厄介な義姉
厄介な義姉
今までに顔を合わせたことは無かった、兄であるカイルが娶った3人の妻たち。
現在は性欲抑制の指輪を付けることで、新たな子を作ることなく生活している第一王子のカイル。
昨年暮れにマーシャお抱えのメイドにちょっかいを出したため、その後フロウラの精神魔法でトラウマを植え付けられたのか、そっちの方はようやくおとなしくなったと聞く。
それに現在は魔王国のCクラスダンジョンへと出征しており、3人の妻とは離れ離れだ。
実は3人の子は既に学院にて勉強しているので、会った事も有るはずなのだが。
今までに挨拶をしに来た姪と甥はいない、長男は既にマーシャより歳は上のはずなので。
まさか自分より年下の叔母への挨拶と言うのは、少々敷居が高いのかもしれない。
食事が終わり寮の自室へと戻るとすぐにアリシアがマーシャの部屋の戸を叩く。
「コンコン アリシアよ」
「どうぞ」
「お姉様は後衛支援職魔法師でよろしいのですよね?」
「え?」
「え?違うのですか?」
「ち 違わないけど…」
「もしかしてお相手はカール殿では無いのですか?」
「違いは無いですが…」
「あ~もしかしてカール様、剣術の成績悪いのでは?」
「そんなことはございません、今は少し調子が悪いだけです」
初等科でさんざんメイド権を掛けて戦いマーシャに一度も勝てなかったカール。
その度にメイド権をアリシアに譲り中等科からは勝負を持ちかけられることも少なくなった。
彼は今期飛び級することなく順当に学年をこなしており、現在は中等科3年。
それでも2学年飛び級しており、現在は必死で授業に食らいついていると言う話は、腐れ縁のロンディアから聞いている。
剣術の腕はロンディアと同等クラス、それでも12歳の剣術の腕としてはかなり上なのだ。
だがカールとペアで武術大会へと出場するとなると、かなりのハンデをもらわなければ優勝など夢のまた夢だ。
「カールの腕では王様に勝つのは…」
「どうにかできないかしら…」
「姉上それをするときりがなくなります」
「そうよね、アマンダ姉さまもトラム兄様も出場なさるのでしたものね…」
「お姉さま今期の武術大会はポイント制です、強さだけでは勝ち負けは決まりませんよ」
「それはどういう事?」
「試合運びが運命を決めると言う事です」
ポイント制、最初にポイント積算魔法を使用し各選手の攻撃が当たるたびにポイントが加算されるようになっている。
当然手数が多く相手の攻撃をよけるのが上手い方がポイントで優位に立つことができる。
剣術の試合でも相手の攻撃を真っ向から受けて試合に勝つ従来の試合とは異なるため。
どうやったら有効な攻撃が当たるのか、その精度が勝敗を分けることになる。
同様の理由でいかに相手の攻撃を邪魔するかと言う事も得点につながって来るのだ。
「そ そうなの?」
「ですから魔法も最低2種類、攻撃魔法と妨害魔法は必須になります」
「もしかして剣術も、剣を交えるだけでなく逃げる事も点数に繋がるの?」
「そういう事です」
それを聞いて少し安心したアリシア、但しいくら手数で勝ってもこちらが先にダウンしてしまえば負けてしまう。
「そう言う事なのですね、それなら少しは勝利が見えてきましたわ」
「それでバトルドレスはどうします?」
「いくつか見せてもらう事はできませんの?」
そう言われてマーシャはアリシアに似合いそうなバトルドレスをストレージから出してみる。
アリシアは魔法職だが一応武術も専攻している、体を鍛えているのは美容と健康のためだが、その力量は公爵令嬢のリンダよりはやや落ちるが、長く続けているため基礎はしっかりしている。
「姉上は気を練るのが上手そうですね、ならばこちらのバトルスーツがよろしいかと」
それは割と簡素なドレスだが色合いはイエローとホワイトに、少しオレンジや赤が入った2ピースタイプのドレス。
腕の部分は短くお腹は殆ど外に出てしまうが腰のあたりから花びらのようなフリルが付いている。
「これ 面積が少なくない?」
「まずは着て見て下さい」
2ピースタイプのドレスを着せ、そこに肩パット付きのガードカバーと腰ガード、そしてフレアタイプのスカートを取り付ける。
「どうです?」
「か カッコイイ!」
「インナーはどうします?」
「インナー?」
「バトルドレス用の下着です」
「そんなものまであるの?」
「はい、こちらはレンタルではなく買い取りになります」
別にインナーが無くとも戦えるのだが、アリシアの持ち金はアマンダとは違いかなり少なそうだ。
バトルドレスのインナータイツは大金貨2枚、アリシアの予算でそこまでお金を出せるのかどうか疑問だが。
「インナータイツを装着してドレスを着ていただくとMPに自動回復のバフも付きます」
「MP自動回復!」
「1分で+50MPが回復しますので、魔法職には大変喜ばれます」
「と言う事はアマンダお姉さまも?」
「はいすでにご購入しております」
「おいくらなの?」
「こちらは買い取りになります、1着大金貨2枚になります」
「そ そうなのね…今はいらないわ」
「かしこまりました」
インナータイツ、一度着ると装着者の体に合わせて大きさが変化するため、体に合わせ伸びはするが極端に縮む事は無いので、一度着てしまうと装着者専用と言う形になる。
一応不壊の魔法や自動補修の魔法を付与してあるため、さほどひどい使い方をしなければ装着したままで最低1年は持つ。
前の世界でならばタイツ系の品物は少し爪でひっかいただけで伝線してしまったが、魔法のある世界でならば使い捨てのようなもったいないことはしなくて済む。




