グラッダの手下
グラッダの手下
サザラード配下の部隊はなんとか大会参加者に紛れ込むことができ、今は宿屋で今後の作戦を練っている。
本国からの連絡ではそのまま大会へと出場し王国の戦力を調べてこいと言われている。
「斥侯は?」
「現在大会会場であるコロシアムに仕掛けを設置しております」
「ジャベリン様、試合に負けた場合は?」
「我らが負けるとは思わないが全員の試合が終わるまで待機だ、そこから作戦を開始して一人でも多くこの国の戦力を削る、転移魔法陣はそれまで使用禁止だ」
「逃げたやつは全員死刑、指令を尊守できない奴はいらぬ!」
「は!」
逃げる可能性よりも捕まる可能性の方がまずいと思うのだが、この時点で魔伯爵は負けることなどこれっぽっちも考えていなかった。
大会中にどれだけ自分達が勝てるかと言う事もあるが、伯爵にとっては腕試しのような形なのではないだろうか。
「明日に備えてお前たちも早く休んでおくように、町へ出て遊ぼうなどとは思うなよ」
「かしこまりました!」
その頃東部地区からやって来た大会参加者の中に2人、同じく魔王国からのスパイが紛れ込んでいた。
「グラッダ様も小心者だな…」
「そうか?一応調べておかなければ、俺達もいずれこの国の人間相手に戦うわけだから知っておいても損はないだろう」
「いやいや、お前大会に出場する王国の冒険者見ただろ」
「ヨワヨワだったな」
「俺達最強! て勘違いしちまったぜ」
「だがよう 昨年この国の王女にやられたんだろう」
「ああそこだけは、侮る分けにはいかねえからな」
「それでこれからどうすんだ?」
「グラッダ様の指令は、その第三王女の捕縛か暗殺だ」
こちらは直接マーシャをどうにかしに来たようだが、そう簡単にマーシャが捕縛されたり消されることにはならないと最初に告げて置く。
彼らは闇夜に紛れて学院の寮に忍び込む、もちろん寮全体には魔法がかけられており侵入者などすぐにわかるのだが。
彼らはその前に魔法と薬物を使用して女子寮の敷地内全体に眠り薬を噴霧する、さてその作戦はうまく行くのだろうか?
「おい仕掛けたか?」
「大丈夫だ」
「よし火を点けろ」
「シュ!」
「モワモワモワ」
学院の女子寮に丸い発火式の手投げ弾のようなものを投げ込む、魔力を持った人物が侵入した場合はすぐに警報のようなものが鳴り響くが。
そういう小道具を敷地内へ投げ込んだぐらいでは何の変化も起こらない。
さらに寮がある場所全体にカモフラージュの魔法を掛けて外からは煙などが見えないようにしておく、もちろん警報がなったとしても魔法で聞こえないように偽装しておくことも忘れない。
「効き始めるのは7分後だ、そうしたら侵入するぞ」
「了解!」
マーシャが住んでいる学院の寮には現在マーシャ特製の結界が貼られていたりする。
勿論マーシャにしか分からないようにしてある、だから侵入者の作戦は全てお見通しなのだが。
すぐに対処すると面白くないので、マーシャは隠れて賊が侵入してくるのを待っていた。
夜11時、中々眠れず起きているのは明日試合に出場する選手ぐらいなのだが、賊が放った眠り薬の煙玉で今はマーシャとアマンダを除く全員が夢の中へと連れ込まれている。
「ササササ」
「この棟だ」
「やっと来たのか?」
「ハッ!」
「誰だ!」
「それはこちらのセリフだが?」
「うぬぬ」
「なんだ紹介してくれぬのか?」
「…」
「よかろう、ではかかって参れ」
「ザッ!」
「ギャイン!」
「バキャン!」
「ドン!」
「グヘッ…」
「なんだもうへたばったか、もう一人は?」
(なんだこいつ?)
「おぬしらが知りたい第三王女だと言ったらどうする?」
「死ね!」
「ヒュンヒュヒュヒュ」
「カンコンカンカ…」
「なんだと!」
一人目は剣で弾き飛ばし白目をむいて倒れている、2人目は飛び道具もしくは吹き矢のようなものでマーシャに攻撃してきたが、もちろんそれはディフェンス魔法とガードスキルのおかげで鉄壁防御をかいくぐり一矢報いることなどありえ無い。
「ぐう…」
そしていつの間にか彼は倒され抑え込まれてしまった、腕や足には強力な重力魔法がかけられ身動きなど取れなくなってしまっていた。
そして暗殺者の体に馬乗りになり、マーシャの手は暗殺者の喉元を絞め上げている。
「とりあえずおぬしも奴隷化しておくか」
「えっ!」
「なんだ いやか?」
首をフルフルと左右に動かすが、そんな事をしても無駄と言う物。
「では全て話すか?」
(くそっ)
「どちらもイヤは通らぬぞ、死にたいと言われてもそうはさせぬがな、フフ」
「…」
「だんまりか‥よかろう我が下僕に決定じゃ!」
「汝の生殺与奪と引き換えにこの印を与えわが行動の助けとなす、我が奴隷として生きよ!」
「ぐあー」
おとなしく言う事を聞かなければ仕方がない、もしかしてマーシャにとっては魔王国の宰相に続く2人目の異性の隷属化かもしれないが。
マーシャは特に異性の下僕が欲しいとは思っていない、男の奴隷など使い道に乏しく面倒なだけだと考えていたりする。
「それでお前はグラッダの手下じゃな」
「はい姫様」
「それで、これがあ奴の計画か?」
一応彼らに掛けた奴隷化魔法はフロウラや王妃に掛けた魔法と少し違う、今回の奴隷化魔法はマーシャの言う事を100%聞くようにしてある、それを拒否すると頭痛及び息ができなくなると言うバフ付きだ。
その為に逆らう事も抗う事すらもできない、フロウラ達のような設定とはかなり違うので本来はこれが普通の奴隷化と言える、いつの間にか2名の暗殺者は寮の敷地内に正座させられている。
当然だがこの時点で寮の学生達はまだ夢の中だ。
「そうか殺して来いと言われたのか、面倒じゃが大会の前にグラッダとやらは潰しておく方が良いかもしれんな…」
「…」
「ジョーバリンの屋敷は魔王国の北部だったな?」
「はい、北部ガダリウム山脈、バハムート山の麓にございます」
「そこへ行く魔方陣は?」
「この指輪で移動可能です」
「なるほど指輪に仕込んだ転移魔法か、ではすぐに行こうか」
急転直下、明日から大会本戦が始まると言うのにこの時点でマーシャは敵の一人グラッダを懲らしめに行くと言う、果たしてそんなにうまく事が運ぶのだろうか。




