本日の宿
本日の宿
ホテルホースサイド
馬車は街に隣接した厩舎まで運ばれる、そこで飼葉を食べながら明日の旅へと休むのだが、この地区は馬の生産で有名な土地柄。
今回馬は一時この町の馬主商会で私たちが帰ってくるまで預かり、明日以降の旅で使われる馬はこの地区特産の元気な馬と交代される。
これは公爵様からの配慮が大きいが、特にこの後街道は道路状況が悪くなっていくため。
脚力のある若い馬に変更した方が良いだろうという判断からだ。
本日の走行距離は250kといったところか、道路状況も悪くなかったので初日はやや多めに進むことができたが明日からはその限りではなくなる。
次の宿泊地はホブルート領トルド町、途中2つの街と村を通過するが2つとも宿や休憩施設は無い小さな村なので立ち寄ることはない。
「姫様こちらです」
「いらっしゃいませ、店主のカーマインと申します、お部屋は4つ2~3人部屋となりますが一部屋4人までのご利用が可能でございます」
ワラニー町にはいくつか宿屋があるがこの宿が一番大きく外観もホテルに近い、3階建ての建物が2棟あり、1棟で収容人数は60人計120人まで宿泊できる。
部屋に案内されるとそれぞれの部屋割りを決めることになった。
マーシャ、クレア、フラン、リリアナ
シャーリー、ミミー、チャッピー、ロジー
アルバート、ロッド、ジョシュ
カバネル、トッド、テンマル、ジョルジョ
チャッピー・コールマンは今日だけこの宿に泊まるが明日は次の町で実家へと帰ることになっている。
2階の奥から2番目の部屋に4人で入ると、中にはベッドが2つだが一つのベッドがクイーンサイズ。
通常のベッドの2倍はある、部屋の広さも申し分ないので節約すればこの部屋だけでも8人は泊まることができるが。
王女という立場上あまり庶民的な振る舞いもできない。
まあそれでも今回の旅は最初に庶民レベルでと言っておいたので、振り返ってみてもそれほど仰々しくは感じなかった。
「姫様はどこで魔法を?」
部屋に入るとすぐにリリアナがマーシャに質問を投げかけた。
彼女はマーシャに挑戦して負けてはいるがそれは彼女の予定通りというところだろう。
将軍の娘ではあるが次女という存在、もうすでに許嫁までいるという、今期の成績いかんでは実家へ帰り嫁入りの準備が進められるという。
リリアナはこのチャンスを逃すわけにはいかない、マーシャに気に入られ外の世界へ出ることができれば、子供のころの夢をかなえることができるかもしれない。
「わらわは、ほとんど魔法書からの受け売りじゃ、特別な魔法師に師事したわけではないぞ」
「ですが・・爆裂魔法や操作魔法は中級というより上級魔法ではありませんか?」
「そうなのか?しらなかたったぞ」
「リリアナ様、たぶんマーシャ様は魔法を創造できるスキルをお持ちではと思います」
「えっ!」
「クレア、あまりその話はしない方が良いぞ」
「も 申し訳ございません」汗;
「本当なのですか?」
「嘘とも本当とも言い難いな、わらわは別に魔法の創造は誰でもできると思っておるからな」
「いえいえマーシャ様それができれば苦労はしません」
今度はフランが話し出す。
「魔法は初級でさえふつうは使えるのがやっとです、それは魔素の含有量が関係してきます」
「マーシャ様のように魔力量が大きくないと魔法を作っても実行できません」
「確かに作れても使えなけばどうしようもない・・・・」
「リリアナは結構魔力量が多いから魔法の創造に向いておると思うぞ」
「そうでしょうか?」
「土魔法と操作魔法を同時に行うのはわらわでも難しい、相当練習したのだろう?」
「属性魔法の適性が分かってからは土いじりばかりしてきましたから」
「約10年ぐらいか?」
リリアナはマーシャの言葉を聞いて驚いた、リリアナは公爵家の習わしで5歳の時魔法の適性検査を受け土属性の魔法にかなりの適性が見られた。
それを聞いた父であるビルシュタイン・シュローダー、現魔真隊将軍はリリアナに特訓を課した、もともと魔法が好きな性格を持っていたため、家庭教師の教えをどんどん吸収し10歳になるころにはゴーレム創造と操作、それと緑創造魔法の中級をほとんど覚えてしまった。
さらに5年がたち今その魔法も佳境に入っているが、問題なのはそこから先だ。
土魔法は上級魔法になると大地創造や楽園(一瞬で巨大な花畑を作る)などという大魔法まである。
そのどれもが莫大な魔力量を使用するため、1人で行う魔法ではなく10人以上で行う魔法がほとんどだ。
「さすがです、10年間必至に勉強してきて負けたのです」
「お~それは悪かったな」
「それは良いのです、上には上がいることはわかっておりますので」
「マーシャ様はわがシュローダー家とマーシャ様のお母さま第2王妃様の実家であるオースティン家が昔10傑としてともに魔族と戦かったのはご存じですか?」
「前に侍従長から聞いておる第2王妃であるわが母の親にあたるおばあ様とシュローダー家の現当主の母親は戦友であると、教えてもらったことがある」
「わがシュローダー家は魔法に秀でた家系で先祖代々王族に仕えてきました、父もそうですが私もそうなりたいと願っております。ですがこのままですと私などマーシャ様のおそばにいても何の役にも立ちません、ですからわたくしもマーシャ様のようにもっと魔法を極めたいと思っております」
「心配しなくても妾といればおぬしの魔法もどんどん上達するぞ」
「本当ですか?」
「まあわらわのしごきについてこれればだがな」ニッ*
マーシャは今まで剣術の師範はこなしてきたし教えることもかなり上達したが、魔法の師範はせいぜいフランに教えるぐらいでそこまで本格的に教えてはこなかった。
魔法は剣術と違い自己の持つ資質、魔法量がすべてのカギとなる。
向き不向きもあるが、魔法量がたくさんあればほぼどの属性の魔法も使えるようになる。




