55階層
55階層
52階層から54階層まではほぼ一度戦った事のある魔物ばかり、迷路のダンジョンは51階層だけで後は草原や墓と言ったお決まりのロケーション。
やはり250階層まであると言うダンジョンだけあって急に強い魔物が出現すると言う事は無いらしい。
「慣れてきましたね」リリアナ
「ふむ、今までのおさらいと言った所か、だが予断は禁物じゃ」
「はい かしこまりました」フロウラ
53階層54階層と一行は難なく攻略を完了する。
そして55階層の扉を開けるとそこにはでかい十字架が。
「何じゃ?今までの階層とは趣があまりにも違うな」
「あれは十字架ですよね」チャッピー
それはど真ん中にそびえたつどう見ても真っ白な十字架。
その形はロマール教会でもよく見られる一般的なものだが、大きさは数十倍。
「なんだ?これ?」カバネル
仲間の一人がその十字架に触れると、辺りが閃光に包まれる。
「ま まぶしい!」
「なんだ!」
その眩しさがようやく収まると自分以外の全員が姿を消していた。
「なんじゃ!」
「ようやく来た」天使
「ん?その姿は?」
「もう忘れちゃいましたかね~」
「堕天使か?」
「失礼なちゃんとした天使ですよ!もう忘れたんですか!」
「天使には良い思い出が無いからな」
「え~ショック!」
「ところでこれはどういう事じゃ?」
「あ~あまりにも晴乃香さんが連絡してくれないので魔素の多い場所を選んで特設会場を作ってみました、もう大変だったんですよ~」
「まだ仕事は終わっておらぬが?」
「なんだ~ちゃんと覚えていたんじゃないですか~」
なんと目の前に現れたのは転生時におかしな仕事を斡旋してきた天使だった、確かに連絡してくれと言われたがそれは困った時や、どうしようもなくなった時だとマーシャは思っていた。
「何か用か?」
「あ~それですそれです、実はお伝えしたいことが…」
「今更仕事は無しとかいうわけでは無いよな?」
「…」
「図星か?」
「いや~そうではないのですけど~」
「はっきり言わぬとただじゃおかぬぞ!」
「ひえ~そんなに怒らないでくださいよ~」
「怒ってはおらぬ、だがあきれてはおるが?」
「そんなに信用無いですかね~」
「間違ってスキル渡すなんて、その時点でアウトじゃろう、しかも呪いまでそのまま付けて転生させるとは、神も苦労するの~」
「え 何でばれた」
「それで?スキルは回収できたとかか?」
「あ~そのことで一つご相談が…」
「何じゃ?」
「回収は済んでいないので引き続きお願いします、そのことで付加情報がございます」
「それで?」
「実は回収するはずのスキルが優先して悪性スキルを食べてしまう事が分かりまして」
「と言う事はどういうことだ?」
「まああまり危険性は無くなったと言う事だけお伝えいたします」
「なんだ、そんな事か」
「それともう一つ」
「まだあるのか?」
「実は神様に今回の事がばれまして」
「それは良くない話と言う事か?」
「は はい…」
「おぬしの方からどうにかできなかったのか?」
「バレた時点で私にはどうにも…」
「と言う事はどうなるんだ?」
「神様の方からご連絡が来る可能性がございます」
「まあそうなるよな、それでこういう時の神様の対応は天使として分かっているわけだよな?」
「…」
「もしかして今度はこちらに追っ手を差し向けたりとかか?」
「申し訳ございません~」
「話になんねーな、追う立場から追われる立場とかふざけやがって!」
「まさかこんなことになるとは…」
「そんで何時神様が文句を言いに来るとかは分かんねーのか?」
「本日中には…」
「全く天界もろくでもないな、本当はあたいも死ぬはずじゃなかったんだろ!」
「…」
「やっぱり」
「どうしてそこまで?」
「悪いことなどしたことないからな、今考えても良い事しかしてねーのに、しかも加護までついていたとなりゃどこかの馬鹿が仕組んだとしか考えられねーだろ!」
「確かにその通りでございます」
「神が守っているのに、素行は別として善行の良い人間を犠牲にするとか、神に敵対するのはもしかしてそいつも神じゃねーのか?」
「ギクッ!」
晴乃香がビルの下を歩いていた時に白井一郎を自殺するように仕向けたのはやはり神であり天界にいるはずの7人の神のうちの一人。
本来天使を使役して魂の選択業務を行っているのは転生神と言う神であり別名大黒天ともゼウスとも言われている、本来一番偉いであろう神。
