閑話(トラム王子)
閑話(トラム王子)
王国の第2王子として生まれたトラム、12歳になり毎年開催される舞踏会にいやいやながらも参加する。
今年で4回目、1年目の舞踏会では散々な目にあった、まだ生意気だった頃年上の貴族令嬢にいいようにあしらわれ、舞い上がっているところを兄上に諭された。
「トラム 我が弟よ舞い上がるのも良いが周りの女性たちはああやって自分の伴侶としてふさわしいか値踏みしているのだぞ」
すでに2人のご令嬢を孕ませて身動き取れなくなった第一王子のカイル。
美麗な外見を利用し自らの体を使い言い寄るご令嬢は後を絶たない。
今では第一王子には常に護衛が付き、ことあるごとに言い寄る女性達を近寄らせぬように目を光らせている。
これ以上の婚前交渉を避けるには仕方が無い事だ。
身から出た錆びとはいえ、欲望に逆らえなかった第一王子、まだその時は彼も中等部だったのだが、その体はすでに大人と同じぐらいにまで成長し、もちろん外見は金髪碧眼のイケメンなのだから言い寄る女子が沢山いても仕方が無かった。
「ではどうするのです?」
「一番良いのは一人に定める事だ、俺のように何人も相手をするといつか女性の言う事を断ることなど出来なくなる、それともお前は子供が欲しいのか?」
「いいえ兄上、私は兄上のように子を成すつもりはございません」
舞踏会ではほぼすべてのご令嬢と踊ることになる、中にはお話だけと言う事もあるのだが、それでもこの行事が何のため行われているのか、そのぐらいの事は皆知っている。
将来の伴侶を見つける為には、男より女性の方が必死にならざるを得ない。
王国も基本的には男尊女卑であり、ご令嬢達の争いはかなり熾烈になっている。
特に廃爵されそうな貴族のご令嬢はこの時期は特に必死とならざるを得ない。
「一人にですか?」
「ああ そうしないと毎年参加しなければならないし、お前のそばに寄って来る女は後を絶たないぞ」
「ですが私は…」
「一人に決めれば後は自由に動けるし、将来と言ってもお前は王位を継ぐわけでは無いだろう」
「兄上はそれでよかったのですか?」
「はじめはそれでいいと思っていたが、今は後悔している だから俺の様にはなるなよ」
トラムから見ればカイルの状況がそれほど悪いものだとは思ってもみなかった。
王位継承権1位、父王の後を継ぐのはまだ先の話ではあるが、外見も威厳も自分より優れていると思っていた。
自分がそれほど劣るとは思わないが次男として何をすべきか、女性問題を除けばちゃんと将来のビジョンも持っている兄は尊敬すべきだと思っていたが、そんな兄が後悔していると言う。男女の付き合いとは婚姻とはそんなに面倒な物なのか?
「お前は俺より性欲が強くなさそうだからそれほど心配いらないが 特に胸をはだけて色気で近寄って来る女には気を付けろ」
そう言われても舞踏会は基本全員と踊るわけで、毎年参加しているご令嬢は100人近くいる。
確かに8歳からの参加なので1年目のご令嬢はそこまでガッ付く女子は居ないが。
自分より年上の女性たちはなるだけ上位の貴族との婚姻を望んでいるのは確かだ。
第2王子の立場がゆくゆくは公爵位を継ぐことになるのだが、その相手はやはり侯爵か伯爵以上の爵位を持つ家の出であることが望ましい。
王子としての教育はちゃんと侍従達や城小父達からも受けている、確かにこまごまなことが多いが、王子としての威厳だとか、立ち振る舞いとかはちゃんと身についている。
兄の背中を見てきたおかげでどうすればうまく立ち回れるのかはよく分かっているつもりだ。
そして今回も舞踏会に参加すると、以前も見かけた常連のような姦しい女たちが待ち受けていた。
【第2王子様トラム・シュバリオール・アルフレア様のおなーりー】
「第2王子トラム様ご機嫌麗しゅうございます」
「麗しゅうございます」その他大勢
会場となる宮殿の大広間、向こう側では王宮音楽家達で編成した楽団が雅な音楽を奏でている。
すでに他の参加者は全て到着している様子。
「さあ踊りましょう」シュオリー・ライデン侯爵令嬢
前回も彼女が一番最初に私と踊った、だがこの娘はすでに18歳だったはず。
トラムより6つも歳が上であり後がないのか、他のご令嬢たちを部下のように侍らせて自分を引き立てるようにこき使っている。
前回も舞踏会の後で向こうから恋文をよこしていたが、やんわりとお断りしている。
断ってもこうして最初に手を取る辺り、彼女は鉄の心臓の持ち主なのかも知れない。
その後も順番が決まっているのか次々と美しい女性達との競宴は続いて行く。
約3分から5分で相手を変えているのだが、さすがに1時間を過ぎたあたりで疲れて来るのは仕方のないことだ。
そしてようやく中休みの時間となり、歓談の時間が来たがトラムは中庭へと新鮮な空気を得ようと外へ出ることにした。
勿論そこにも何人かご令嬢がいるのだが、その中にちょっと変わった女の子が一人。
