魔公爵の館
魔公爵の館
魔王城の城下町にあるロディトル魔公爵の別邸はそれほど大きなものではないが。
敷地面積千坪に大理石とみられる石造りの二階建てのお屋敷になっている。
現在は1階に寝室を移し療養している、すでにミストルは学院へと戻ったのか。
もしかしたらマーシャに対抗するため強くなるための修行を行っているのかもしれない。
「主様、例の王国の第三王女が謁見したいと」
「通せ」
2日が経ちいくつかの魔法によって痛みも引いていた、後は神経の断裂による後遺症が残っているだけだ。
医療魔法を使える魔族からは後5日ぐらいで完治するだろうと言われている。
既に包帯は取り除かれ表面上は怪我をしているようには見えない。
「アルフレア王国第三王女のマーシャオースティンアルフレアじゃ、怪我はどうじゃ」
「私の剣を奪っておいてよく謁見などしに来られたな」
「死んだ方が良かったか?」
「その方が楽だったかもしれぬ」
「そうなるとおぬしの娘はかなりつらい思いをするかも知れぬじゃろう」
「どうしてそう思う!」
「魔王に罠を仕掛け殺害しようとして失敗した、その後死亡したともなればお家はおとりつぶしになる可能性もある、そうじゃろう」
「…」
「おぬしを回復させたのは邪神の計画を阻むためもある」
「邪神!」
「おぬしが手をつかんだのは苦の邪神とかいうやつじゃ、力を貸してはくれるが後の面倒など見ない奴らじゃ、妾が手助けしなければ確実にあの世行きじゃな」
「ぐ…」
「魔王との戦い、力不足は否めなかったがそれほど力の差があるとは思わなかったぞ」
「いや道具に頼り過ぎたのかもしれん」
「ほう、それが分かっているのならばまた挑戦できるじゃろう」
「そういう話をしに来たのか?」
「いいや、おぬしの自治領、できれば奴隷制度を変えてほしいのじゃ」
「何のためだ?」
「おぬしの娘、エルフを味方に付けて魔王の座を目指して居るじゃろう」
「どうしてそんなことを」
「聞いた話じゃが、今の魔王はダークエルフとの約束でエルフ族を奴隷階級にすることにOKを出したそうじゃな」
「ああ、そのことか」
「おぬしの領内で奴隷制度を変えてエルフの階級を変えれば領内にエルフが増えるじゃろう」
「それがどうなるのか分かって言ってるのか?」
「ダークエルフが敵対してくるかもしれんな」
「じゃがこのままだとおぬしの領内は魔族も減少していくと思うがな」
「そんなことはない!」
「おぬしはちゃんと自分の領地を見回っておるのか?」
「み 見回っている?」
「では還元魔牛というのはおぬしの入れ知恵か?」
「なんだそれは」
「最初は奴隷階級の牛魔族を裁くために取り入れた魔法、牛魔族に魔法をかけて魔牛に換え食肉としてセリにかけるという物じゃ」
「そんなことは知らぬ」
「プロロスとかいうカントムの町の管理官がおるじゃろう」
「ああ、あの町は放牧で利益を上げている町だ」
「そこの魔牛の半分は還元魔牛じゃ」
「なんだと!」
要するにプロロスの言っていた事の半分は嘘だ、命令は魔公爵からではなく他の誰かが指示している。
一応税金は魔公爵に上納されているので、魔公爵としてはそれを不思議に思うことも無い。
彼が各町の運営まで細かい指示など出しているわけではないとなれば、誰が入れ知恵をしたのか探らなければならない。
「いつも食卓に上る肉類、元は魔族だということか?」
「そうかもしれんな、一度直接見て回った方が良いぞ、確かに普通の魔牛より高く売れるがその分領内の労働力が減るのでな」
「それはどういうことだ?」
「今では犯罪魔族だけではなく普通の牛魔族まで捕まえては食肉にしておるという話じゃ」
「そんなことは許可しておらん!」
「そうじゃろう、皆怖がっておぬしの領内から逃げ出してしまえば労働力が減少し必然的に税収も減ってしまう、そうなればいずれ力を失い他の魔貴族に領地を奪われる可能性もあるじゃろう」
「…」
「ちゃんと見回り、そして健全な経営をすればおのずと豊かになっていくはずじゃ、それともう一つおぬしの剣はおぬしの娘が取り返しに来ると言っておったな、しばらくおぬしの剣は預かって置くことにしたぞ」
「ミストルが…」
「その時になれば返還するでな」
「そうか、そんなことが」
「妾からの話はここまでじゃ」
「あーそうじゃ忘れておった、次いでじゃからおぬしの領内、もう少し見て回らせてもらうが良いか?」
「好きにしろ」
サザラード領をもう少し見て回る、そしてコーバス領へと入りその後はダークエル領へ。
1年前の北の砦での王国領への侵攻を進めた首謀者の一人であり、魔公爵の一人でもあるガガリン・コーパス将軍と元宰相であるカイゼエルコーパス。
彼らにも一度会って話さなければならない。
そして魔王国の内紛に根深くかかわっているらしいダークエルフ族の領主、フルミシャルダークエル魔公爵。
魔王国を安定化するには彼らの動向を探らずにはいられない。




