40階層の前
40階層の前
39階層も終わり、目の前にはボス部屋特有の大扉が現れた、だがそれだけではないどうやらマーシャ達より先に40階層ボスへ挑戦しているグループがいるらしい。
時折ドスン ガスン と地響きを立てながら戦闘中の擬音が響いてくる。
「先に誰か挑戦しているようだな」
「もしかしたら冒険者のグループでしょうか?」リリアナ
「ここまで来れる実力が有ってまだ出合っていないグループだと王都から来ているA級クランの赤き盾かな?」カバネル
10階層のボス部屋のような扉のないオープンタイプならば中を覗くのも構わないが。
先着のグループがいるのに勝手に覗くのはエチケットに反する。
それに、ボス部屋の扉は一度入ると戦闘が終わるまで開かない仕組みになっている場合がほとんどだ。
「待たないと進めないようですね」フラン
「そのようだな、今のうちに各自装備の点検をしておこう」マーシャ
「かしこまりました」
マーシャの命令で各自が身に付けている防具や武器の点検を始める、防御魔法で守られながら戦闘を行っていても防具や武器には必ず寿命が存在する。
勿論寿命を長くすることは可能だし、再生することもできるが普通はそこまでの技術を持つ冒険者はいないと言って良い。
チームマーシャにはマーシャと言うアーティファクトクリエーターが存在するので、もし壊れていたり破損した場合はダンジョン内で補修が可能だが、通常の冒険者は町にある武器屋や武具屋に預け修理や補修を行う事になる。
「破損が大きな武器は持ってくるがよい、妾が補修するぞ」
実は最近リリアナも武具作成を手伝っていたりする、土魔法の造成魔法は上級を取得すると金属加工のスキルが派生する場合がある。
マーシャから下賜された指輪の効果による事も大きいが、彼女は端で見ているよりやはり自分も創造してみようと思ったらしい、最近はマーシャには及ばないがジュエリーの加工も手掛けていたりする。
「わたくしもお手伝いします」リリアナ
何故か魔族の3人がマーシャの元へと寄って来た。
「姫様このような形でお恥ずかしいのですが、私の武器を見ていただけないでしょうか?」グロシュ
「かまわぬぞ」
それは樫の木でできた杖ではあるが、どうやら仕込み杖の様で先端の飾り部分には水晶や黒魔石で飾られていた質素な作りだが、金具を横にずらし取っ手を引くと細身の剣がするっと樫の杖の中から出て来た。
だがその剣は半ばから先が折れていて、剣としては使えない状態。
杖の部分にはドワーフの工房で作られたと思しき標が焼き付けられており、作りは質素だが軽い付与魔法も付いた杖だった。
「お~中々凝っている杖じゃな」
「はい我が家に代々伝わる杖なのですがダンジョン攻略中に折れてしまいまして…」
「剣の材質は強化鉄と光魔鉄か」
マーシャは鑑定眼で武器の詳細を調べる、折れた剣は基本継ぐことが出ないと言って良い。
飾りとしてならそれでも良いが、実戦で使うのならば新しく同じサイズの物を作ってしまった方が良いだろう。
この状態からならば一度材料として溶かしてしまう方がコスト的にも楽に加工できる。
「折れた刃はまだ持っておるか?」
「はい」
そういうと懐から布に包まれた刃先を取り出した、その剣はちょうど真ん中から折れてしまっていた。
「もしかして姫様ここでやりますか?」
「うぬ」
それは普通ならあり得ないのだが、マーシャのストレージには溶鉱炉がそのまま収納されている。
家が収納できるのだからその中身も収納できる道理、もちろんピザ窯なども収納していたりするので、彼女一人いればどこでも本格的なイタリアンレストランもオープンさせることが可能だが。
普通魔族でもそこまでできる者はいないと言って良い、魔族の3人はそれを見て驚愕する。
「少し壁側を空けてくれぬか?」
「え~~」3人
いまさらなことだ、40階層手前の安全地帯にそこそこの大きさがある溶鉱炉がどんと現れた。
しかもすでに溶鉱炉の中は真っ赤な鉄が早く打てとばかりに熱を発している、まるで小さなマグマの様。
「どれ まずは仕込んである剣と折れた刃先を溶かすぞ」
事前に魔法を掛け溶鉱炉の中にある金属と混ざらないようにし熱だけを利用するようにする。
この溶鉱炉はもちろん魔石発熱式であり、かなり高い熱を利用できるようにしてある。
マーシャならば溶鉱炉を使わずとも金属を溶かし融合させることも可能なのだが、それだと細かい熱入れや素材の強度を上げる作業にムラができてしまい、マーシャでさえせいぜいAランクまでの武器までしか作成できなかった。(経験済み)
だが本格的な溶鉱炉を使い金床で鍛え上げるとさらに上のSクラスやRクラス以上の武器を作成できる事が分かったのだと言う。
「熱いから離れておれ」
そう言われて全員少し離れるが、その熱さはかなりの物だった。
「うへ~一気に熱くなったな」カバネル
「いつ見てもすごいな」ロッド
「私も先日使わせていただきましたが、一つ武器を作るのに10k痩せましたよ」リリアナ
「え?嘘でしょ」チャッピー
「本当です、それでもBクラスの武器しか作れませんでした」
Bクラスの武器とクラスで言ってもすぐにそれがどういう意味かは分からないと思うが、ちなみに最下級の武器はFクラスであり。
