サザラード邸の夜
サザラード邸の夜
魔王との試合を明日に控えたロディトルサザラード魔公爵、すでにいくつかの作戦は立ててある。
同じ竜魔族として遠い親族である現魔王との試合、勝てば魔王が入れ替わるのだが。
彼は下剋上の儀をするにあたって2つの道具を用意していた。
その一つが魔剣と言われている武器、北の山脈から取れる邪眼魔鉱石をダークマタと言われている未知の金属に混ぜて作成した。
ドワーフ工房謹製の最高級武器。
その名も天王剣ウラヌスソード、振るたびにその軌跡が残り敵の攻撃を阻むという。
振るわれた剣の軌跡に触れると爆発し敵の侵攻を防ぐという。
「これさえあれば魔王の攻撃など恐れることは無い」
「さようでございますね」
「コンコン」
「父上、お呼びでございますか?」
「うむ、明日の予定は開いておるか?」
「はい」
「お前も明日の試合を見に来るが良い、まあ勝つに決まっておるがいずれお前も魔王となるかもしれないからな、参考ぐらいにはなろう」
「かしこまりました、必ず見に行きます」
「なんだ、顔色が悪いな」
「このところ訓練が続いておりましてそのせいでしょうか」
「あまり無理はするなよ」
「はい父上、失礼します」
ミストルは先日のことを考えると我慢が出来なかった。
マーシャから放たれた魔法を受けてその威力から分かった事。
マーシャが放った土属性の拘束魔法はかなり手加減していたのは明らかだった。
それでも身動きができないぐらい強力で、瞬間移動魔法を使用してその場から逃げていなければどうなっていたことだろう。
あの場で拘束されたとしても死ぬことは無かっただろう、だがこちらの作戦を知られると後々の計画に支障をきたしてしまう。
本来ならば父が魔王に挑戦するよりも早く、自分自身が強くなって魔王に挑戦したいと思っていた。
だがこのままでは魔王どころか自分の地位すらも危うくなっていきそうだ。
まさか隣の王国に自分よりも強い王族、しかもその容姿は今でも目に焼き付いている。
それは人として完全完璧な美を表していた、まるでおとぎ話に出て来る姫様そのもの。
現在の自分の姿も負けてはいないと思っていたが、魔族と人の最大の違いはやはり角があると言うことだろう。
ミストルの頭にはすでに五センチ程度の角が2本生えており、父の頭を見ればこの先もどんどん伸びていくに違いないことがわかる。
これは種族的なものだとは分かっていても、ヘアースタイルにはわずかなデメリットを感じてしまう。
生前の姿は男性だった為、今まではあまり気にしていなかったが、マーシャの姿を見てからは多少だが劣等感が生まれてしまったようだ。
外見でも力でも負けているという状態はミストルにとって許しがたいことだった。
だからあの後、連日修行と称して魔力と剣術の訓練を普段の倍以上行っていたりする。
もちろん魔族であってもその過酷な訓練を続けるとなれば、面に疲れが出ていても仕方がない。
「ミストル様」
「明日は皆で一緒に父の試合を観戦しましょう」
「訓練はいかがしますか?」
「明日は勝者の娘として紹介されるかもしれません、今日はお休みにしましょう」
「分かりました」
分かってはいるが、どうにも落ち着かない。
再びあの王女とあった時に戦うという選択肢が頭から離れない。
それが運命でもあるかのように、幾度となくシミュレーションを重ねては、敗れるシーンばかりが脳裏に現れては消えていく。
「あの者も来るかしら…」
「敵国の王族がでしょうか、魔王様も知っている可能性が高そうです」
「探りを入れましょうか?」
「いいえ、もし明日出会ったとしても勝てるシーンは浮かばないわ、敵意を出さずに接触して相手の出方を探った方が得策だわ」
「私もそう思います」
「ならば食事が終わったら早めに就寝しましょう」
「はい」
元エルフ族第三王女カーリナ・フォレスト・エルブーン、そして侍女であり護衛を担っていた元エルフ族アマゾネス部隊隊長モーリン・フルフォーム。
彼女らは魔王国において奴隷商に捕らわれていたところ、ミストルが身請けしたことにより現在はミストルの侍女として召し抱えられている。
階級はまだ奴隷と同じだが、現在エルフ族は奴隷という肩書でなければ大手を振って外を歩けない。
ダークエルフ族の策略によってエルフ族は種族ごと奴隷階級に落とされたからだ。




