魔法系戦闘術
魔法系戦闘術
マーシャと違いアマンダは魔法を使うスペシャリストと言った戦い方だ、前衛をこなすことなど無いと言って良い。
だが後衛の魔法支援職と言う立ち位置はバックアップだけという分けにもいかない。
前衛が疲弊した時や相手の火力が強く後衛まで届くときなどは、敵の攻撃を一身に受け作戦を立て直すこともできなければならない。
神聖魔法はもとよりアシスト系の魔法、その上に攻撃魔法や防御魔法が絶対に必要となる。
「私は後衛専門です、前に出る事は今までありませんでした、試合でも遠くから高火力の魔法をピンポイントで放出すると言うのが私の戦い方です」
「ペアの試合経験は?」
「一度フォルダンとお散歩に行ったときに少し…」
「姉上も一度ダンジョン攻略に同行していればよかったのに…」
「私は第一王女としての立場がございます、マーシャのような自由な行動はできませんから…」
「すみませんお姉さま、言い過ぎでした」
「よろしくてよ、それよりマーシャなら私のポジションでも負ける事のないバトルドレスを作れるのでしょう?」
「勝つか負けるかは時の運ですが、言い方を変えると運を身に着けることも必要と言う事です」
「そうよね…」
「まずはディフェンス、防御魔法の親和性を上げそのままでDEFが倍以上もしくは30以上上がるように作成、それとお姉さま肌の露出度はいかがいたします?」
女性のバトルドレス、特にアマンダのようなメリハリのある体には、出る所を強調するようなデザインが好まれる。
そしてインナーはどうするのかと言う事も考えなければいけない、いくらドレスで全てカバーできるとは言え、それで完璧とはいかないのだ。
「一度これを着ていただけますか?」
マーシャが取り出したのは女子用のインナー、薄くそしてかなり伸縮性の良い素材で作られており、肌の色と同系色で透けて見えるためインナーを着ている様には見えない。
「ボディタイツ?」
「よく知っていますね」
「…え?確かどこかの書物に書いてありましたので オホホ」
(やってしまったわ、まさかマーシャがこの素材を再現しているとは…)
タイツやボディースーツなどの考えはこの世界にも無くはない、だがマーシャのように転生組の知る素材は今まで無かったと言って良い、細かい糸を伸縮自在に織り込むことなどできない事だったのだ。
だがマーシャはそこにも魔法を利用して細かい微細なチェーンステッチを取り入れた。
化繊という素材が無いこの世界、使用したのは斑蜘蛛の糸。
1メートル近くある大きな蜘蛛から取れる糸、それを魔法で凍らせ粘着物質を取り去り糸にしてつむぐのだ。
その糸は弾力があり伸び縮む、今までならば素材として使おうなどと考える者などいなかった。
「このインナーだけでもDEFが30上がりますそれに体の動きもサポートします」
「鑑定!」
斑蜘蛛のインナー(袖なし全身タイツ):DEF+30運動能力アップ、MP自動回復毎分+50、熱に強く寒さにも強い、魔素を浴びると吸収してMPが回復する。
(回復時のMPは浴びた魔法の大きさによる)
「な なにこれ!すごいわ、このままでも戦えるじゃない」
「それはできませんよ姉上、男性陣が狂ってしまいます」
「あ そうよね、これではまるで裸で戦うような物ですものね…」
「一応このインナーを着てさらにバトルドレスを身に付けると言うのが基本です」
「これは男性も?」
「男性用はインナーパンツになります」
「あ~そういう設定なのね」
男性用は前衛を主として作られている為、打撃や斬撃に対しての耐性を上げなければいけない。
そして動き方も見せ方も違ってくるため薄くなめらかと言うよりやや硬めにフィットするように作られている。
そして男性用は上下別々の2ピース構造、もちろん女性が着てはいけないと言う事ではなく着る物に合わせて使い分けると言う形。
バトルドレスならワンピースのインナータイツで肌を守るのが一番良い形と言うこと。
「その上にこれを着てみてください」
次に出したのは2ピース構造のドレス、今までにマーシャが作り溜めしたものだ。
色が真っ赤なのでアマンダには少し派手過ぎるが、合わないだろうと思う色を先に着ておけばどの系統の色が似合うのか選びやすくなる。
「す、すごい身に付けただけで体が軽くなる、それにこの魔力アシストは…」
赤薔薇のドレス:2ピース構造、DEF+100、MDEF+100、全天候オートガード、MP・HPオートリペア毎秒+10、斬撃耐性+20、炎熱魔法耐性+100、上下セットでの数値、上のみの場合は半減。
