事前審査は続く
事前審査は続く
本日の事前審査、最後に登場するのは王様と言う事になるのだが。
その前に事前審査が終わるかどうか…
「これでようやく100人か?」
「魔法の部もなかなか進まんな」
時刻はすでにお昼を過ぎている、会場にはまだ600人以上が審査を待って並んでいる。
「おいおいまだ終わらねーのかよ!」
「飯時だぜ~」
「待てないなら帰ったらどうだ?」
参加者の中に大男が一人、もちろん彼も参加者の様だ。
先に文句を言い放ったのは王都でも力自慢の輩らしいが、その風貌からは戦士と言うより肉体労働者だ。
「なんだ?図体でかけりゃ強いのか?」
「試してみるか?」
「なんだと!」
「おい!お前ら黙って待てないのか?」
「なんだと!」
「グラビティプレス!」
「アガアガ…」
「おとなしくしておれ、バカ者どもが!」
「マーシャ様、私共におまかせ下さい」ゴルドア
「審査委員長は退屈じゃ、少しぐらい良いじゃろう?」
マーシャの魔法を浴びてカエルのように這いつくばった男達。
その姿を見て失笑が漏れるが、そこからは何故かスムーズに審査が進んで行く。
はっきり言わせてもらえば事前審査に審査員などはいらないのだが、一応国を挙げてのお祭りと言う事で。
誰が審査員なのか、どういう人物が出場するのかなどを知っておかなければいけない、と言う事も含めた役職のようだ。
まあそれだけと言われて、そうですかで済むマーシャではない。
出たならばジッとしてなどはいられない、迷惑が掛からない程度に力を披露してやるだけだ。
「おーめんこいネーチャンじゃね~か」
「そうか?」
「あんたは出ないのか?」
「妾は審査委員長らしいぞ」
「おい、このねーちゃんが審査委員長らしいぞ」
「嘘だろ」
「お前達!誰に向かって言葉を発しておるのだ、この方はな!」
「良い、良い機会じゃ妾の力を見るが良い!」
そう言うとマーシャは右手に水龍剣を構え左手にレインボーオーブ(虹色水晶)を取り出す。
「お久しぶりです主」
クラールダンジョンで手に入れたパーフェクトクリアのプレゼント、最近は使う事もなかったがたまに竜の姿になってお出かけの際に連れまわしたりしている。
生き物のままではストレージに収納できないのだが、剣になっている間はストレージにも収納可能らしい。
「同時に2発放てるか?」
「お任せください」
土人形5つ、水龍剣から水龍波を2つ、そしてオーブからは爆裂魔法を3つ同時に放つ。
「ビシュビシュ、ボシュボシュボシュ!」
「ドスン!ドスン!ドスン!ボトボトボト!」
5つの土人形がそれぞれの攻撃で胴体部分から真っ二つに分かたれる。
「ま まじかよ!」
「この10倍あっても同時に攻撃可能じゃ、どうじゃ?わかったか?」
「わ 分かりましたー」
「よろしい、ほれ次はおぬしらじゃ」
将軍クラスになればこのぐらいできなければ務まらない、だが一応マーシャは将軍ではなく王族の姫という肩書。
まあ学院に通う者ならば皆が知っているのだが、市井の冒険者や腕自慢クラスではマーシャの事を知らないのは当然の事。
Aクラスか最低Bクラス以上の冒険者でなければ、マーシャのことなど知らないのではなかろうか。
本当ならばマーシャも市井の冒険者組合にでも出向いて登録したいところなのだが、フロウラに聞いてみた所。
「マーシャ様は冒険者登録ができません」
「なんでじゃ?」
「王族だからです」
組合長に尋ねた所、王族=国家権力、要するに冒険者と言うのは民間組織であり多少の税金は国から活動補助費として受領しているが。
もし王族が冒険者になると言う事はその組合は配下になってしまうのだとか。
よく考えてみると確かに組合長より権限は上になる、マーシャがシステムを利用して冒険者を募り戦争を始める事も簡単に出来てしまう。
一応王国としての取り決めで、冒険者組合を作った時10傑はそのようなことが無いようにと規則を作っていた。
その中に王族は組合員にできないと言う事が書かれている、確かに冒険者組合は仕事の斡旋所みたいなものだ。
王族がそこで仕事をするのはおかしい、金持ちが貧乏人から仕事を取り上げるなと言う事。
同じ理由で王族から仕事を斡旋する場合も、軍隊では解決できない事例が起こった場合のみ、王城会議で話し合い市井に仕事を頼む形になるのだ。
「それでは組合に登録するには妾が王族から離れなければならぬと言う事か…ムムム」
「一番手っ取り早いのが婚姻です」
「結婚だと!」
「相手は爵位持ちが一番宜しいのですが、一般人との婚姻でも大丈夫だと思います、自らの地位を落とすことが必須条件になります」
「そうすると最低でも後5年は無理な話じゃな…」
王国では14歳から男女共に婚姻可能、マーシャは現在8歳と半年。
まあわざわざ冒険者にならなくても、今のところ他国への渡航ができないわけでは無い。
マーシャが冒険者にこだわるのは昔からの憧れと、面倒な身分を隠せるのではないかと言う事。
ちなみに冒険者証には出自などは書かれていない、性別とランクそして登録した組合名のみ。
その証を持っていれば冒険者としてどこの国にでも行けるし、組合がある国であればどこでも活動できると言う話を聞いたからだ。
旅先で王族と言う事がばれれば相手は萎縮してしまい口を噤んでしまう者もいる。
ましてや情勢不安定な国へなど王族が勝手に出国できるわけがない。




