迎賓館の別館
迎賓館の別館
契約解除の超級神聖魔法、その魔法は神によって授けられたマーシャのみが使える能力と言って良い。
通常の奴隷契約だけならば少し上の解除魔法で自由にすることが可能だが、彼女の体には奴隷契約だけではなく、何種類かの呪印魔法がかけられていた。
「気が付いたか?」
「私は…とんでもないことを シクシク」
「おぬしのせいではない、だがこれでおぬしは自由だぞ」
「エッ!奴隷の印が…」
「呪いの魔法も奴隷紋の魔法も全て解除して置いたぞ」
「本当ですか!有難うございます」
「マーシャ様!」
「おー無事だったか?」
「私達は全員無事ですが、いったい何が?」
「どうやらグラッダとかいうやつの策略の様じゃぞ」
「グラッダ グラッダヴェノムジョーバリンか!」
「この件については妾が調べるので手を出さぬように、口外もせぬ方が身のためじゃ」
「下手に嗅ぎまわって目を付けられては事体が複雑になると?」クロイス
「そういう事じゃ、近いうちに妾も魔王国へ行くつもりじゃ」
「分かりましたこの件は我々の心の内にとどめておきましょう」マリオス
「それにしても厄介な奴が出てきたものじゃ」
「グラッダはジョーバリン公爵家のNO2です、もし魔王国へおいでになるなら気を付けて下さい」
「そうか…一つ頼みがある そ奴の情報が有れば手に入れたい」
「かしこまりました、すぐに手配しましょう」マリオス
迎賓館の別館での出来事はマーシャのおかげであっという間に片が付いた。
魔王国から来た4人はそのまま別館に滞在してもらい、念のためカチュアはマーシャの部屋へと連れて行くことに。
迎賓館の衛兵は数人がまるで魔法にかけられたように立ちながら眠っていた。
衛兵たちを正気に戻すと、カチュアと一緒に瞬間移動の魔法を使い寮へと戻る。
「シュン!」
「マーシャ様!」
「声が大きいぞ」
「す すみません…その方は?」
「カチュア・ジョーバリンと言う」
「例の子ですね」
「ああフランにもわかったか?」
「ええ 奴隷紋の契約だけであの魔気はおかしいと思いましたから」
うっすらと体に纏われたマイナスの魔力、それは常に本人から魔力を吸い取り弱らせていたりする。
通常の奴隷魔法だけならばそこまでひどいデバフなどは起こらない。
聖魔法に優れた魔法師ならではの感知能力で、すぐにカチュアはおかしいと感じ取れたのだが。
何故その魔気を纏っているのかが分からなければ、解除したところで呪印だけが残り、暗殺を仕組んだ者までは分からなくなる。
だからマーシャはどこの誰が何をしようとしているのかを探るため、カチュアにコサージュを渡したのだ。
呪印だけを探ってもどこの誰かまでは分からないが、呪印を使い体を乗っ取るには呪印を施した本人の魔気が活動する時に大きく膨らむ時がある。
そこからならばどこの誰が仕組んだのかが分かるのだ。
「疲れてしまわれたのですね」
「そのようだ、ベッドをもう一つ出すぞ」
「かしこまりました」
2人部屋に並べたベッドを一度収納し、同じように少し詰めて3つのベッドを順番に取り出していく。
「もうこんな時間か…」
夜12時を廻り時たま狼の遠吠えが聞こえたりする、町全体には結界が張られているため、魔獣の類は入って来られないのだが。
普通の犬や猫の類は除外されており、たまに魔法を掛けられた小動物を偵察に使う輩がいない訳ではない。
グラッダ・ヴェノム・ジョーバリン
ジョーバリン魔公爵家のNO2であり、特に魔公爵家の内政を任されている魔族の一人。
昨年の事件では王妃に手を貸して第一皇女と第二皇子を屠った人物でもある。
今回は王国に忍び込むため奴隷階級の少女を使い魔王の子息と息女を全員屠るつもりだったのだが。
その計画は失敗に終わった、手駒も同時に失ったがグラッダだが、カチュア一人を失ってもそれはさほど痛手とはならなかった。
「クソッ!」
「グラッダ様、いかがいたしましたか?」
「失敗したぞ!」
「まさか」
「あの王女は計画の邪魔になる、早く排除しなければ」
「どうします、暗殺部隊を送りますか?」
「うぬぬ…いやまずは王国の第三王女を調べ上げろ、そうでなければ計画を全て邪魔されてしまう」
昨年の夏、ハンクル・ヴェノム・ジョーバリンと共に王国北の砦まで出向き、あと少しと言う所で開戦を阻止された。
そこでは彼もハンクルとマーシャの戦いを見ていたのだ、まさか義兄が負けるはずはないと思っていた。
「昨年もあの王女が原因で全部失敗に終わったのだ、だがまだ打つ手はある」
「魔影部隊を使う、まずは調べ上げそして周りからそぎ落とす、覚悟しておれ!」
魔王国の北西にあるサウザンド渓谷、その裾野にある険しい山の中腹に建てられたヴェノム城。
吸血鬼の序列は普通の人族とは違う、現在のトップはハンクルなのだが。
それは表向きのトップであり、裏には脈々と続く系譜の中にいまだ権力を持つ吸血鬼達が生きていたりする。
要するに150数年生きたハンクルは本来ヒヨッコに過ぎない、彼の先祖は今でも棺桶の中で眠っており。
一定の周期で目覚めるようになっている、本来の死ではなく眠っているだけなのだ。
魂を天界に送る通常の生死を魔法により覆し、体から抜けられないようにすること。
その魔法に成功したのだが、その代わり日の光を浴びると魂をはがされてしまうと言う。
そのデメリットをできるだけ減らそうとしたのが吸血鬼達の遺伝子組み換え計画。
本来吸血鬼は子を産むと言う作業はしない、子を作るには魔法を掛け遺伝子を操作する。
相手の血液の中に自分の血を混ぜ同時に魔法を掛ける、そうすることで仲間を増やしていく。
人間の精子や卵子は生きている状態、生者でなければ受精ができない。
ならば精子や卵子に魔法を掛けた状態で交配させた時や、さらには生育時に吸血鬼の血を使用して生育させたなら生まれて来た子はどうなるだろうか、そう言った研究を幾度となく繰り返し、カチュアやジルと言った半吸血鬼を生み出した。
「叔父貴たちを呼ぶにはまだ早い、彼らの目が覚める前に何とかあの王女を排除しておかないと我らの身も危ういからな」
吸血鬼の始祖ド・ラキュア・ヴェノム・ジョーバリンは現在100年の眠りについている。
彼らは100年ごとに数人が起床し吸血族の未来を占う、そして現状を確認し手を加えたりもする。
その総数は現在88体、半分以上が始祖から受け継いだ純潔の一族、半分はその配下や下僕達。
その者達数人が後数年すると目覚めると言う話なのだが…果たしてマーシャはその時どうするのだろうか?




