ハンクル公爵ベノム城に帰還
ハンクル公爵ベノム城に帰還
ここはベノム城、言わずと知れた吸血鬼の住む居城であり。
先日マーシャの手によって神に召されたグラッダジョーバリンのいた城である。
そして本日1年ぶりに本来の城主であるハンクル・ヴェノム・ジョーバリンが無事に、Aクラスダンジョンであるバハムートダンジョンの攻略から帰還した。
「誰かおらぬか!」
「城主様おかえりなさいませ」
「グラッダは?」
「副城主様は王国の第三王女、マーシャ姫殿下によって粛清されました」
「?なんだと」
「この気配…」
「はいベノム城は現在王国の第三王女マーシャ殿下の配下になっております」
「お前は配下化されていないのか?」
「数人は城主様がおかえりになることを見越して命令だけを伝えさせているようです」
「全員ここに連れてこい」
「かしこまりました」
そしてこの状況がとてもまずいことを知ってしまう。
「奴隷化を解除できないだと…」
「我らはマーシャ殿下の配下となりましたが、敵対しない限り戦うべからずと命令されております」
「それはどうして!」
「我らはもともとは吸血族です、奴隷となったとしても王国へは連れていけないと言われました」
「それで?」
「そのうえでベノム城の管理をそのまま続けよとのお達しです」
「では私に逆らってもよいと」
「いいえ、そのまま城主様の言うことを聞いて構わないと」
(あの娘何を考えている…)
「グラッダはどうしてやられたのか知っておるか?」
「返り討ちにあったとか…」
「詳しくは知らぬのか?」
「主様、直接お話になられた方がよろしいかと思います」
「シュン!」
「呼んだか?」
「小娘?」
「無事攻略できたのか?」
奴隷化を行った際にベノム城で変化があればすぐわかるように魔法をかけておいたマーシャ。
1年以上経って目の前に現れたのは少女の姿ではなく、美しく成長した仮想敵国の姫。
ハンクルから見たら仲間に引きこみたいほどの美貌を持つ、前回見たときは小生意気な少女だったはずなのだが。
その姿に見とれて一瞬言葉を失ってしまう。
「…う 美しい」
「そうか?美しいか、妾も気に入っておるが、おぬしもそう思うのかなるほど…」
「そうではない、聞きたいことがある」
「ああ どうしてこうなっているのかじゃな」
ということで今までの事を話して聞かせると、吸血鬼の親玉はため息を一つ吐いた。
「グラッダが勝手な事をしでかした責任は私にもある」
「それは妾からは何とも言えぬな、いない間に勝手に配下化したのはグラッダの居場所をなくすため、この状況がいやならばもとに戻してもよいがどうする?」
「戻すだと!」
(この娘本当に何を考えておる)
「ただではないのだろう」
「それはおぬしの考え方によるが?」
「何をしてほしい」
「邪神の手先を教えてほしい」
「…」
邪神の手先、長い年月を吸血鬼の親玉として君臨しているハンクル、何か知っているはずだと思ったマーシャだが。
もしもハンクルが邪神の手先ならばマーシャがベノム城を乗っ取った時点でダンジョン攻略から帰城していたはず。
だから彼は邪神の手先にはなっていないはずなのだ、昨年末の北の砦襲撃事件の際、彼と戦ってみて誰かに操られているようなそぶりは一切なかった。
ならば100年以上この世界に存在する人物、自分以外の敵となりうる勢力であれば何かを知っている可能性がある。
「断言はできないがガリアナ魔王国の中部と西部に居城を構える公爵家はほぼ邪神の手先になっている可能性がある」
「それはどうしてじゃ」
「年に一度魔公爵以下魔貴族が集まる行事がある、その時に感じたことがある、あれは他の神いや魔族の気配ではなかった」
「そういえばグラッダも邪神の手先になっておったぞ」
「本当か、あやつ馬鹿なことを」
「どうする?」
「何をだ?」
「どうせなら一度立ち合うか?修行してきたのだろう」
魔族のほとんどは自分より強いものにしか従わない、別にハンクルを傘下に着けようなどとは思っていないマーシャだが、彼が他の邪神の手下にそそのかされて敵になられても面倒くさい。
ならば仲間になれとは言わないでも友好関係を保っていれば、邪魔はされずに済むという考えだ。
2年前マーシャに負けたハンクルだが1年間のダンジョン修行を経て、どこまで強くなっているだろうか。
「フフフ、そうかまだそのようなことを抜かすか小娘」
「そのための修行じゃろう、どうせならばその力を試してみるのも一興じゃ」
「いいだろう、ならば試してやろう新たに得た力を!」
連れていかれたのは訓練場のような広い場所ではあるが、吸血鬼の選んだ場所だ、日の光はほとんど入らない。
以前マーシャが教えたことがある、そこは彼にとって有利な場所であり、そこは彼の戦いやすい場所に違いない。
ベノム城の地下に存在する大きな地下空間、数千年前からその場所は存在していた。




