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転生した王女はとんでもなかった(天使の過ちは丸投げです)  作者: 夢未太士
ダンジョン攻略・後編
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51階層の夜

51階層の夜


50階層のボス部屋をマーシャのおかげで一人の脱落者も出さずに攻略できた一行。

時間的にはすでに夜7時を超えている為、本日は51階層の転移魔法陣がある安全地帯で野営することになっている。

だがこの人数が宿泊するには少し狭いかもしれない。


「今日はここで野営する、皆お疲れ様 明日は朝6時に起床し7時から朝食、8時から60階層を目指すとしよう」

「ではお食事の用意をいたします」リリアナ


マーシャとリリアナそしてフロウラ達がストレージから調理済みの料理をテーブルの上に並べていく。

18人と言う大所帯になったが、持って来た食料が少ないと言う事は無かった。

ストレージに入れられた調理済みの食料はストレージから出さない限り傷むこともない。

それに調理済みの料理が少ない場合でも、その場で調理することも可能な道具を全て持ち歩いているのだ。

「これはすごい」クロイス

「そういえばクロイス皇子はお食事など、どうするおつもりだったのでしょうか?」

「いや我らはストレージ魔法もようやく使えるぐらいで、持って来た食事は干し肉と固焼きパンそして水筒ぐらいだ」

「8人で来たのですが5人がやられて死に戻りしたので…」

「その中に食事を持って来たストレージ持ちがいたのですね?」

「はい、死神に最初にやられてしまいました」ドルチェ

「あれはどうしようもない背後から音もなく現れて後ろを見た時はもう遅かった」グロシュ


32階層で現れたレアモンスターのデス(死神)、文字撮り鎌の一振りで魂を抜き取ってしまう。

だが神聖魔法が使えるならば対処はさほど難しくは無かった、マーシャの聖なる槍でアストラル体とみられるその姿はあっと言う間に消し去ることができたのだから。


「クロイス様の部隊には神聖魔法を使える者は居なかったのですか?」ジル

「神聖魔法を使える者はいたのだが…」

「もしかしてそれも荷物持ちの子?」チャッピー

「その通りです」クロイス


最初に神聖魔法の使い手が死神によって死に戻りしてしまえば、対抗する手段は神聖ポーションか又は神聖魔法のスクロールでしか死神に抵抗する手段は無くなる。


「神聖魔法の勉強はしていないのですか?」

「トラム王子 我らの魔法学園では神聖魔法は下っ端の魔法と言われています、理由はこき使われるからなのですが」グロシュ

「要するにお付きのメイドや下士官クラスの仕事だと言う事じゃな」マーシャ

「そうです男爵位から上の魔族で神聖魔法を取得する者はほぼおりません」グロシュ

「これからはそれでは済まないと思うぞ」マーシャ

「どうしてです」フラン

「ダンジョン攻略に不必要な魔法など無いからじゃ、今回の事で分かったじゃろう?」

「確かに今までもほぼ全員が全部の魔法を出し切っていますね」リリアナ

「姫様を除いてね」チャッピー

「皆を率いて連れて来るのじゃそのぐらいの余力は無いと恥ずかしいじゃろ」マーシャ

「参りました」クロイス

「急にどうした?」

「いいえ御見それしました、貴女のような方が王国にいらしたとは、自分の力など恥ずかしい限りです」クロイス

「そうか?別に妾は見下したりせぬし、自分の力が及ばないのならば修行すればよいだけじゃ、おぬしらはまだ若いのだからな」マーシャ

「若いって…姫様もでしょ」チャッピー

「そうだったな アハハ」

(うっかり18歳+8歳と言う感じで話してしまう)

