奴隷売買
奴隷売買
アルフレア王国の武術魔術大会が終わり、翌日には全員が普段の生活へと戻っていく。
ある者はこの成果を大いに喜び、ある者は自分自身と今一度向き合う機会を手に入れた。
どちらにせよ大会は腕試しとしては良い行事であったのは事実。
そして同時に暫定敵国(現在は友好的)の内部事情も垣間見ることができた。
「ご主人様武具やドレスのオーダーが…」
「こうなることは分かっておったが、今何着オーダーを受け付けておるのだ?」
「もう300を超えています」
「よし一度締めきっておくように」
「かしこまりました!」
300着、その中にはマーシャに指名オーダーを頼んだものも含まれている。
その数だけでも50着は超える。
1着の代金は金貨70枚(大金貨100枚が最高値)、大会後の指名オーダーは値を吊り上げておいたが、それでも注文する者が後を絶たないのだから、ものすごい人気だと言える。
現在マーシャが請け負う予定のバトルドレスは50着、全部仕上げるのに最低1年はかかる。
そしてマーシャのメイドたちにもバトルドレスのオーダーが来ていたりする。
「フロウラが20着ダーラが25着、リリアナとフランがともに10着、ジルとカユーラにも指名で7着の依頼が入ったのか、これでは店や学院の寮では作業できぬな」
「はい、そのことでご相談が」
お針子の募集も増やし店もすでに2店舗目を目抜き通りに出店することになっている。
だが店だけでは広さがどうしても足りない、合計300着ものオーダーをこなすには作業場を兼ねた工場を手に入れないと作業がはかどらない。
「マーシャ様、工場予定地確保できました!」クレア
「おー、どこじゃすぐにそこへ行くぞ」
「こちらです」
王都の端に聖ロマール教会の聖堂がある、そこはかなり広い敷地を有しているのだが。
隣接している土地が最近になって売りに出されていた、旧ミッチェル侯爵邸跡地。
先の魔族が砦に侵攻してきたとき魔族側と組んで王国に反旗を翻し国賊となった貴族。
彼の領地は北北西にありフォルダン・マルソー准侯爵の領地の隣である、現在は王家が管理しているが。
この場所は他の貴族に売却するか、それとも手柄を立てた貴族に下肢することになっていたのだが。
王様からのお達しで、これらの土地は大会の功労者であるマーシャに優先購入許可権が出ていたりする。
「こちらです」
「広さも申し分ないな、中は改造するとして…」
「だれだ!」
屋敷を外から見ていると中から男性の声がする。
「マーシャオースティンアルフレアじゃ、売りに出ておると言われて見に来たのじゃが」
「この屋敷は枢機卿が買い取るはずです」
「ん?」
「そんな話は聞いておりませんが」クレア
「ふぉふぉふぉ」
「そちらは?」
「わが名はカーマインコロンバンマーキュリス聖教会の枢機卿が一人」
※枢機卿とは聖教会に使える貴族であり、通常の貴族でいう侯爵位と同じ位であるが、その権限は聖教会の聖神父と同等に例えられている。
(要するに王族であっても邪魔をすると聖教会に敵対していると思われる可能性がある、非常に面倒な人達)
「第三王女のマーシャじゃ、中を見せてもらうぞ」
「あーまてまて、すでに我が屋敷となっておるのでそれは出来かねる」
「では王様にその旨ご報告いたしますが?」
「え!」
「もう購入代金は支払われたのであろう?」
(まさか?カーマイン様)
(払っておるわけがないだろう)
(じゃあどうするのですか?)
「もうお金は払って居るが、記載漏れでもあったのではないのか?」汗
「真実の口!」
(これで嘘はつけぬはず)
「払っておるわけないだろう、お前みたいな小娘は引っ込んでおれ!」
「それが答えか?」
「な!」
「不敬罪というのは知っておるか?そして偽証罪と詐欺罪じゃな、このまま通すなら罪には問わぬが、それでも邪魔をするのなら聖教会の重鎮だとしても許さないとだけ伝えて置くぞ、どうする?」
「あはははは、間違いは誰にもあるものだな執事」
「なぜ私に、そうでした間違っておりました、この屋敷は今見に来たところでございます」
(わたしのせいですか!)
