バラルエルパイヤ男爵
バラルエルパイヤ男爵
エルパイヤ領へと入ると機工車で進むことができなくなった。
いくら魔法で動く車でも、道が無ければ進めない。
そのうち空を飛ぶ魔工機を作る方法も考えておいた方が良いのかもしれない。
それは今後の課題だが、実はこの世界に飛行機が無いわけではないらしい。
一応昔の物語や研究書には空を飛ぶ魔法を利用した道具が結構出てきたりする。
そういう器械や乗り物よりも転移魔法が先に発達したために、現在は空を飛ぶ道具として所有している者が殆どいないということだ。
ちなみに空飛ぶ大陸は現存しており、いずれそこにも行ってみようと思っていたりする。
「ここから先は道が無いと言っても良いな」
「歩いて進むしかなさそうです」リリアナ
「皆もそれでよいか?」
「もちろんじゃ」ダーラ
「いまさらにゃ」ヨツマタ
「え~」フラン
(大丈夫なんですか~)
「大丈夫っす」カユーラ
「どこまでもついていきます」フロウラ
道端に生えた草は高さ1メートル以上あり、樹木は5~20メートル間隔で高さは10メートル近くにまで成長している。
その間を誰かが通ったであろう道なき道が延々と続いている、これが獣道というやつなのだろう。
そしてご丁寧にもここを進めとばかりに数百メートル置きに立札が立っていたりする。
「とりあえず道筋だけ魔法でつぶしましょう」
ウィンドカッターでも良いが、ここは重力魔法でプレスしながら進むことを選択する。
そのためにリリアナが先頭に立つ。
「あまり驚かさないようにな」
「かしこまりました」
索敵魔法を使用するといくつかの赤い点が地図魔法に現れる。
それほど多くはないが、どうやらこの森に生存する魔物だと思われる、そうこの森には魔狼とゴブリンが出現するはずなのだ。
「ギャー」
「ドスン」
「ゴブリンじゃな」
「そのようです」
「主、やっても良いか?」
「やり過ぎないようにな」
「許可が出たぞ!」
「よろしいので?」フロウラ
「大丈夫じゃろう」
ゴブリンは1匹見ると5匹はいるという、そして5匹いればその先にはゴブリン集落もあると言われている。
「グアー」
「ドンドズン」
「バチュン」
「ギャワー」
ダーラが道の先の方でゴブリン退治、獣道を進んでいくとそこかしこにダーラが潰したゴブリンの死骸が散乱している。
この地区のゴブリンは人狼族の食料として繁殖させていると聞いている。
要するにこのエルパイヤ領ではゴブリンを食料としている人狼族がいる。
「あまり遠くまで行くな」
「分かっておるのじゃ…」
既に1k近く先まで進んで行ったダーラ、その後ろをヨツマタとカユーラが追従する。
「ゴブリン達も今日だけはかわいそうに感じるっすね」カユーラ
「そうだにゃ」
ゴブリンと言えばどの物語でも雑魚キャラ扱いだったりするが、たまに恐ろしい魔物として登場することもある。
だが総じて知能は低く、上位クラスのゴブリンさえ出てこなければ大して警戒する必要もないだろう。
「ザザザザー」
「来たか」
「ガウー」
「グリーンバインド」
(なんだこりゃ)
「ガウ…」
「人狼族じゃな」
人狼族、普段は狼のような姿で狩りをするが、時折人里へ現れるときには人型に変身する。
要するに獣人族の種族の一つであり犬系の魔族である。
もちろん彼らを傷つけるつもりはないが、言うことを聞かないのであれば対処するしかない。
「戦うかそれとも、恭順するか?」
「クーン」
「言葉は話せるか?」
「あんたらここで何してる!」
「道を歩いてるだけじゃ、まあ一人だけ戦うのが好きで先行し過ぎているがな」
「そろそろやめてもらえんか?」
「ああーそうじゃな、その代わり先導を頼めるか?」
「ワン」
「ダーラよ、戻れ!」
「ここまでか主!」
「ザザザザー」
「キャウン」人狼
(竜人族か!)
人狼族、大きいものは5メートルほどもあるが、普通は2メートルほどの大きさである。
種族としてはコボルトも人狼族の下位種族になるが、彼らはゴブリンと同じく奴隷階級として労働力になっている場合が多い。
目の前に現れたのは2メートルほどの毛むくじゃらの人狼族、皮の胸当てと腰巻きをしてはいるが走る時は四つ足で進む。
「あんたらはどこから来たんじゃ?」人狼
「サザラード領からじゃ」
「珍しいな」
「そうか?」
「それにしてもおいしそうな香りがする!」人狼
「ゴン」フロウラ
「あたっ」
「ここにいる者は全員魔王の友人じゃ、それに妾はハンクル魔公爵とも旧知の仲じゃ」
「それを先に言ってくだされ」とほほ
人狼族の先導で森の中を1時間ほど進んでいく、そしてようやく森を抜けると少し道が開けてきた。
さらに先へ進むと今度は少し岩場が続き坂道が目の前に見えて来る。
岩が所々突き出ているが、人が昇れないような場所ではなく。
一応誰かが通った跡が残っている、そしてようやく岩で覆われた丘の上にたどり着くと目の前には農村の景色が広がっていた。
「ここがエルパイヤ領ワンダーランドじゃ」
丘の上から見下ろす景色はなかなか良かった、家はさほど大きくはないが土と石で作られており。
その中に一つだけ屋敷と呼べるぐらい大きな建物が建っている。
「あれがバラル様の屋敷じゃ」
「ワオウー」
「ワウー」
狼の雄叫び、雄叫びが合図となっているのだろう。
さらに先へと進んでいくと先頭に立っていた人狼族が走り出し、集まってきた人狼族と相談を始めた。
《魔王様のご友人だとよ》
《領主様に知らせないと》
《いや、もう来る》
「ダダダダダドドド」
お屋敷から一直線に土埃が立ち、誰かが近づいてくる。
かなりのスピードだ、道は全て未舗装であり季節は秋を過ぎたあたり。
畑には作物が実りいくつかの畑は既に収穫が終わっているように見えた。
肉食ではあるが農耕も手掛けているようだ、畑には麦らしき藁が置かれている。
「フーフーフー」
「親方様!」
「魔王様の友人か?」
「ハンクル様とも知り合いだと」
「我が名はバラルエルパイヤ、エルパイヤ領の主である」
「お初にお目にかかるアルフレア王国第三王女マーシャオースティンアルフレアじゃ」
魔王国の中では地位が低い爵位持ちのようだ、だが領地を授かっているということはそれなりにうまく手柄を立てたという事。
「我についてこられよ」
どうやら彼の屋敷へと招かれるようだが、ぞろぞろとついていく最中、村人からの視線はかなりきつい。
(まるで敵を見ているようじゃな)
バラルエルパイヤ男爵は20年前の魔王国動乱時にハンクルジョーバリン魔公爵の先兵となり他種族の侵攻を防ぎ功を立てたという。
彼の収める領はそれほど大きくはないが、ダンジョンを一つ任されているというのが一番の収益になっているようだ。