「用意できましたよ」フロウラ


いつの間にかメイド服に着替えて給仕をこなすフロウラとジル、そしてカユーラ。

ラランカ達獣人も机の上に食事を並べるのを手伝っている。


「それでは食べるか」

「はい」

「今日の糧を我が前に、本日の恩恵に感謝します 頂きます」

「いただきます」

「そういえば戦女神の証はドロップしなかったのか?」トラム

「ん?そういえば…有ったか?」


マーシャはそう言うとストレージの中を調べてみる。

戦女神の証:ブレスレット、腕にはめた者に様々な幸運をもたらす、通常は各能力に+10補正、そしてリジェネ分/+10、DEF+30、LUK+20。

だがその腕輪の所有権はマーシャでもトラムでもそしてリンダ嬢でもなかった。

《この腕輪は一番HPを減らされた戦士にささげられる》

どうやら50階層ボス部屋で一番やられた冒険者へと送られるブービー賞


「どうだ?」

「ありましたが所有権は秘密とさせていただきます」マーシャ

「なんで?」

「私でも兄上でもないからです」


まさか魔族の皇子に権利があるとはまだ言えない、しかもそれがブービー賞的な物だとここで言ってしまうとクロイス皇子もトラム王子も気分を害してしまう。

それは婚約者のリンダ嬢も同じと言える、その腕輪がもらえると言う事は一番弱いからなのだと言う話。


「最後の楽しみと言う事なのね」リンダ

「そ そうじゃ、攻略が終わるまでな」


リンダ嬢は何かを察したのだろう、それ以上はあまり詮索しないことを決めたようだった。

(師匠!後で理由を聞かせていただけますよね)

(もちろんじゃ)

まあその他のレアドロップ品と比べたらその腕輪はさほど重要ではない。

多分リンダ嬢は他に欲しいものがありそうだ、確かにマーシャのストレージにはそれらしきお宝が無数にあるのだから。


「さあ早く食べましょう」


料理の量はこれでもまだ半分以上がストレージに有り、明日の食事も同じように豪華なままは変わらず。

何より新鮮なまま食べられるのだからストレージ魔法は便利だ、もうこの魔法無しではダンジョン攻略など無理だと言って良い。

食事をしながら学生たちはおのずと魔法の事や学院の違いなどを話し合う。


「そうか、ならば神聖魔法を学びに王都アカデミーへ留学すれば良いのではないか?」トラム


魔族達の中には神聖魔法を卑下するような考えが有るらしい。

神聖魔法を魔王国の魔法学園で学ぼうとすれば他の魔族達が下々の魔法だと馬鹿にする。

そういう変なプライドが自分たちの能力を下げているとも知らずに。


「そうしなよ、せっかく魔法を学びたいのに変なこだわりがあるんじゃ、それに武術も学べるわよ」リンダ

「魔王国の魔法学院では武術はあまり教えないからな」グロシュ


魔族の武術は爵位持ちの一子相伝的な、門外不出な武芸と言う位置付けらしい。

学院でもよほどの理由が無い限りそれを学ぶものは少ない。

そのままでも身体能力が高い魔族、体を鍛えるのは弱い証拠だと笑われると言う。


「愚の骨頂じゃな、どんな訓練も己の力を上げる事はあっても下げる事は無いぞ、まあ王族として神聖魔法取得の先陣を切ると言うのも良いじゃろう」

「私に神聖魔法を学んでみろと?」

「妾は全部使えるぞ、もちろん武術もほぼすべてじゃ」

「高みに上るならば、全てを知る事」リリアナ

「そして己の矮小さを知るべし」トラム

「王国の賢者ダルタニアン・カンタベリー・シュツアートが書いた本の一節ですね」ミミー


今から500年前まだ王国が周辺諸国と争っていた時代、知将として名をはせた将軍がいた。

彼はいわゆる勉強の鬼だった、少ない休憩時間でさえ片手にはペンを持ち執筆をしながら食事を摂ったり。

仕事をしながら本を読むと言う、変わり者だった。

だが転機が訪れる、彼はさる領主の頼みでその地方の政治を任された、当時はどの領地も戦乱により荒れ果てていたが。

彼はその知性と行動力であっという間に自分の住む領地を発展させて見せた。

しかも管理するための方法も、村人に分かり易くするための教育法を取り入れた。

その当時最下層の村人に勉学などと言う、支配しにくくなるようなことを教える国などは無かった。

だが彼は知る喜びを村人に与え、そして当然だが自分の国に住む者達すべてに等しく学問を与える事を提唱した。

するとどうなったか?その辺境の領から始まった学びの志は見る間に国を包み、周りの国が攻め入っても戦場では絶対負けないぐらい文武共に優れた国へと変化していった。

数年後彼は国王に召喚され報奨金を貰い賢者の位を賜った。


「…考えておきます」クロイス

「皇子様が行くなら私も」ドルチェ

「王国へ来たならば私が案内しよう」トラム

「私もご一緒するわよ」リンダ


そう遠くない日に魔王国の第三皇子はアルフレア王国へと訪問するだろう、それが交換留学となるかそれともただの旅行となるかは別として。

この後もダンジョン攻略を続けるのなら、神聖魔法の取得は必須項目となるだろう。

回復系の魔法だけでは無くアストラル系の闇属性魔物を屠れなければ、魔族だけでのダンジョン攻略は難しいのだから。


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