閑話 マーシャのおかげ
閑話 マーシャのおかげ
マーシャの側付きメイドが決まり、出産の為お暇をもらっていた侍従長のシャルル。
崖っぷちの36歳で騎士団長であるロドリゲスを垂らしこむことに成功し、ご懐妊と相成った。
彼女の家は廃爵した男爵家、王国の南に位置する温暖な気候に位置する南ルードリア地方。
王都からは少し離れてはいるのだが、彼女は半年のお休みを頂き大きなお腹を抱えて故郷へと帰って来ていた。
「ふ~」
「ゆっくりしていればいいのに…」母カーミラ・ヨークリー
「良いのよ、あまり太るのも良くないって言うし、動けるうちは自分のことぐらいしないとね」
「それにしてもお前が婚姻するなんて、諦めていたのに…」
「それはないでしょ、私だってまだまだチャンスがあるって思っていたのよ」
「昨年帰省した時はかなりあれていたんだがね~」
「昨年は昨年よ」
「まああんたが言ってた王女様には感謝だね~」
「ほんとよ 姫様がいなければこんな幸せは無かったわ」
「ところで旦那様はまだ帰って来ないのかい?」
「もう少しだって、今戦後のお片付けが有ってすぐには来られないらしいのよ」
「後2か月で出産なんだから、間に合うと良いね~」
「大丈夫よ姫様から教わった魔法と、下賜された魔法具があるから、お腹の子も健康そのものだもの」
廃爵された男爵家とはいえ、その理由は後を継ぐ男子がいなかったことに起因する。
この時代王家ももちろんの事、伯爵や侯爵と言った爵位を頂く貴族はすべからくお家騒動からは逃れられない。
特に男尊女卑のまだ色濃い時代となればどの家も後を継ぐのは男の役目、そう男子がいない家は必ず爵位返上、お取りつぶしの危機に陥るのだ。
オーラン・ヨークリーは50年前の魔族との戦争で手柄を立てた辺境出の騎士。
その父親も廃爵された子爵家の子として生まれた為、爵位復活は祈願だったに違いない。
だがその喜びもつかの間、婚姻を結んだカーミラとの間には男子が生まれることはなかった。
長女シャルルの下に3人の子をもうけたが全員女子と言う。
だがオーラン男爵は妾を取ることはしなかった、それほど妻を愛していたからだ。
そしてシャルルが17の時、父オーランは43歳で流行り病のためにこの世を去る。
懇意にしていた公爵家の推薦で長女シャルルと次女キャシアは城詰めのメイドになる道を選んだのだ。
そして19年経つがその間に二女は王子付きのメイドになってから3年後、その伝手で侯爵家の3男と結婚し。
今は西のウェストロード州にあるプラウド侯爵家で良い暮らしをしていると言う。
プラウド侯爵が登城するたびにキャシアも城へと訪れ、その度に中々相手が見つからない姉へと嫌味を言ってきていた。
確かに何度かいい縁談もあった、だがその度に良い物件はご令嬢達が横からかっさらって行ってしまうのだ。
階級で言えば下から見た方が早い廃爵された家の長女、貧しい家の出と揶揄されては苦い思いをしてきたが。
それでもメイドとして培ってきたプライドは捨てずにシャルルは歩んで行く、30歳を超えてからは自らの幸せより仕事に専念して来た。
だが35歳を迎えたある日、酒の力を借りたのも相まってか騎士団長と言う肩書を持つロドリゲスが何故か彼女をお持ち帰りすることになる。
常日頃から侍従長としての責務を全うしていたシャルル、酔った男子の介抱をするのは当たり前と言う考えでいたことも有り、何の抵抗もなく一晩を男と共にする事になった。
その日から何故か周りも気を使ってなのか2人きりにしようと画策する。
そしてつたないながらも何度かの交際を経てようやくシャルルとロドリゲスはマーシャのお・か・げで婚姻することになったのだ。
そして婚姻から遠ざかっていた騎士団長の子を目出度くご懐妊と相成った。
「フー これで終わりかな…」
母が行っているのは花売り、そして目の前には束にしたばかりの花がうずたかく積まれている。
この束を荷馬車に積んで次の朝早く母親は花を市場へと届けるのだ。
ルードリア地方は花や植物の生産と穀物の生産で生計を立てている農家が多い。
この地区はタム・ローラン公爵の管理下にあり、リンダ・タム・ローラン嬢の故郷でもある。
「あ~いたいた」4女ミシェル・ヨークリー30歳
「あら!」
「ただいま~」
「おかえり~」
「た ただいまです」3女アルマ・シーランド(アルマ・ヨークリー)33歳
「こんにちは叔母様方」3女の娘シロナ・シーランド10歳
「こ ん …にちは…」3女の息子ペーター・シーランド6歳
3女の娘シロナはスカートのすそを両手で持って完璧な挨拶をするのだが、6歳の長男はその陰に隠れてオドオドしていたりする。
2女のキャシアの伝手で3女のアルマも貴族の次男と婚姻し、2児の子をもうけていた。
「わー皆で来たのね~」
「来るわよ、姉さんの初子だもの」
4女のミシェルはまだ独身だが、彼女は薬学の研究をするためにアカデミーの研究科に所属し現在は魔王国との国境近くで植物研究所の為ソード山脈のルルド村で研究論文を作成するべく滞在している。
そして今回は姉の出産と聞き急遽故郷へと戻ってきたのだ。
「ここじゃなんだから、中に入って話そう」
すでに花の束は30個に分けられ木箱に詰められている。