そう他にも神は居る、戦いの神とか五穀豊穣の神とか慈愛の女神様とか言われているが基本は7人もしくは7体いると言う話。
その神に今回の事がばれたと言う、だがそうなったのはこの転生システム自体に反対を唱える神がいると言う事か?それとも自分の置かれている地位、それをよく思わない神が邪魔をしていると言う事。
本来請け負ったスキル回収の仕事が今回の事で余計難しくなってしまった。
いや元々単純な仕事では無かったと言う事なのかもしれない。
「それであたいが死ぬように画策したのはどいつだ?」
「そ それは…」
「戦の神かそれとも呪いの神か?」
「申し訳ございません、私の口からはお伝え出来ません」
「そうすっと転生神に聞くしかないと言う事かよ!」
「はい…」
神が割れている、というかもともと一人では無いと思う節はあった。
この世界だけでは無く時間軸が違うとはいえ魔法のある世界があるのならその世界の管理は誰がしているのかとか。
他の世界にしか転生できないと言う場合のチートなスキルの数々はどういう差別だと。
今までと言うか、死ぬまでは分からなかったことばかり。
簡単に考えても7人以上いるだろうとは思っていたが、しかもその神の一部が悪さをする神だと言う事も今回知る事ができた。
ならば神と会って問いたださなければいけない、それにこちらから見て敵となる神がいるのならば、今後そいつはこちらに対抗してくることが考えられる。
今回はマーシャの代わりにスキル2つを与えられ転生した人物が敵の手先となる可能性が一番高い。
もしかしたら他にも敵対している神が敵対する魂を転生させて、こちらの邪魔をしてくると言う事まで考えられる。
「全く厄介な仕事を丸投げされたもんだ、全部終わったらお仕置きもんだぞ!」
「ひ~~」
「そいで私の仲間は?」
「ああ皆さん夢の中です、一応晴乃香さんの為にこの階層借り受けましたので」
「そうなんだ、まあ色々分かって来たよサンキュな」
「は?よろしいのですか?」
「仕方ねーだろ!それに戦いが増えんのは別にイヤじゃねーし」
「あ~そういうお方でしたね」
「そのためのスキルだろ!」
「一応私から話せるのはここまでですので、詳しくは神様から聞いて下さい」
「分かったよ、じゃあまたな」
そう言ってさようならをするが、天使はまだ何か話したそうだ。
「なんだまだあんのか?」
「はい できればもう少しご報告を密に…」
「いやいや、そりゃ無理だぞ、ロマール教会に行けってことだろ!」
「はい、何か問題でも?」
「聖女なんてごめんだぞ」
「いやいや晴乃香さんはすでに聖女ですから、と言うより神に近いですよ」
「それって又面倒事押し付けたいって事じゃねえか?」
「そんな怖い顔しないでくださいよ~」
「したくてしてるわけじゃねーだろが!」
「知っていますよあなたが正義の味方だって事は~」
「…そ そりゃなりゆきじゃねえか?」まんざらでもない。
「好きで人助けする方などいませんよ、もしかしたら神様から又いいものもらえるかもしれませんしね」
「これ以上くれるってことはもっと面倒事が増えるって事の裏返しじゃねえのか?」
「さすが晴乃香様よくわかっていらっしゃる!」
「やれやれ、もう怒る気もしねえよ」
「それでは良い知らせをお待ちしています~」
そう言うと今度こそ目の前から天使は消え去ってしまい、目の前にある景色は最初に見た巨大な十字架のある草原に戻っていた。
「あ マーシャ様!」フラン
目の前には17人の仲間が横たわり全員が今まで眠っていたかのような形で、次々に目を覚ます。
「おれらどうして?」カバネル
「夢か?」ロッド
「寝てしまったのか?」クロイス
「魔獣は?」グロシュ
「どうやらこの階層全体が安全地帯みたいじゃな、但し今回だけ特別の様じゃ」
「そうなのですか?」フロウラ
十字架は相変わらずその巨大さを誇っているのだが魔獣もワプスも湧き出て来ない所を見ると。
天使の言っていたことは嘘では無いのだろう。
だが本来そんなことはあり得ない、天使がインスタンスで作り上げた場所だからこそ魔獣がいないと言うだけで。
本来ならばこの階層も実はちゃんと魔獣がいる階層なのだ。
その証拠に地図には十字架などの記載は現れておらず、魔物もガルーダとビッグボアが出現すると書かれていた。




