午後の試合
午後の試合
午後の授業が終わり早くも放課後が訪れる、そしてマーシャの本日第3試合が始まる。
【さー第3試合の始まりだよ~第3試合はまず剣術だ~】
放課後第3試合
マーシャ・オースティン・アルフレア 7歳 王家三女
VS 剣術
テンマル・オーバス 14歳 侯爵家次男
アナウンス嬢も昼食後の試合とは違い今度はコケティシュな声の持ち主に変わっている。
【まずは本日3回目出場、第3王女マーシャ様の入場だゾ~~~】
【対しましては侯爵家次男、テンマル・オーバス14歳、若干14才ながら剣術の腕では先生もお墨付きだぞ~~、そして審判は引き続きMrコッドが担当するゾ~】
「魔法は最初の防御魔法のみ、途中で使えば即負けでいいな!」
「よいぞ」
「ああそれでいい」
「はじめ!」
テンマルが取った型は剣術と言うより居合い術に近い、構えは剣が鞘に入っているような姿勢で前を向き半身に構える。
そして相手を待ち構える形。
【あの構えは得意の居合術だぞ~】
「うむ居合いか、それではこちらも少し戦い方を変更するか」
そう言うとマーシャはテンマルの左、左へと動き始める、テンマルは左足を前に出している為その形から左に回り込まれた場合の、攻撃に対する防御は物理的に少し困難となる。
居合いの良いところは相手の初撃を最速で躱わせる所だ、そして初撃を受けまたは躱し相手よりも早く二刀目を叩き込むことが居合の極意。
2人は数秒お互いの様子見をすることとなった、マーシャは相手の左へ左へと回り出す。
そして相手がいらだち始めたところを見計らって今度は相手の周りを右方向へと動きを変更し、相手からの攻撃を誘う。
この時を待っていたのだろう、テンマルは一気に間を詰めてきた。
(ズシャ)土を蹴る
(シュ!)
(カンッ!)
【素早い攻撃一瞬もみのがせないぞ~~】
その一撃は双方の木剣から甲高い音を響かせた。
そしてテンマルが下段からの打ち払いに合わせるように、マーシャは斜め左から振り下ろす剣、両者の剣がせめぎあう。
マーシャの剣圧に負けたのかテンマルが少し体を引いてしまう、マーシャはするりと身を低くしテンマルの剣を受け流すと同時に足を払った。
(シュ!)
「わっ!」
(ズン)
テンマルが足を払われバランスを崩し真後ろへ倒れると同時にマーシャは剣の持ち手をくるりと返すとそのままテンマルの心臓の位置へ突き下ろす。
テンマルが倒れたと同時に土煙が上がる。
(ブワッ)
テンマルは空を見上げたまま倒れているそしてマーシャが逆手に持った剣先をテンマルの胸へ突き下ろす姿を見て勝敗が決する。
【きまったか~~】
「勝者マーシャ様」
【決まった~~~!マーシャ様今回も危なげなく勝利を決めたゾ~~~】
マーシャがテンマルの手を取り立たせる。
「姫様どうしてあの形の弱みを知っていたのですか?」
「居合いとは最速の追撃じゃ、相手の初撃をつぶし2の太刀を先に入れることで勝利を手にすることが出来る。だがそれを解っている者には通用せぬ、逆に初撃をつぶしてしまえば2の太刀を先に入れることが可能だ。」
【これで3連勝、姫様今期も負け知らずだぞ~~】
居合い、その一太刀目は下から上または横への打ち払い、それは上からの打ち下ろしより下からの打ち払いの方が腰を入れ力を沢山かけることができるからだ。
当然真剣で勝負する場合居合いは日本刀または片刃の剣が必須になる、それは下からのかち上げ時、腕や肩を剣の下支えとして使うからだ、両刃の剣だと自分も傷ついてしまう。
居合いは剣が鞘に入っていることで剣の方向を隠す意味合いもあるが、鞘が左にある以上左からの打ち払いと言う剣筋は変わらず、それを知ってしまえば後は力でつぶすだけでいい。
「それに剣は体術あってこそじゃ、わらわがもし体術なき場合足払いは無かったじゃろう」
「剣の位置や動きを良く見て相手の弱みを攻めることこそ勝利の道じゃ」
「あ 有難うございます」
テンマルは頭を下げ礼をすると、すがすがしい顔をして立ち去って行った。
