伯爵は自分だけ助かれば部下の事などどうでもよいらしい。
「ドンドン」
「早く開けろ!」
実はこのロッジ風ログハウス、いくつかの魔法がかかっていたりする。
マーシャが作った家なのだ、防御魔法や判別魔法その他の魔法エトセトラ。
事前に安心して魔物たちを寄せ付けないようにするのは当然と言って良い。
要するに魔伯爵とその部下全員魔物扱いと言って良い。




