剣術の部 カユーラVSジャベリン
剣術の部 カユーラVSジャベリン
既に5試合目に差しかかり次の順番になった変装したジャベリン魔伯爵。
勿論彼は魔族の中でもかなり武闘派で知られており、その力はロッドやカバネルよりは上だと思われる。
だが最初の相手がカユーラだとは運が悪かった。
「お お前は…」
「?どこかで会った?」
「いや なんでもない…」
(どうして暗殺部隊の隊長がここにいる、もしかして他の将軍が放った密偵か?)
カユーラの身分が魔王国の元暗殺部隊と言う肩書はこちらの王国内だけ、魔王国側では暗殺部隊から部署替えされ偵察の為に出向したという形になっていたりする。
この二人には面識がまるっきりないわけでは無い、数年前に部隊のあいさつで見かけていたりするのだが。
昨年の事件以降、他の部隊であるカユーラの動向など聞いたりはしておらず、まだ暗殺及び偵察の部隊にいると言う認識だった。
「カユーラビラット様、フランクリンマーキュリス様、試合会場へどうぞ」
フランクリンマーキュリスは伯爵家の父方に当る親族、ブレンダの叔父と言う立場なのだが、どうやら本来フランクリンが今回西地区のまとめ役で、武術の部で出場権を得ていたようだ。
ジャベリン魔伯爵はフランクリンに変装して乗り込んだらしい、だがその初戦でカユーラに当るとは運が悪い。
「用意が出来ましたら開始線まで下がってお待ちください」
じっと見ている魔伯爵、もちろんカユーラが敵の王国で何を探っているのか知ることが先決だ。
もしかしたら他の将軍達の足を引っ張ることになるのだ、まずは近寄って話を聞かなければ。
「用意は宜しいですか?」
「ああ」
「いいわよ」
「それでは始め!」
「ダッ!」
カユーラはもちろん相手が魔族なのは知っている、彼女も鑑定魔法ぐらいは使えるし。
腐っても元魔王国暗殺部隊の隊長である、魔王国で隊長職と言うのは貴族の男爵位と同等の地位にいるのとほぼ同じ。
敵魔族の伯爵位より下ではあるが、昨年は実際に王国での戦闘経験があるのだ。
その後無事に生きているのだから、通常何らかの褒賞を得て昇級している可能性もある。
そうなれば自分と同等の地位にいてもおかしくは無いと、ジャベリン魔伯爵は考えた。
「お前は魔王国の暗殺部隊にいたはず」
「そっちこそなんで変装してんのよ!」
「やはりばれていたか」
「全部バレているわよ」
「なんだと」
「ガキン!」
一度お互いの剣を弾き飛ばすように距離を取った。
「ダッ!」
そしてまたにらみ合うよう刀越しにお互いを押し合う。
「あんた、無事に帰りたければ言う事を聞いて引き下がった方がいいよ」
「それが出来たら苦労はしない」
「できるわよ、もう姫様の手でベノム城は傘下になったらしいし」
「な は?」
「あんたたちがやろうとしている事は全てお見通しなのよ」
「この試合も罠か?」
「マーシャ様からすれば全て罠よ」
訳が分からない、この大会も全て罠。
西からの出場者からはそんな話を誰も聞いていない。
確かにこの機に乗じて何か企む魔族がいるはずだと考えれば事前に罠を張ることもそれほど困難ではない。
一度ジャベリンは会場に配置している仲間の魔族を確認すると、いつの間にかそこにいるはずの仲間は全員消えてしまっていた。
「クソッ!」
「それで、どうすんの?このまま戦って負ける?勝てばもう少しチャンスがあるかもよ」
「か 勝てば…」
そう言ってにんまり笑う元暗殺部隊の隊長、上司であるロディトルサザラード魔将軍の話では王族2名を殺害したのもこの部隊だと言う話。
そして元宰相だったカイゼエルに聞いた話では、彼らは選りすぐりの戦闘力を誇る精鋭であり、一人一人が魔将軍と同等の戦闘力を持つと聞いていた。
話が少し盛ってあったとしても、目の前にいるカユーラが手練れであることに間違いはない。
「勝つしかないのか…」
「どちらにしてもあんたは引けないんでしょ」
「その通り」
「それじゃやるしかないわよね」
「ギャイン!」
何度目かのぶつかり合い、そして話は終わったのか2名共に次が最後だと言わんばかりに激突する。
ジャベリンが手にしているのは長剣、刃渡りは1メートルほどあるが刃幅は5センチも無い。
そして腕には円形の小型の盾を装着しており、それは変装したフランクリンマーキュリスの戦い方とは違う。
ジャベリンが通常使用する武器なので、この戦いにおいて特に足枷もなく戦闘力が落ちているわけではない。
対するカユーラの武器は小刀、刃渡り30センチほどの少し反ったカタナ。
マーシャに鍛え直してもらったので、現在はAクラスRランクの刀になっている。
そしてカユーラの外見はまるで忍者の様、誰もがそのすらりとした肢体に目を奪われるはずだ、だがその頭から伸びた二つの耳が逆にアクセントとなり、醸し出されている殺意や雰囲気を隠しているようだ。




