フランの試合
フランの試合
まだ10歳と言う若さで魔術の部に出場したフラン、もちろん足の先から頭のてっぺんまでマーシャが作成した魔法具を身に纏い、その手には聖なる武具である神罰の錫杖を持つ。
勿論これもマーシャから借りた武具であり、同じような分類の武器の中でもトップクラスの物だ。
そして彼女の相手は同じく学院に通う男子生徒であり6歳上のバラル・シーランド伯爵の次男。
そうシーランド本家であるバラルの次男ザック・シーランド。
長男が剣術を学びすでに実家で後を継ぐよう言い渡されている為、次男であるザックは魔法を覚え学院において高等科を卒業すればマスタークラスへと進学するつもりでいる。
そして彼もまた聖魔法を得意としていた。
「ふ~ん、お前が第三王女の金魚のフンか…なるほど確かに身に着けている武具は良さそうだな」
「は?あなた私の事ものすごい見下していませんか?」
「いいや 馬子にも衣裳だなと思っただけだが」
「あーそう?それで?」
「ふむふむ そういうタイプか、なるほど…」
「80番129番用意は良いか?」
「ハイ」
「いいぜ」
「始め!」
ザックシーランドは中々ずるがしこい、いつも次の手を考えて画策する人間だ。
学院の試合でも7割は勝利している、だが彼はいつも自分より弱い相手を選び勝利する。
そして強い相手にはわざと負けることにしている、要するに誰にも自分の実力を見せたことが無い。
自らの奥の手は最後まで見せない、だから彼が何処まで魔法を使用できるのか?
多分この試合中に知ることができるのかは最初に対戦するフランの攻撃が、どのくらい彼を追いつめて行くかによる。
「ホーリーガード、マジックブースト」フラン
「ディフェンスアップ、デュアルシールド」ザック
まずは互いに防御魔法やアシスト魔法を展開させる、2名共に短縮詠唱。
そして次は攻撃魔法で仕掛けて行く。
「ドレインランス!」フラン
「なんだと!」
ドレインランス、それは聖魔法ではなくどちらかと言うと無属性魔法に近い。
フランの得意とするのは聖魔法で間違いは無いが、今まではそうだったと言った所か…
「シールドアップ、ホリーアロー」
ザックは念のため防御魔法をもう一つ上掛けすることにした。
それが首一枚で相手の魔法を防御出来た事は、彼の勘でしかないが。
まさかフランも放たれた魔法が相手のディフェンスを突き破れなかったのが少し気にかかった。
(まさか新しく手に入れた攻撃魔法が効かないなんて…)
「聖魔法使いが闇魔法かよ!」
「ドレインランスは正確には闇ではなく無属性魔法ですが?」
ドレインと言っても何種類かあったりする、相手の魔力を吸収するために使う魔法を飛び道具化したわけだが。
フランのドレイン魔法は一時的な物だ、要するに通常攻撃のエネルギボールやファイヤーボールと変わらない。
一つだけ違いがあるとすれば相手のどのような防御魔法も削る事が可能な魔法だ、属性が無いと言うこと、闇属性ならばドロップランスやダークランスと言う魔法がある。
「は?」
「闇魔法ならドロップかダーク、又はイビルですが」
「う うるさい!」
「勉強不足です」
「ぐ…」
まさか自分より年下の金魚の糞と見下していた女子に揚げ足を取られるとは思ってもみなかった。
「今度はこちらからだ、サンダーアロー」
「避雷針!」
すかさずフランは目の前に楔のような魔法を打ち込む、ダンジョン攻略の時にマーシャやチャッピーが使っていた魔法。
雷撃系魔法を全て地面へと方向性を変えてしまう、土魔法の一つ。
「クソッ!」
「ホーリービー、カルテッド」
今度は高等魔法、多分10歳でこの魔法を使用できるのは数人しかいないであろう、もちろん学院ではマーシャとチームマーシャの仲間内だけだ。
聖属性魔法を生き物のように操る、しかも4体同時に。
その名の通り蜂のように独立して攻撃を仕掛けて行く、確かに欠点が無くもないが。
相手の攻撃をかいくぐりうまく行けば数回の攻撃を仕掛ける事が出来る。
「ホーリープロテクト、ウィンドカッター×4」
迫りくるフランの魔法に対し、ガード魔法の強化と蜂を撃ち落とすべく放った風魔法。
「そう来るわよね、じゃあおまけよ ディフェンスグラビティ」
ザックの耳には今まで聞いた事が無い魔法がフランの口から次々と出て来る。
魔法はその単語を聞けばおのずとどの系統なのかわかる、だが複合魔法と言うのは全てが相性の良い組み合わせではない。
中には合成が難しい魔法もあるので、まさか若干10歳の少女がそんな魔法使えるとは思ってもみなかった。
「グフッ!」
相手のディフェンスに特化して重力魔法を使用する、これは相手の魔法が聖魔法のディフェンスに近かったため選んだ。
もしもザックが火魔法や土魔法の使い手だと威力は半減する。
そしてこの会場がもし広かったならばさらに威力は下がる事だろう。
地面に押さえつけられたザックは、フランの魔法をもろに受けるそれも複数回。
「チュン チュン チュン」
防御魔法を何重にもかけているので直接攻撃とまではいかないが、重力魔法で押さえつけられたため、彼は詠唱する為の口や舌にまで影響を受けてしまった。
「にゃな く ひゃ」
(なんだこれは!)
「さらに メガホーリーランス」
念には念を、動けなくなった敵に対してとどめの魔法は得意のホーリーランス、しかもメガ=10倍。
ホーリービーで薄くなってしまったディフェンスを軽く突き抜ける聖なる槍。
「ズズン!」
「勝者80番 フランエルウッド」
「ワー」
相手のディフェンス魔法が切れた上に10倍の聖なる槍を受けた、しかも重力魔法で身動きできない状態で。
まさかこれほどの差があるとは誰も思わなかったのではないだろうか。




