58階層
58階層
時刻は昼の11時を過ぎ昼食の時間となった、本日は60階層の攻略が終わると61階層の転移魔方陣で到達を記録し撤収する予定になっている。
二日間でもかなりのお宝を手に入れる事が出来たのはマーシャのLUK100%が大きく影響しているのは確かだが、次回来るときはかなりパワーアップしておかなければいけないと、各自考えているところだろう。
このクラールダンジョンならばマーシャ一人だけでも攻略は可能だが、それをやった所で誰も喜びはしない。
ダンジョン攻略はマーシャの趣味と実益そして訓練を兼ねているのだがそれだけではない。
仲間の成長具合を確かめる事、そしてダンジョンと言う場所でどれだけ各自の力を発揮できるかと言う事もマーシャの考えの中に入っている。
これはマーシャが生前、学生だった頃クラスを纏める時に使った手をそのまま改良したものだ、仲間を助け教えることで、ともすれば仲間外れになる生徒をなくすこともできる。
この世界と元居た世界とはその構造も違うため、行う事には多少工夫している。
魔法と言うのは生前ならばインターネットを使用しているのと近しい、武術と情報その両方で自分だけでなく仲間をも巻き込み能力のかさ上げができるのだから。
だが今回は天使からの情報も有りマーシャは今少しモヤッとしていたりする。
今日このダンジョンでは60階層までしか攻略しない、となれば最後の60階層で何が出て来るか分からない。
神と言う者が何を突き付けて来るのか定かではないが、多分それはマーシャにとって人生を左右するようなさらなる問題事が起きる幕開けなのかもしれない。
「少し早いが昼食にするか?」
「はい姫様」フロウラ
58階層の転移魔法陣のある転移部屋にテーブルを出し、サラダやサンドイッチを並べていく。
他のグループから見たらかなり贅沢な食事と見えるが。
もう4度目ともなれば皆食事の風景に慣れてはきたが魔族の3人は食事の度にやや落ち込んでいる様子だ。
魔力は修行を積めば誰でも高める事ができる、この世界がそういう風に作られている事は皆が知っている事であり、それこそがこの星に住む者に与えられた恵みなのだ。
目指すところはそれぞれ違ってはいても、することにさほど違いが無いはず。
この攻略が終われば全員が又一皮むけている事だろう。
「食事をしながらで良い 聞いてくれ、後三つ階層を攻略すれば今回の攻略は終了となる、その後は今まで手に入れたドロップ品を各自に配ることにする1層に戻った後はすぐに帰らず待機しておくようにな」マーシャ
「はーい」
58階層は闇夜、季節感も時間帯もバラバラな階層設定、空には大きな満月が地面にうっすらと灯りを落とす。
時折狼が発するような雄叫びが聞こえて来る。
「ワオウオ~~ン」
「狼?」
「そのようだな」
「フィジカルアップ」
「ディフェンスアップ、プロテクション、マジックガード」
「ホーリーウォール」
仲間がバフを掛けていく、この階層で出現する魔物の種類は鳴き声からは狼だと分かるが。
狼と単純に言っても種類は5つほど考えられる。
魔狼、氷狼、火炎狼、人狼、灰色狼など。
この世界の狼は基本的には魔素を扱う動物と考えて良い。
成長すると闇に潜み闇を操る魔狼。
冬山や雪深い土地に生息する氷狼。
火山や特定の島に生息する火炎狼。
魔法で呪いを掛けられた人と狼の混血種。(特殊な条件で変身する)
そして通常みられる野生の灰色狼。
これらのうち、まだ出てきていないのが変身種と火炎狼、ワーウルフは人狼とは違い狼の進化した姿ともいえる。
「足音?いや獣が走る音か…」
「来たぞ!」
58階層の転移部屋から外に出て数分、目の前には100匹は超える狼の群れ、だがその姿は今まで見たことのない狼の姿。
「各自攻撃開始!」
「アイシングピアス」
「マッドバレット」
「エアカッター」
「ホーリーアロー」
「ダークショット」
「行くぞ!」
「おお」
魔法職が先制攻撃を掛け、前衛6人が敵めがけて走り出す。
「シッ!セイ!」
「ガスン!ドスン!」
「ブシュ!ズシュ!」
「ザン!ガシュン!」
「キャン ガウガウ」
「キャンキャン!」
数は多いがそれほど脅威ではない、だが前衛6人がそれぞれに10匹を屠った所でこちらの動きが鈍くなってくる。
「ま まだ終わんねー」
「こいつら何匹いるんだ」
その数は減ることが無い、よく見るとまるで転移魔法でも使っているかのよう。
まるでどこからか瞬間移動で転移して来るのか、倒しても次から次へと現れる。
「数が減らぬな」
「マーシャ様これは?」
「うむ魔法でリポップ時間を最大に早めておる様じゃ」
「時間魔法?」
「試しに掛けてみるか」
「時の神よその力で悪しき者達に静寂を マジカルフリーズ」
一応アカデミーでは時間魔法の発言方法として、祝詞はこのように発声することになっている。
勿論マーシャならば声に出す必要などは無いのだが、仲間の手前無詠唱で上級魔法を掛けるわけには行かない。
「やはり」
「止まりましたね」フラン
「姫様これは?」
「どうやらこの階層は相手をどうやって止めるのかを試される階層みたいじゃな」
「あーしんどい」ミミー
「はあはあ」カバネル
狼の色は肌色に近い茶色、もしかしてこの設定だけの為に作られた魔獣なのかもしれない。
数をかぞえるとちょうど100匹、1匹退治するとすぐに1匹追加される。
これではいくら退治しても終わることなどありえない。
マーシャでも100匹一瞬で屠っても秒で復活されるなら、退治することなど不可能だ。
柵を作って閉じ込めると言う手もあるが、考えようによってはパワーレベリングに使えなくもない、その代わりかなり力を付けて臨まなければエンドレスで湧く魔物に飲まれてしまう事だろう。
「この隙に次の階層へ進むぞ!」
「はい!」
「全員走れ!」
マーシャのストップ、時間魔法ならば数時間まとめて止める事ができるのだが。
多分そうやって敵を危機的な状況に追い込んだ場合、自動でリポップを始める設定が無いとは限らない。
直感的な可能性を信じて全員で59階層への出口へと走り出す。
全員が出口へと向かい始めるとやはり数匹が消えると同時に別な場所からリポップを始めた。
「いそげ!」
「やベー復活すんのかよ!」
「ダダダダダ」
その後は安全地帯まで走る走る、いつの間にか獣人2人が先頭を走っていたのが印象的だった。
まあ獣人2名ならば修行するのにちょうど良いかもしれない。
「はあはあはあ…」
「しんどい…」
「この58階層は戦うならスタミナが必要じゃな」
「逃げるには俊足又はハイディングですかね」チャッピー
「そうだな」トラム
58階層は100匹の狼をものともしない胆力、そして大きめの狼5匹ぐらいを同時に屠るパワーが必要なのではと結論づける。
クラールダンジョンの場合魔法陣のある部屋から外へ進むと手前の階層には戻れない、攻略不可能な階層があった場合、逃げる事で次の階層へと進むしか方法はなくなる。
勿論死んでしまえば1階層へと戻ることもできるのだが、そうすると次に来た時の踏破階層が減らされる可能性がある。