【さ~~~次は本日のメインイベント~待ちに待った魔法の試合だゾ~~~】
放課後第4試合
マーシャ・オースティン・アルフレア 7歳 王家三女
VS 魔術
リリアナ・シュローダー 14歳 公爵家次女
【第4試合今度は魔法の試合だ~対戦相手はリリアナ・シュローダー、今期魔真隊の将軍ビルシュタイン・シュローダー家の次女、なんと彼女は土系魔法のゴーレムを得意としている、この試合はこの15歳クラス魔法のスタンダードとなるかもしれないゾ~。みんな~みのがしちゃだめだぞ~~】
【第4試合は魔法の試合の為審判も変更するぞ~第4試合審判はアルバート先生だゾ~】
「魔法の試合は魔法具を一つ所持する事を認められている、杖または魔法書、クリスタルボールの所持が一般的だがどうする?」
「わらわはこのまま何もいらぬ」
「私は魔法書を使用します」
「了解、魔法での試合は魔法のみ相手にダメージを与えたポイントにより勝敗を決する、その為一応ポイントの積算魔法を二人にかけさせてもらうが良いか?」
「よいぞ」
「はい」
「では汝の魔法ポイントを積算せよ、ターゲット・カウンティングポイント」
【なんと姫様はフリーハンドだぞ~】
先生がそう宣言すると2人の体が淡く光り数秒でその光も収まった。
「勿論自分のMPが全て無くなくなった場合も試合終了となる、ではお互いに礼」
2人は見合って礼をすると魔法の詠唱を始めた。
「われ大地の精霊に創造の力を授けん、サモンゴーレム!」
「おーなかなか良くできておるな」
【なんとリリアナでっかいゴーレムだぞ~、これは早めにつぶしちゃおうとでもいうのか~姫様ピンチだぞ~】
マーシャは無詠唱で殆どの魔法をかけることが出来る、すでに防御魔法とバリアは展開済み。
魔法の試合は始めてのため、今回は試合運びや相手の出方を見ることにした。
リリアナの作ったゴーレムは高さ3メートルの丸みを帯びた土の人形だ、土系の創造魔法と同時に操作魔法を使うため、MPはマーシャと同じぐらいないと数分でMPが枯渇する。
リリアナはたぶん短時間で勝負を決する考えなのだろう。
ゴーレムがどすどすと言う地響きを伴いこちらへ走ってくる。
そしてマーシャに激突!がしかし、バリヤによるガードで約1メートル手前で止まる。
(ドンッ!)
(ドンッ!)
ゴーレムがバリアを壊そうと障壁をたたくがなかなか壊れず、その間にマーシャが魔法を詠唱する。
「ミニマムエクスプロージョン!」(極小爆裂破)
マーシャの魔法攻撃爆裂魔法の最小版、わざと詠唱してみせたがそうしないと何で土人形が壊れたか見ている観客にはわからないからだ。
マーシャの魔法でマッドゴーレムは粉々になってしまった。
マーシャは粉々になった土の塊を使い攻撃魔法を詠唱する。
【なんとここで爆裂魔法、マッドゴーレム派手に爆散したぞ~】
「マッドバレット!」
壊れたゴーレムのかけらを再利用し弾丸にして飛ばした、まるで散弾のように。
(ババババババッ!)
(ドドドドドドドッ!)
(パリン)(なんで!)
リリアナのバリアが壊れた。
さらに追撃の攻撃をするマーシャ!
「マッドスティンガー!」
今度は自動追尾タイプの弾丸、数は一つだがバリアがないので当たればかなり痛いダメージを食らう。
【リリアナ選手もうあとがないぞ~】
「え~~うそ!」
迫り来る親指大の弾丸を見て逃げ出すリリアナ。
すでにバリアを張る魔力は残っておらず、できるのは最後の攻撃1回のみ。
リリアナは逃げながらも起死回生の一発を狙っていた。
「マッドストーム!」
リリアナの最後の攻撃、いつの間にかマーシャの頭上に土で作った弾丸を展開し合図一つで雨のように真上から降らせる攻撃、のはずだったが。
攻撃の時は立ち止まらなければ集中できず、両者は立ち止まり向かい合う。
【これが最後の攻撃か~まるで土砂ぶりだぞ~】
(バババババババババババッ)
(パシッパパパパパシッ)
「それっ!」
(ドンッ!)