「こ このままだと少し恥ずかしいかも…」
その姿はどこかの変態女王様が着る皮製のボディースーツに似ており、いかにもと言う形だ。
「フムフム…次はこれだな」
そこに腰巻、いやヒップガードとショルダーガード、そしてフレアタイプのセパレートスカートを取り付ける、同系色だと濃すぎるので今度はシルバー色系のパーツだ。
「最後にこれだな」
そしてマントを取り出す、マントの色は赤に青い縁取り、そして絵柄は女神と言うなんとも派手な物だが。
インナーが所々見えているため普段はこのマントで体全体を覆う形になる。
昔アニメや漫画で見たことがある女騎士や魔法騎士が身に着けていたバトルドレスそのままの姿。
「ん~やはりお姉さまは白と金又は銀色が良いかもですね、それとワンポイントで青を入れた方が似合うかも」
そう言われて壁に設置された鏡を見てみる。
「か カッコイイ~」
「え~?」
どうやらマーシャとアマンダでは美的センスが少し違うようだ。
「赤い方が良いですか?」
「いいえ、赤も良いかもと言う事です…」
(思わず、おしおきよ! と口走ってしまいそうだわ)
その姿を参考にもう少しおとなしめのラインでマネキンに布を当てそして縫製を始める。
「大体わかりました、出来上がるのは早くて5日後となります、お代はその時にお話ししましょう」
「ええ分かりました、よろしく頼むわね」
「お任せください」
「それと武器の事なのですけど?」
マーシャのストレージには上はスペシャルなS5クラスURの杖からノーマルの杖まですでに50本は溜まっている。
剣はその倍、拳は同じく50個そして弓も30個はある。
「杖でしたよね、それならばこれなどどうですか?」
取り出したのは真っ白な杖、先端には水晶のような直形5センチほどの宝石が着いた魔法の杖。
持ち手には金の装飾で模様が刻まれており、見る者の気持ちを健やかにしてくれる。
「綺麗ね」
「聖王の杖です」
「せ 聖王の杖!」
聖王の杖:S4クラスSR属性の杖、聖魔法にアシスト2倍、魔法防御MDF+100、MP回復毎秒+10、鈍器として使用するとアストラル系魔物を完全に退治可能、味方のデバフ解除も簡単にできる、もちろん自動修復機能もついている。
「めちゃくちゃなスペックね…」
「それで5番目の性能です」
「これで5番目!」
「もう少し性能上げますか?」
「いいえ、これで良いわ おいくら?」
「え~と大金貨80枚ですね」
「ちょっと待って、ドレスも有るのよね レンタルはできないの?」
「レンタルですか…そうなると一日大金貨1枚ですが」
今から2週間約15日のレンタル=大金貨15枚、スペックで考えれば格安と言える。
単純に国宝級と言ってもおかしくない性能なので、これを借りなければお后様に貸し出されてしまう可能性が高い。
他の杖も見てみたいが、それが自分に合うかと言うと難しいと言える。
多分最初にこれを出したと言う事は、他の杖はアマンダの戦い方に合わないと考えての事だ。
そしてお后様もアマンダの戦闘傾向に似ている可能性が高い。
今これを借りなければ誰かに借りられてしまう。
「武具の製作も頼めるのよね?」
「できますが、そうなるといくら費用がかかるかわかりません」
「そうよね、それに製作が間に合わなくなることも有るわね」
「そうなります」
「良いわ、これをレンタルします」
「お支払いの方法は?」
「後でまとめて支払うわ」
「かしこまりましたでは後日集金に参ります」
「ディスウエポンレントトゥアマンダ!フィフティーンデイ!」
「有難うマーシャ」
「いえいえ」
武具にレンタル魔法を組み入れてある、マーシャが作成した武具は全てその設定が付与可能になっていたりする。
アマンダがバトルドレスを脱ぎインナーを脱ごうとすると、待ったがかかる。
「インナータイツはそのまま着ていても構いません、その方が慣れますので」
「良いの?」
「気に入ったなら何着かお買い求め下さい」
「分かったわ、それでこれはおいくらなの?」
「今のところ大金貨2枚です」
「微妙な金額ね、わかったわ これは頂いておきます」
「お買い上げ誠にありがとうございます」
インナーの上から普段着を羽織り、専属メイドを連れてアマンダはマーシャの部屋を出ていく。
その手にはレンタルした4Sクラスの杖を持って。




