魔王の寝所
魔王の寝所
竜人族の回復は超が付くほど速い、なので見舞うことなどする必要が無いのだが。
だからと言って魔王に会わずに帰るわけにはいかない。
中央コロシアムでの一件を話すついでに見舞う、そして今後魔公爵の立場はどうなるのかも聞いておきたい。
「第三王女マーシャ様がお見舞いに参りました」衛兵
「通せ」
「もう回復した様じゃな」
「このぐらいならば、1日もあれば元通りになるぞ」
「便利な体じゃな」
「そうでもない、あそこで次の攻撃をもらっていたら、生きては戻れなかったはずだ」
「そうか…」
「恰好悪いところを見せてしまったな」
「そうでもない、2回戦まではなかなか良い戦いだった」
「できれば3回戦目も耐える姿を見せたかったぞ」
「そう思うのならば精進する事じゃな」
「ふふふ」
(見た目は小娘のはずなのだが、私より強いのだから笑うしかない)
「あ奴の姿は邪神の入れ知恵という話だが本当か?」
「多分間違いないじゃろう」
「あれでは勝っても意味がないだろうに…」
「魔獣に自分の意志さえ乗っ取られるのじゃ、魔公爵はあまり計画して無かった様に感じるぞ」
「そうか、奴は邪神にたぶらかされたということか」
「これでまた数年は安泰じゃな」
「ふっふっ そんな事がないのぐらい知っているはずでは?」
「それなのだが、魔公爵とは明日話そうと思うのじゃが良いか」
「それをやつは聞き入れるかな…」
「魔王殿から一筆入れておけば何とかなるじゃろう」
「止める理由が見当たらんな…」
「他にも裏で動き出しそうな者がいるじゃろうから、なるべく早く釘を刺しておかねばな」
「分かった、伝えておこう」
表立って行動している邪神の手下は何人いるのだろう、邪神のターゲットが魔公爵だけではないことぐらい誰もがわかる。
魔王からの命令が無い限り自治が認められている魔公爵領、領内で起こる出来事は全て自治領内で片付けられていく。
それが恐ろしい計画だろうが小さな犯罪だろうが同じこと。
どこまで関与していいのかは魔王の許可次第、それが魔王になった者の権限だからだ。
「それよりその姿には慣れたのか?」
「もう2週間以上経つが、そもそも妾は外見などあまり気にしておらぬのじゃ」
「もったいない、そなたなら魔族でさえ虜にできるのに」
「死合うというのならばいつでも相手になるのじゃがな」
(そのような者はいないだろう、いたとしても全て切り伏せられてしまう)
「相手がかわいそうだと思わないのか?」
「思わぬ」
「そうか」
(聖女・勇者とかいうのはそういうことか、神も罪作りだな)
普通の生活・普通の恋愛・普通に人生を送ることからかけ離れた道を歩む者。
それが定めならば誰かが口出すことではない、いつか本人が終わりを定めるときが来るのだろう。
晴乃香の定めが何なのかは本人でさえ分からないことだろう、神に与えられたスキルが彼女をそう導くのか。
はたまた、彼女自身の持つ何かがそうさせるのか、個人の趣味趣向までは分からない。
だがいつか彼女が自分自身で旅の終わりを告げるときが来るのだろう、それまではこの世界をよりよくするために行動する、それが定であろうがなかろうがそういうことなのだ。