家の中に入って行くと母と4女が台所に立ちお茶を入れる。
テーブルにはシャルルと3女のアルマ、そして子供たちが席に座った。
「どうそっちは?」
「うん…普通だよ」
「もし何かあったら相談に乗るよ」
「大丈夫よ、あれからは夫もおとなしくしているみたいだから」
3女の嫁いだ伯爵家はかなり男尊女卑の強い家系で長男以外は奴隷に近しい扱いを受けていた。
次男の嫁と言う立場の扱いは奴隷の女中よりひどかったのだ。
最初に生まれたのが長女と言う事で、姑からはかなりひどい扱いをされていた。
数年が経ち長男を産んでからはその扱いも少し和らいだのだが、舅であるマックス・シーランド伯爵が死んでからは風当たりがひどくなっていた。
伯爵家は現在長男であるベーター・シーランドが継いでおり本来ならば次男は別の職へと赴くはずが。
シーランド家は次男以下をまるで奴隷のように扱っている。
本来妻を守るべきはずの夫も姑と一緒になり自分の妻を奴隷のように扱っていたため。
数年前、里帰りした時シャルルは三女から相談されたことがある。
「そう、よかった姫様に頼んでよかったわ」
まだ妊娠する前、マーシャの教育係として王城にいたシャルルは幼いマーシャに三女の家の事で相談したことが有った。
その話が、まさか第2王妃様へと伝わり直接シーランド家へと、王家の紋章が付いた地方自治条例の指令書が届くとは思ってもみなかった。
2女の侯爵家は2人の息子をもうけた為ほとんど問題は無かったが、3女の伯爵家の血筋に対する考え方は周りの貴族達も一歩引いたところで見守っていた、下手に口を出すととばっちりを受けてしまう。
「姉さまにはなんとお礼をしたらよいのか…」
「別に私は何もしていないわ、全部姫様がしたことだもの、お礼ならば第3王女のマーシャ様に直接言ってね、姫様には私も色々してもらったから」
「聞いたわ、王国近衛騎士隊隊長と婚姻そして懐妊、ロドリゲス・バイロン騎士爵」
「まさかこうなるとは思ってもみなかったけどね」
「お父様もおじいさまも、草葉の陰で喜んでいることでしょう」
「くさばのかげって?」シロナ
「あら聞いてたの?」
母アルマの隣にちょこんと座り母と叔母の話に聞き入っていたシロナ、現在はアカデミーの初等科6年に編入している。
マーシャとの面識はないがその噂はしっかり聞いている。
2歳年下の王女、そして経った1年で中等科へと進学し今は高等科へと進学しているアカデミーの伝説的存在。
「草葉の陰と言うのはお墓の中と言う言葉の揶揄的な言い回しよ、昔はただ埋めて墓標だけを立てたの、そこにはいつの間にか草が生えてしまうでしょ」
「ふ~んそうなのですね…」
「そういえばシロちゃん学校はどう?」
「楽しいです、お友達もいっぱいできました」
3年前第2王妃からのお達しでシロナは7歳からではあるがアカデミーへと入学することになった。
それまでは男尊女卑のシーランド家では長男一家のみしかアカデミーに入学することが許されなかったのだ。
その後シロナは入学試験を受けて、優秀な成績を収め1年遅れだったが特待生として入学することになった。
「それは良かったわ、そういえばもう10歳よね、今回は3回目の舞踏会だったかしら?」
「はい、中々相手が決まらないですが、今回は必ず良い結果を出して見せますので叔母様も期待していてください」
「ほんとにあなたは賢いわね、でもあまり出過ぎると疎まれるから気を付けてね」
「分かっております叔母様、謙虚にそして美しくですよね」
そう言うと鼻息も荒く胸を張る、確かにシロナは賢くそして聡い子でもあるのだが、それ以上やや天然のところもあるのだ。
今期は第3王女のマーシャも舞踏会デビューと言う事もあってか、周りの大人はやや心配気味だったりする。
勿論マーシャが何をするのかと言う所が一番の心配なのだが…
周りの大人にはマーシャが特別でありそして彼女の機嫌を損なうと大変なことになると考えていたりする。
勿論直接会って話した大人はその聡明さや考え方も知っているので恐れはしないのだが。
普通の大人ならばまるで腫物を扱うように接するのではないだろうか。
「あらよく覚えているわね」
「ハイ」
「今年は第三王女のマーシャ様も参加するからできればお友達になってあげてね」
「伝説の王女マーシャ様ですね」
「で 伝説?」
「はい、私は1年遅れでしたので実際には会って話した事がございませんが、お友達は皆さんそう言っておられました」
「そ そうなのね」
(またえらい持ち上げられようだわね)
「一度遠目から見た限りではかわいい女の子と言う感じでした、おばさまは王女様の教育担当とお伺いしましたが?」
「合計4年間身の回りと魔術の指導をしていました、あの方は特別です」
「やっぱり、そうなんだ…」
「そうだ今度シロちゃんの魔法を見せて」
「はい、私治療魔法得意なんです」
この後、姪であるシロナの聖魔法を見てびっくりするシャルル、鑑定魔法でシロナのスペックを見てみるとそこには飛んでもない情報が有ったりする。
さて今年の舞踏会はさらに登場人物が増えていくのだが、あまり増やしても主人公とのつながりを書き切れるのかどうか…
乞うご期待!