リリアナの攻撃が降り注ぐと共にマーシャのスティンガーがリリアナのおなかへ突き刺さる。
リリアナの攻撃はマーシャのバリアにより全てはじかれてしまった。
「グハッ!」
「勝者 マーシャ様」
【この試合も第三王女マーシャ様の勝利ダゾー、すごい攻防なんという魔力量】
【マーシャ様は収支後手に回りましたね、相手の出方を見て対応できるのも、魔法の知識に長けていないと出来ないことです】
【そうですね魔力量、知識、技術どれをとっても数段上をいくとは恐れ入りますゾ】
「ヒール」
「どうじゃ立てそうか?」
「あ 有難うございます」
【対戦者も良く戦った、2人に拍手を!】
(パチパチパチパチ)観客席から盛大な拍手が2人に向けて贈られた。
「うむ良い試合だったな」
「ハイ勉強になりました」
マーシャは後出しだが、後出しが出来るのは全てを知り尽くしているからに他ならない。
もしマーシャが土魔法を知らず火魔法だけなら、ほぼ負けてただろう、火魔法は土魔法で簡単に防げる。
そして相手が土の採取に魔力を使ったため、こちらは楽に土を再利用することができた。
たぶん魔力の使用量はリリアナのほうが多かったはず。
土の収集そしてゴーレムの操作、バリアに使った魔力量はマーシャの半分に満たないのだろう。
リリアナは殆どの魔力量を土の収集と操作に使ってしまったのだ。
マーシャのミニエクスプロージョンは空気の圧縮、風魔法の一つだが、それを極小の塊にしてゴーレムの内部で作成、バリアでガードしながらの風魔法、小さく作ればその魔力量は小さくて済む。
だが圧縮空気の量は相当の密度だったはずだ、高さ3メートルはあるゴーレムが吹き飛ぶのだから。
魔力量だけでなく魔力の質にも重点を置いた使い方、そしてスティンガーという自動操縦のミサイル。
本来ならば弾頭は爆裂式にするのだがバリアが無い敵に対してそこまでの攻撃はオーバーキルもいいところ。
本気でやったらリリアナは本当にばらばらになっていたことだろう。
魔力量を見せ付けるために極大魔法を放つのも面白そうだが、相手は子供 自分も子供だが、そこまでの威力は返って先の事を考えると悪手に近い。
まだまだマーシャは色んな相手と試合をしたいと思っている、そうしなければ下僕を量産できないし、もしかしたら自分の知らない魔法を見ることができるかもしれない。
こうやって交流を重ねれば、何かのときに頼みを聞いてくれる仲間を作れる可能性は高い、作り方が少し強引だが、それでもこの立ち位置だからこそできることもある。
大人になってからではこうは行かないし、何より試合が死合いになってしまうからだ。
「さあ皆さん又明日会いましょう」
すでに午後5時を回り、空は青色から茜色へと変化していた。
「ではこれからおぬしもわが従者でかまわぬな」
「はい覚悟しております、何なりとお申し付けください」
リリアナはわざとではないがこうなる事を狙ってやったような節がある。
リリアナの父親は現将軍、魔真隊のビルシュタイン・シュローダー。
シュローダー公爵家の次女、彼女 実はすでに許婚がいたりするが、それは親からの命令であり。
彼女自身はもっと外を見てみたいし縛られたくないとも思っている。
だがこのまま学院を卒業するだけでは20歳を待たずに嫁入りが決まってしまう。
お相手は伯爵家だが長男なので婚姻後は家に入り外へ出る事は二度とできなくなるだろう。
結婚が自分にとって悪いことなのかどうかは分からないが、このまま運命を人任せにしてしまうことに不安と疑問しかないのは事実。
そこへ降って沸いたチャンスだった、姫様の従者になれれば・・・
マーシャ様は他の姫様とは違い活発で頭脳明晰、さらに剣技にも優れていると聞いている。
かりそめの従者などではなく、学院卒業後も従者を続けられれば公爵家の次女と言う肩書きを捨てて外の世界を見ることが出来るかもしれない。
リリアナはこの時マーシャが冒険者になろうと思っている事など全く知らなかったのだが。
その考えがずばり当たっていたのだからなかなか勘が鋭い女子だった。
このような日が数日続き、一時はこのまま卒業まで平穏な日々が続くのかと思われたのだが。
約一月後北の砦から東へ100kの村で異変が起こっていた。




