バトルドレス
バトルドレス
マーシャの乗った馬車から4番目の馬車に乗り少し遅れて帰寮したアマンダは、ゆっくりと下車するとお供のメイドと一緒に2号棟の2階の自室へと戻っていた。
そこには本日応援で駆けつけたメイドがもう一人待機していた。
「お帰りなさいませ、アマンダ様」
「ただいま戻ったわ」
「どうでしたか?」
「いつもと同じよ、舞踏会も今期で最後にしたいものだわ」
「フォルダン様との婚約が早く元に戻りますればよろしいのに」
「それは仕方がないわ、でも私は彼以外に考えていませんから」
「一途~」
「これ! そんな事より、これからマーシャの部屋へ行きますわよ」
「すぐですか?」
「そうよ」
「何かお話が?」
「大会の件でマーシャにバトルドレスを作ってもらう事にしましたから」
「マーシャ様に?」
「普通の戦闘服では私の雰囲気に合わせることができません、かといってかわいくもない戦闘服をオーダーしては王族の威厳も出ませんからね、それに今回王様もマーシャにオーダーしていると聞きます」
「その話は聞きました、ですがマーシャ様がちゃんと作ってくれるのでしょうか?」
「私はマーシャが手を抜くようなことはしないと思いますわよ」
「どうしてそれをお解りに?」
「バトルドレス、今までならば大通りのブティックにある高級店でなければ作れなかったものです、しかもこの10日以内で作れる店は無いのです」
「それは当然です10日以内ではどこの店でも無理でしょう!」
「それでも作ってもらう事が出来なければ大会で優勝することなど無理なのです、それにマーシャはある意味私と同じ匂いがします」
「臭い?良い匂いしかしませんが…」
「そっちの匂いではありません!」
最初はフォルダンとカイルの試合のはずだった、それならば武具もそこまで気合を入れる必要など無かったが。
今ではそれじゃすまない状況になっている。
最低でも3倍、いや5倍以上の能力アップを武具で底上げできなければ決勝に残ることなど出来はしない。
勿論今まで手に入れた装飾品やドレスの中にも、付与魔法で能力の上がるものはいくつか所有している。
フォルダンから誕生日祝いにもらったものが多いのだが、中にはどこかの国の王族から頂いたものまである。
本来なら返却しないといけないものだが、その人物は病死したので返却できなくなっている、贈り主は享年89歳心臓病だった。
歳を重ねてもそういう御仁は結構いたりする。
「行きましょう」
「はい」
午後6時が過ぎ後1時間もすれば夕食の時間、その前に詳しいところを詰めておきたい。
本日は皆疲れている為食事の後は湯あみが終われば就寝してしまうだろう。
そして明日のお茶会で全ての日程が完了する、明日になればさらにマーシャの元へ武具を注文する者が増えてしまうだろう。
できるだけ早くマーシャに頼んでおかなければ…
ドレスから普段着へと着替え、速足で1号棟の2階へと向かう。
マーシャの部屋の前で息を整え、そして深呼吸しノックする、本来ならばノックなどメイドにやらせるのだが慌てていたのかアマンダは自らマーシャの部屋がある戸を叩いた。
「コンコン」
「はい」
「アマンダです」
「今開けます」リリアナ
マーシャの部屋へと入ると、そこはまるで作業場と化していた。
「これは?」
「アマンダ様お入りください」
「あ はい…」
そこには普段着の上にエプロンを身に付けたマーシャ、そしてフランとリリアナ。
さらにフロウラとダーラ、ジルとカユーラ、マーシャの従者たちが勢ぞろいしていた。
いちいちブティックまで出向いて行うと時間がなくなる、ストレージにはいつでも縫製作業ができるように。
特注で作らせたミシンに糸紬の道具、魔法で使用するアイロン等々お針子の道具も全てそろっていた。
「いつから寮のお部屋が作業場に?」
「お姉さま、我らの仕事は場所を選びません、そのためにストレージ魔法を覚えたのですから」
「ええ それは分かりますが、これほどとは…」
目の前にはすでに作成が進んでいるバトルスーツがマネキンに着せられて、襟足の縫製を待っている状態。
そのバトルスーツはどう考えても王様の者だと言うことが分る。
「まさか御父上の」
「そのまさかです姉上」
鑑定魔法を使用して、作成途中のバトルスーツを見てみると、そこにはとんでもない情報が。
王の戦闘服:キングオブバトラー、HPMP自動回復・DFAT+100、魔法防御補正、通常攻撃補正、SP・AGI+補正、現在製作90%完了。
使用した材料、魔石10k、魔蝶糸1k、大角牛の皮1頭分、虹色鋼2k、各種宝石エトセトラ。
そしてもう一つ女性型のマネキンにはまだ布も何もつけられてはいなかったが、そこに刻まれた名前には第2王妃のファーストネームが。
要するにマーシャのブティクはマネキンのモックアップも手掛けているのだ、確かにマネキンを作っている工匠はいるのだが、本来は一人の人間用に作ることなどない。
当て布を増やし綿を入れサイズを変えることで余計な支出を抑えるのが普通。
だが目の前のマネキンは名前を入れられた個人の専用品にしか見えない。
「どうぞこちらへ」リリアナ
「あ はい」
リリアナがストレージから平たい紐のようなものを取り出すとアマンダのサイズをその紐を使用して測り出す。
よく見るとメモリのようなものが刻まれており、側に置いてある器具にどんどん針金のような弦が採寸した位置に継ぎ足されて行く。
「これは 自動ドール製作機!」
床の部分にはオドリツタ(踊り蔦)から作った弾力のある弦のような物が束で置かれており、採寸するたびに床から這いあがっては体の形に合わせて隙間を埋めていく。
「こんなの見たことないわ」
「でしょう」フラン
「マーシャこれ自分で考えたの?」
「いいえ皆で考えました、構想は有っても私には素材まで知りませんでしたので」
魔法があるからできる自動生産、様式さえしっかり論文にすればいくらでも大量に寸分たがわぬドールの作成が可能になる。
「以上で終了です」
いつの間にか両足の太ももや足の大きさまで採寸され、丸裸になった時の自分の体がそこに出来上がっていた。
「わ~いいな~」フラン
「これ!」
「失礼しました~」
確かにその胸のふくらみそして腰のラインは成熟した女性の体にしか見えない。
それに身長も170センチ以上あるので女性ならあこがれるスリーサイズだった。
「何を食べたらこうなるのか知りたいです」フラン
「あなた方と同じ物しか食べていませんよ、このスタイルは殆ど遺伝です」
「フラン!」
「し 失礼しました」
「お姉さまそれではバトルドレスの作成において、お姉さまの理想とする戦闘の形をお教えいただけますか?」
オートクチュールとはいえ、こちらから指し示すことができるのは材料とどこまでの加工をするかということぐらい。
デザイン性は任せてはもらうが、俊敏性に振るのかそれとも防御性に振るのかでもかなり出来上がりは違ってくる。
一応フィツト感を高める為、内布には特殊な布地を使用するが、どの素材も配分には限界と言う物がある。
ましてや女性用のドレスは今まで豪華さや煌びやかさが求められていたため、着心地や動作性にはかなりのマイナスが有った。
そこに戦うと言う要素を5割以上組み入れた場合どうなるのかという事になる。
フリルの分量や刺繍の入れ方、そして疲れず軽くなどと言う要素も組み込まなければいけないのだ。