そのドレスも飾りも今までに見たこともない服装だった。
「シュ!フーシュ!」
中庭の花壇から少し離れた空き地でまるで踊るように拳を突きだす、それが武道の型だと分かるのに少し時間がかかったが。
何故だか声を掛けづらい、その姿が真剣に見えたからだ。
「見ちゃった?」
「あ 見てはまずかったのかな?」
「いいえ、不味くはないです 始めまして私はローラン家の長女、リンダ・タムローランと申します」
「第2王子のトラム・シュバリオール・アルフレアです」
「第2王子様!」
「あ~別にかしこまらなくても良いよ、舞踏会に少し疲れてきて休んでいるところだから」
「ところで君の踊りは変わっているね」
「あ~これは演武と言って武術の型の一つです」
「そうなんだ、君は今回初めての参加?」
「そうなんですよ、一生懸命ペアの舞踏を覚えたんですけどね…」
「相手がいなかった?」
「そ そうなんです!」
「多分その着物だからじゃないかな?」
「おかしいですか、我が家の正装なので、父や母にもこれじゃないとだめだと言われまして」
その服装はいわゆるチャイナ服に近い、割とピタッとした服で足以外は全て布で隠すタイプ。
真っ赤な生地に金と銀の刺繍が入った手間のかかったものだ、確かに他の令嬢たちが着るドレスより華やかさに欠けるが、両足の脇に入った切れ込みは中々男心をくすぐる。
だがそのドレスを見て寄って来る男子は居なかったのだろう、まだ8歳と言えば外見は少女であり、着飾ってもたかが知れている。
それに比べて年長のご令嬢達のきらびやかなドレス、そして膨らんだ胸を見れば自分がそこにふさわしくないように感じて外へと出て来てしまったのだ。
「そうかそうか、ならばまだ踊っていないんだね、そういう事なら僕と踊らないか?」
「いいの?」
「なんか順番が決まっているみたいだけど、同じような服装の相手と踊るのは飽きて来たんだよね」
「そうなんだ…」
「それじゃそういう事で」
「え?ちょっと…」
いつの間にかリンダの手を取り会場の中へと入って行った。
その後は何故かワクワクしたのを覚えている、今まで会った女の子たちと違う少し変わった子。
そんな彼女に興味がわいた、その後彼女へとラブレターを送り一応婚約までしたのだが。
いや、この出会いは必然だったのだろう、最初は彼女が公爵家の娘だとは思ってもみなかったのだから。
まるで太陽のような彼女に次第に惹かれていくトラムは、いつの間にかリンダ嬢の尻に敷かれてしまう所だったが。
6年の月日が過ぎ、マーシャのダンジョン攻略へとトラムは参加することになる。
そして約束をするのだ、正式な…ね
(師匠ご相談が?)
(なんじゃ)
(ごにょごにょごにょ)
50階層のボスから得られたお宝、骸骨王の王妃が落としたレアドロップ。
それは大きなダイヤモンドがきらびやかに光る婚約指輪、それを目にして物欲が出ないのはマーシャぐらい。
リンダは確かにトラムには50階層のお宝である腕輪・戦女神の証ぐらいプレゼントしてくれればトラムの事を見直すと言うようなことを言ったらしい。
だがダイヤの指輪を見たからにはなにやらそれをマーシャからトラム経由で渡されるように作戦を思いついたらしい。
「それで?」
「ダイヤの指輪をトラム様とフォルダン様の試合に掛けて欲しいのです」
「アマンダ王女の婚約者の彼か、なるほど だがそうなると負けた場合向こうに取られてしまうが?」
「それは覚悟の上です、その代わり負ければ師匠の下僕として私もお仕えすると言う事で」
リンダ嬢にとっては負けても勝ってもマイナスはないが、第一王女のアマンダにとっては負けた場合かなりの屈辱になるのではないだろうか。
それにマーシャにはまだ第一王女アマンダの考えている事までは分からない。
王族の中ではマーシャに次いで魔力を持っている可能性がある、一度彼女を鑑定魔法ではなくスキルを使用して詳細を調べたが特殊能力やスキルの場所は全て?マークがかかっていた、もしかしたら隠蔽のスキルを持っているのではないだろうか?
そんな人が下僕になるかもしれない賭け試合になど婚約者と共に参加などするものだろうか。
第一王女が話に乗ってくれればマーシャにとってはその話に乗ることにマイナスはないのだが。
「その賭け試合、アマンダは受けると思うのか?」
「フォルダン様は手柄を欲しております、婚約指輪が賞金となり、その先に正式な王族との婚儀がかかっているのでしたら断ることはないと思います」
「なるほど面白そうじゃな…」
「もちろん私とトラム様は負けることなどないように特訓をいたします、絶対に勝って見せますのでどうか師匠お願い致します」
と弟子に頭を下げられては言う事を聞いてあげない訳にはいかない。
問題はフォルダンとアマンダにどう伝えたらよいのかと言う所なのだが。
この結末は別な機会に話すことにしよう。