基本的には焼き入れもせず砂型に入れて作った武器がFクラスだと言って良い。
鉄製のFクラス武器はよく錆びるし、すぐに欠けてしまうので初心者の訓練用と言った所。
勿論通常の獣を倒すぐらいになら使えるが、相手が魔物となれば話は別だ。
Bクラスは鋼の武器と言っていい、硬さもしなりも問題ないし魔獣相手でもすぐに折れたりかけたりしない。
但し相手が竜族や岩のような魔物に対して使用するならば数回の攻撃にしか耐えられない。
Bクラスの武器は中級者用の武器と言った所だ。
「ここで一気に叩く!」
マーシャが溶鉱炉から溶けた刃先と芯を取り出し用意しておいた型へと流し込む。
そこへ魔法を使用して一気に冷やし、剣の形へと成型していく。
ある程度出来上がったら次は熱を入れながら強度を上げるために金床でたたく。
その手にはどこで手に入れたのか、全体に魔法の文字が刻まれた金槌が握られていた。
「姫様それは?」ラランカ
「これか?どうせならと思って専用の金槌を作ってみたのじゃ」
それは赤と金色を纏った小ぶりの金槌、もちろんマーシャが自分の手に合うよう作った専用の金槌だ。
金床に乗せられた剣が槌を振る度に真新しい剣へと変化していく。
「魔法の金槌…」クロイス
「そのような品は見たことが無いです」グロシュ
「マーシャ様のオリジナルですよ」リリアナ
よく見れば金床も溶鉱炉もその作りは通常の物より頑丈で作りも凝っている、鑑定魔法を使えば全てSSクラスかRクラス以上だと分かるだろう、しかも全てマーシャ謹製の天使のマークがついている。
「ありえねー」カバネル
「いつもの事だろ」ロッド
そしていつの間にか剣は出来上がり、次の工程へと移るらしい。
「次へ移るか」マーシャ
次の瞬間金床と溶鉱炉があっという間に収納され、今までの熱さがまるで無かったかのように変化する。
そして目の前にはなにやら見慣れない道具が。
「これは何です?」リリー
「ああ砥石じゃ」
それは魔導式自動砥石、魔法でもある程度までは表面を磨くことは可能だが。
それだと鏡のような鏡面仕上げまではかなり精密度を上げられなければ刃がかけてしまうことも有る。
魔法だけではなく道具を利用することでその精度や時間さらに刃付けの角度などを自由に変えられると言う。
いつの間にかストレージから次々と取り出しては作業を進め、そして終われば次の作業へと移って行く。
その時間の速さもさることながら次の工程へと進む道具類の多さも半端じゃないはずなのに。
出してはすぐに終わらせすぐにしまうので、何をしているのかすら直に見ていてもその進み具合しか分からない。
「できたぞ」
「お~」
そこには出来上がったばかりの真新しい剣が光を反射して鈍く輝いていた。
「鞘に入るかな スー」
「おお~」
「良さそうだな」
鞘に入れると金具を掛け杖にしか見えないように戻して置く、そしてそのまま持ち主に差し出す。
「ほれできたぞ」
「あ ありがとうございます!」
「は~まただわ」
「お代金は?」
「そうだな、今度魔王国に来た時に町を案内してくれればよいぞ」
「それだけで?良いのですか?」
「家宝なのだろう、普通の修理費では見繕うことなど出来ぬぞ」
「ちなみに魔法がかかった剣の場合金貨50枚以上ましてや仕込み杖は金貨300枚は行くと思います」リリアナ
「もしかして魔法の仕込み杖だったのですか?」チャッピー
「そうじゃ もちろんその魔法も継続して引き継ぐように作成した、多分折れたのは剣に掛けられた破壊防止の魔法が期限切れになったのじゃろう、もちろん又かけなおしておいたがな」
「本当だ」クロイス
真眼の仕込み杖(細滝の剣)・SクラスからRクラスへ変化、魔法補助+10から+30へ。
各種補助アシスト+10(新)・破壊耐性付与(新50・前20)、グロシュ・ゾーヴィル家専用・※神聖魔法に増加アシスト
※補助アシストはマーシャが作成した事によるLUCK(ラック100%)の恩恵とFA値2000の補正値による。
「ああ言っておくが、少し神聖よりになったかもしれん」
「それはどういう事ですか?」
「今までのような使い方も当然できるが、神聖魔法の時はさらにアシストが付く」
「増加アシスト?」
「通常の+アシストではなく持ち主の技量に左右されるアシストじゃ、まあ神聖魔法を訓練していないなら変わらぬが、少しでも訓練したならばオートリペア(自動治癒)や、聖属性の攻撃特性が付与されると思えばよい」
「は~?」学生数人
「さすがマイスタースミス」フラン
「もしかして賢者院にすでに推薦者が出ているって聞きましたが姫様でしたか」ロジー
「あ!」フラン
「知られてしまったか…」
「なんだマーシャだったのか?」トラム
「できれば隠し通したかったのじゃがな」マーシャ
そうマーシャのせいでトラムは王様にハッパを掛けられていると言えなくもない。
まさか進級してすぐにマイスタークラスを収め、数人の教授から推薦まで貰っている王族がいると言う話は噂でしかなかった。
噂では王族とまでは言われていないのだが、ドワーフ族でさえマイスタースミスをもらうのはかなり難しいと言って良い。
ドワーフ族ならば必ず通らなければならない登竜門、それを普通の王族でありまだ幼い姫様が取得したとなると、前代未聞と言う夢のような話。




