グラッダの罠
グラッダの罠
マーシャは衛兵からの報告を受け、すぐに魔王国へと向かう。
昨晩訪れた魔法学園の奥にある聖堂の外に転移すると、昼間の魔法学院には魔族の生徒が沢山いた。
「シュン」
「昨晩の教師に会うのが一番手っ取り早いのじゃが…」
「君は誰?」
昼休みなのか聖堂の近くには椅子もあり外で軽食を取る魔族の姿がちらほら、そこへ転移して来たマーシャ。
昼間の魔法学院へと転移すると言う事で、頭にはコスプレで使用する変身グッズ、竜人族の角を付けていたりする。
ちなみに一応魔道具なのでバフが掛かっていたりする、マーシャのオリジナルだ。
「ロキシーを探しているのじゃが?」
「皇女様のこと?」
「本日はいないですよ」
「彼女は王国の大会に参加しているのでは?」
まあそこまでは誰もが知っているところ、それはマーシャにも分かっている。
「ではラプトル先生のおられる場所は知らぬか?」
「あなたは学院の生徒なの?」
「あ~本日ここに見学に来たのじゃが、担当の先生が…」
「ラプトル先生が案内して下さるのね」
「そういう事じゃ」
「確か先生は2時限目の用意じゃないか?」
「それなら先生は教員棟にいると思うわ」
場所を教えてもらうとマーシャは何食わぬ顔でラプトル女史のいる建物へと向かっていく。
少し年季の入った石組とぬりかべ、そして木材を使用して作られたであろう2階建ての建物。
サーチ魔法でそれらしき人物を探る、昨晩鑑定魔法でラプトル女史の素性は判って居るので、それと照らし合わせればすぐに居場所がわかる。
「2階の奥か…」
教員棟の作りは王国より少し頑丈に作られているようだ床は全て石作り。
階段は木製だがその基礎は全て石材なので、大柄な竜人系魔族がこの階段を使ってもびくともしないだろう。
「ここじゃな」
「コンコン」
「誰ですかこの忙しいときに!」
「忙しい時に済まぬな、昨晩お目にかかった王国の第三王女じゃ」
「入りなさい」
何回見ても思い出すのは高校に通っていたころの女性教諭そっくり。
(まさか先生も亡くなってるとか・・・ナイナイあれはそんな玉じゃない)
「昨晩お目にかかった第三王女のマーシャと申す」
「王国の王女が何の用です?」
「ロキシー殿下がここへ来なかったか?」
「皇女殿下ならすぐに帰りましたが」
(そんなわけないのだが…)
「あ…こんなところに手紙が…」
「何?」
(マーシャ様へ?思い出した)
「そう言えばロキシー皇女殿下が手紙を置いて行ったわね、第三王女マーシャ様宛てと書いてある、いつの間に…」
作られた記憶、ラプトルはあの後ジョーキの魔法で記憶を改竄された為。
ロキシーに反省文を書かせたところまでしか覚えておらず、その後は帰ったと言う事になっている。
だが確かに彼女が手紙を書いてテーブルの上に置いたと言う記憶だけが残っているのが不思議だった。
「頂いて宜しいか?」
「良いわよ、用が済んだなら良いかしら、私は忙しいのよね」
「バタン」
お礼の言葉を告げる間もなく追い出されてしまった。
教員棟から外へ出ると一度先ほど訪れた2階の部屋を見上げ、そして手に持った手紙の封を開ける。
中には魔法の文字で書かれた文章が。
「拝啓マーシャ様、私はサザールダンジョンへ特殊な薬草を取りに行くことになりました、場所はここです」
文章を指でなぞるとその場所の情景が目の前に写る、まるでこの場所へ来いとでも言っているようだ。
そこは海が見える岬の岩場、そして洞窟の入口が見える。
聞いていた魔王国にあるA級ダンジョンの一つサザールダンジョンの景観と一致している。
この手紙に書かれている文章が罠なのはわかっている、もうすぐ試合だと言うのに彼女が何で危険なダンジョンに出向かわなければならないのか?どう考えてもおかしいと思うだろう。
だが、それが罠だと判っていても行かない訳にはいかない、彼女が捕らわれていたとしてどういう仕打ちに合っているのかも分からないからだ。
「我が前にその姿を現せ、水龍剣!」
一応インベントリーからは魔法の言葉など出さずとも道具の取り出しは可能なのだが、それだとせっかく取り出したお宝の存在が小さく感じるので、取り出す時にはそれなりの言葉を当てはめてみた。
(ダーラにも言われたし、魔法を使う時はスペルを使用する方がいいのかもしれぬな…)
一応武器の類を出すとき限定の様だ、但し急いでいる時はその限りではない。
「お久しぶりです主、何か御用でしょうか?」
「龍に変身できるか?」
「幼生サイズに変身ですね、かしこまりました」
魔法で表示された情景と手紙に書かれた魔法文字により、転移することはできるのだが。
転移してすぐに罠へとかかる場合を想定して、マーシャは保険を掛ける事にした。




