リカルドの思い
リカルドの思い
外野は大喜びだったがアリシアとリカルドは神妙な面持ちだった。
その理由はかなり違う。
アリシアはマーシャが早く下僕にする宣言を言うことを、リカルドはあれが明日のわが身ではと思う恐怖。
リカルドはマーシャが怖かった、初めてそう感じたのは5歳になってようやく王国アカデミーに入るための勉強を始めたころ。
マーシャもお兄様と一緒に勉強すると言い出した時のこと。
「おにいしゃまマーシャもおべんきょうしたいでしゅ」
「気持ちはわかるけどマーシャにはまだ早いと思うよ」
幼いながらに妹は自分より早い歳で言葉を覚えいつも自分の後をついてきていたことを覚えている。
だがその後いつの間にかマーシャも勉強を始めた、一度剣術の訓練を一緒にした時のこと。
「おにゅしそれねおわりにゃ!」
隣で稽古をつけているのは王宮騎士団の精鋭のはず、その相手がマーシャ!
その光景は、いつもと違う言葉使い、まるで大人顔負けの動きと剣撃。
俺は目の前の練習相手にもなかなか勝てないというのに。
数回の練習でマーシャはすでに騎士団の大人を打ち負かしていた。
そして魔法の勉強、魔法の練習は侍従長がつきっきりで教えているという話を聞き
一度覗いてみた。
「マーシャ様それはまだわたくしでも難しいです」
「そのようにゃこにょない、ほれこうなゃ」
ドアのカギ穴から覗いてみたらそれは神聖魔法のヒールと防御魔法のプロテクション。
その時リカルドの魔法は火魔法が少しと水魔法の始まりぐらい、神聖魔法や無属性魔法など覚えることすら無理だった。
それを2歳年下のマーシャがたやすく扱っているのだ、妹は化け物?
その時はそう思った、だが直接接するときのあのかわいらしさ、そんなわけないと思っていたが。
リカルドにはマーシャがまるで2重人格のように見えていた、他の王族の前ではかわいい王女を演じそれ以外では勉強の鬼。
言葉使いさえ変わってしまい、訓練中のマーシャは近寄りがたい雰囲気さえ醸し出していた。
ある日、妹に質問をしてみた。
「マーシャは生まれ変わりなのか?」
「お兄様生まれ変わりだったらどうします?」
「いやどうもしないよ、でもマーシャはこれから皆をどうするつもりなんだ?」
「お兄様マーシャはみんなをどうこうするつもりはありません、私のしたいことを迷惑にならない範囲でやらせていただくだけです」
「それは?」
「お兄様まだ誰にも言わないと約束できますか?」
「うん約束する」
「私は冒険者になりたいのです」
王族が冒険者それも王女が、そんな前例は今までなかった。
騎士団団員との訓練を見て、マーシャにはすでにこの界隈で彼女に勝てる者はいないことが分かっている。
そして自分もかなわないと思う、もし練習試合で戦わされたらと思うと胃が痛い。
でも彼女が自分のかわいい妹であることは変えられない。
何かあればそんな卑屈な考え方抜きで彼女の力になりたい、そう思うだけど・・・
「それではカール、おぬしは妾の従者じゃ」
「くそ~~」
「詳しい話は後じゃ、ついてまいれ」
落とした木剣を拾うとマーシャの後をとぼとぼとついて行く。
訓練用の木剣は観客席の一番端にある箱に立てて入れておくことになっている。
そこに木剣を返すと周りには取り巻きが。
「見物は終わりじゃ皆教室に帰るとよいぞ、次が見たければ妾の言うことを聞いておくがよい」
ぞろぞろと見物していた生徒が引き返していく中、数名がそこに残った。
「それでは命令じゃカールおぬしのメイド(従者)の件はわが姉アリシアに一任する」
「えっ」
「それとも妾のメイドの方が良いか?」
「そ!それは…」
横でアリシアも見ている。
「いえ姫様の言うとおりに従います」
アリシアが満面の笑みを浮かべていた。
「カールよかったわね」
「アリシア…」
「私はあなたをメイドにしようとは思わないわ、でも勉強やお食事の時は付き合ってもらうかも」
「そのぐらいなら構わないがそれでいいのか?」
「隣のクラスにまでいちいち命令しに行くのはかえって面倒であろう?」
「なかなか後味の良い決着ですねマーシャ様」
「先生まだいらしたのですか?」
「一応教師として最後まで見ておく責任がありますからね」
「それでご感想は?」
「いえ何も、また試合があるときはぜひ呼んで頂きたいですね、ふふふ」
そんな日が数日続き王国アカデミー付属学園初等科卒業の日が近づいてきた、それと同時に王国の危機が始まる。




