魔王国中央コロシアムへ来たのは
魔王国中央コロシアムへ来たのは
ガリアナ魔王国の首都ベルーダにある中央コロシアム、普段は登録した戦士の試合や奴隷を戦わせて民衆に喜怒哀楽を提供する場でもある。
当然のことながらそれらの試合には金銭がかけられており、勝利した者に金銭をかけていれば当日の食事はいつもより豪華になることだろう。
だが本日執り行われる試合はこの国の首長である魔王を決める試合である。
この日に執り行なわれる試合はこの1試合のみであり、他の試合は全てキャンセルされた。
魔王と魔公爵との試合、それ以外が中止となるのは当然と言えば当然ではあるのだが、一獲千金を夢見るギャンブラーにとってみればあまりお勧めできるカードとは言えないだろう。
当然のことながら前回二人が戦った時には下剋上の儀ではなく、王妃の争奪戦という形だった。
他の貴族でもこうやって公に戦いを挑んでは、コロシアムで戦うことで奪い合う形式が常日頃行われている。
そしてこの試合には3対1で魔王様が一歩リードしているらしい。
オッズは3倍、これは一獲千金と言える試合とは言えないだろう。
2名の外見はほぼ同じ、体重差はせいぜい5キロ程度の差であり。
同じ竜魔族であるというので金をベットする側からすると、勝ち負けに期待するというより。
魔王がどんな試合をするか見に行くついでに金を賭けるという、閲覧試合になっていると思われる。
要するにそれほど儲けは無いが、それでも賭けなけりゃ面白くないだろうというもの。
「転移魔法だとすぐ近くまで来られるようじゃな」
「ここに来るのは久しぶりです」フロウラ
「私もです」カユーラ
魔王の試合と聞いてやってきたのはチームマーシャの8人。
ダーラとフロウラそして学院の友であるフランとリリアナ、そしてチケットを手に入れるべく奔走したカユーラとヨツマタ。
そしてなぜだかマーシャの隣には第一王女のアマンダが居たりする、もちろん変身魔法によって人族は全員が魔族に見えるようにしている。
「ジルには謝っておかねばな」
「大丈夫ですよ、あまり気が進まないと言っておりましたから」フロウラ
過去にこの場所で剣闘士をさせられたこともあった吸血族のハーフであるジル。
今でも彼ら吸血族のハーフは奴隷階級として見られることがある。
但し、最近吸血族の親分であるハンクル魔公爵からお達しがあったそうだ。
「これより以降我が同胞に対して奴隷以下の扱いがあった場合、いかなる交流も取引も禁じる」
以前はグラッダのせいでハーフ以下の吸血族はかなり扱いがひどかった、まるでモルモットのような扱いだったが。
グラッダが居なくなりハンクルはこれまでおざなりだった同族への扱いを180度転換することにした。
理由はマーシャとの話し合いだが、彼はそれまで下々のことなど気に掛けるのは吸血族の真祖がすることではないと思っていたらしい。
それが強いては自分自身に対する扱いになるとも知らず、グラッダに任せて自らを強くすることにばかり熱中していたのだが。
新たな吸血族を作るべくして始められた研究自体が、逆に自らの地位を下げることにつながっていたとは知らなかったらしい。
実は吸血鬼のハーフ、真祖よりは能力が劣るとはいえそれは最初の数十年まで。
しかるべき訓練や魔法による補助を用いると吸血族との性質も相まって、竜人族にも引けを取らないぐらいに成長すると判明した。
もちろんそれが簡単ではないことも分かっているが、彼は吸血族の進化という物が見て見たくなったらしい。
「主のおかげです」
「まさかこの機に古巣へ帰るとはな」
「まさかあの魔公爵が考えを変えるとは思いませんでしたからね」カユーラ
「あ奴も下剋上の儀で魔王と戦う気でおる、その時に同胞がいつまでも下に見られていては格好がつかぬと思ったのやも知れぬな」
「うんうん」フラン
「それよりアマンダ様はどうしてここに?」
「あら、ダメだったかしら」
「そ そんなことはありませんが…」
魔族に変身してもその美しさとスタイルでは他の魔族から視線が集まってしまう。
この場にはマーシャやダーラもいるのでそれほど一人に視線が集まることも無いのだが。
「解放された奴隷の身分もちゃんとしてきましたし、お父様からも許可は得てきましたわ」
「さようですか…」
「リリアナあまり気をやまぬ方が良いぞ、お姉さまはこの機に自由を満喫するおつもりらしい」
「本当ですか?」
「半分本当ですわ、だって私はフォルダンの妻となり北方の魔族領と交流しなければならないのですもの、魔王国を見て回らずして交流は不可能ですわ」
「たしかに…」
「すでにおいしそうな果物を見つけましたのよ、あれはわがマルソー領でも生育できるはず…」
「ということらしいな」
「ああ、農産物ですかなるほど」
既にいくつもの領地を持ち、それらの領地から取れる農産物を王国中に流通させているアマンダ。
婚姻が済めばマルソー領の農業改革がどんどん進んでいくことになるだろう。
そうなれば改革の余波は当然のことながら魔王国へと波及していく。