「私どもはこれにて退散いたします」
「ささ どうぞ」
小者臭が漂う雰囲気にマーシャはやれやれという感じだが、どうやら屋敷を私物化しているような感じだが、まだ荷物の搬入などはしていない様子。
もしかしたら売り出される前にお宝があれば手に入れてしまおうといった感じか。
「まったく油断も隙も無い、枢機卿がコソ泥のようなことをするとはな」
「あきれてしまいますね」
「早めに対応できて良かったのかもしれぬな」
「では中を見て回りましょう」
メイド館から新人のメイドも2名ほど参加してもらい、合計4名でこの屋敷の探索をすることになった。
旧ミッチェル侯爵邸、魔王国側から様々な金品や宝石などを受け取っていたという報告を受けている。
ということはこのお屋敷のどこかにまだ財宝などが隠してある可能性がある。
多分カーマイン枢機卿はそれを狙って先に侵入していたと思われる。
「マーシャ様、秘密の部屋を発見しました」
「なんと、今行く」
それは階段の横にある2メートルほどの空間、2階建ての屋敷には10室以上の部屋があり。
このまま宿泊施設としても使用できるような作りだが、階段の裏側に不要な空間が見つかった。
「この向こう側じゃな」
「どこかに仕掛けなどがありそうですが」
「ここか?」
木の板が少し取り付けが甘いのかちょっとしたガタツキが見えていた。
その木の板をずらすとそこには鎖のような取手が見える、もちろんマーシャはその取っ手を引いてみた。
「この鎖を、引っ張って こちら側じゃな」
「ガラガラガラ」
階段のある壁際には、不必要に出っ張っていた鉄の棒が壁からU字型に飛び出ている、そこに鎖をひっかけると手前の壁が下がったままになり。
その奥には空間があり階段のようなものが下へと伸びている。
「おぬしは誰も入れないように入り口を見張っていてくれ、ついでに…」
(フレアを出しておこう)
《あるじ~》
《久しぶりじゃな》
《もっと遊んで下さいよ~》
《すまぬな、暇がなくての~》
《うえ~ん》
《分かったから、今度沢山遊んでやるから》
《嘘は無しですからね~》
《分かったぜったいじゃ》
《わーい、それで今日は何か御用ですか?》
《小竜に変身してここをクレアと一緒に見張っていてほしいのじゃ》
《は~い》
「こ奴と一緒で構わぬか?」
「はい十分です、よろしくね」クレア
《は~いよろしくです~》
メイドと小竜フレアに見張りを任せて隠し部屋の奥へとマーシャは進んでいく。
「アクアも出しておくか」
「お久しぶりです」
「小竜に変身してナビを頼む」
「かしこまりました」
魔法の灯りが所々に設置してある、壁の奥へと続く階段を下がっていくこと約5分。
階段は思いのほか長くそして地下へと伸びていた。
「なんじゃここは」
「う~」
「あ~」
「うめき声!」
階段を下がり切った場所は少し開けた廊下のようになっており、壁も通路も全部石でできていた。
うっすらと魔法の明かりが灯る、マーシャは声の方へと歩いていくとそこは牢屋のような場所だった。
「何かおるな」
「おい」
「ん」
「おい返事をしろ」
「だれ?」
「扉が邪魔じゃ」
「開錠!」
「ガチャリ」
「ズズズズ」
そこは地下の牢屋、そしてとらわれていたのは魔王国にしかいないはずのエルフ族、それもハイエルフと言われている上位の種族。
「なぜこのような場所に?」
「エクストラヒ―ル」
「シュワー」
「うう」
「手枷に足枷も不要じゃ」
「バキンバキン」
マーシャはこの状況に怒りを覚えた、いつもならば魔法でカギを解くのだが、自らの手で魔法のかかった鉄の枷を全部粉々にする。
「ずいぶんやつれておるな」
「魔法で眠らされていたようです、それに胸のところに奴隷紋と不死の呪いがございます」
「なんじゃと」
先の戦争を回避した際、ミッチェル侯爵は2か月後に廃爵されて現在は牢屋に収監中。
そうなるとすでに1年近くこの場には誰も立ち入っていないことになる、それでも生きているのは不死の呪いの効果ということになる。
「グラッダの仕業か…」
「不死族の魔法です」
「どうじゃ立てるか?」
「どなたかわかりませぬが、このまま死なせてください」
「それは出来ぬ、おぬしにこのようなことをした者をあぶり出し、罪を償わせなければならぬ」
「あなたは…」
「王国の第三王女じゃ、決して悪いようにはせぬ、妾に任せてくれぬか?」
「女神様…」
「ガクッ」
「気を失ったか、呪いを解くとすぐに死んでしまいそうじゃ、先に運び出そう」
「主、他にも捕らわれている者がいます」
ハイエルフだけではない、その牢屋にいたのは珍しい魔族や妖精族など10人近くが不死の呪いと共に奴隷として捕らわれていた。




