28階層
28階層
魔獣にはいろいろと系統が有る、人型から獣型そして鳥型さらに妖精型や植物型とその形は様々だ。
しかしこの28階層には幻獣と言う種類の魔物が登場する。
幻の獣、基本的にはキメラやグリフォン、そして竜種などもその一種ととれるが、竜種の場合はすでに竜人と言う人型が存在する為、現在竜種は幻獣とはみなされていない。
この層はそれらの内一番弱いとみられる幻獣種が登場する。
キマイラとコカトリス、どちらも鳥のような羽が有るがキマイラの顔はライオンのような頭を持ち尻尾は蛇のようにうねっている。
コカトリスは大きな鳥の姿だがその鳴き声は音魔法であり耳をふさがなければ石化の呪いを受けてしまう。
この階層ではこの2種が主に登場するが数は少ないので対処法さえ知っていれば攻略はたやすい。
まずは全員に耳栓を配っていく。
「はいこの小さいのを両方の耳に装着してくださいね」フラン
「どうやって付ける?」ミミー
「こうすんのよ」チャッピー
前回同行したことが有る男子2名はすぐに受け取ると装着するが、ここで気を付けなければいけないのは耳をふさげば当然のことだが話声が聞こえなくなるので、戦いにおいてのサインを決めておかないといけない。
例えば進めとか後退とかをブロックサインでやり取りする、戦場では陰に隠れて敵を討つときに使用するので。
学院でも少しはレクチャーされているが、実戦で使う事はそれほどない。
「それでこうやって手を上げて手のひらを反す、そうそう」
「これが待ての合図ね」
「次が進めの合図と攻撃の合図」
良くあるブロックサインの初級だが、止まれや待てなどいくつか決めておけばかなり戦闘には有利になる。
洞窟の中はそれほど明るくはないためブロックサインも使いどころを間違えるとすぐに対応できなかったりするが。
一応全員視力補助のバフは掛けてあるので何とかなるだろう、それにこういう場所で戦うのに慣れている人物もいたりするので、もしもの時はマーシャの従者だけでも対応はできる。
まずは前衛の4人に任せて様子を見ながら進むことにした。
「出たわ」リンダ
「今度は慌てるな」カバネル
「おう」ロッド
そこにはやや大きめの鳥のような生物が、まるで丸い岩のように休んでいる。
ゆっくり近付いていくとその生き物は立ち上がりその首をこちらへと向ける。
「キィエヤーキィエヤー」
それは大きな鳴き声だった、全員耳には綿を詰め込んでおりその鳴き声は10分の1ぐらいにしか聞こえていないが、それでもかなりの音量だと言える。
(く~効く~なんちゅう鳴き声だよ!)
石化さえ対応できれば大きめの飛べない鳥は戦士の敵ではない、カバネルとロッドがとびかかるとコカトリスはあっさり倒された。
後には数枚の羽根と銀の鉱石が残された。
「やった!」カバネル
「ラストアタックはロッドのようね」チャッピー
ドロップ品を鑑定するとそこには持ち主の名前が表示される、ラストアタックが誰なのかは鑑定してみればすぐにわかる。
マーシャはもちろんスキルで鑑定が使えるが他にも魔道具に寄る魔法で鑑定が使える者がこの中に数人いたりする。
「久々のお宝だな」
確かに20階層は女子3人にほとんどのドロップ品の権利を譲ってしまったのとそこから25階層までは最速で走り抜けたため男子2名には懐を温めることなど出来なかった。
ちなみに銀鉱石は銀塊とは違い生成すると金が採れる、銀鉱石と銀塊の違いは生成前と精製後の違いと言うこと。
ドロップしたのが15センチぐらいの銀鉱石なので、生成すると3センチ四方の銀隗と1センチ四方の金隗が採れる。
価格は金貨1枚と銀貨6枚と言った所か、それでもダンジョンの入場料が1匹の魔物から出るドロップ品で賄えるのだから。
「次は私が頂くわよ」リンダ
初参加の公爵令嬢はそれを見て次は絶対に自分が倒すのだと興奮を隠せない。
彼女はそのために今回参加したのだから。
「うわ~トラム様えらいのに気に入られちゃったな」カバネル
「まあ性格はともかくとして容姿端麗だし武術はAクラスだからな」ロッド
そこからさらに進むこと5分、少し傾斜していた地面を上るとその向こう側には28階層2匹目の魔獣キマイラの姿が。
その大きさは先ほどのコカトリスの比ではない、体はライオンのような4つ足だがそこに羽が生えており尻尾の先には蛇の頭が有る、キマイラ(キメラ)の一番オーソドックスな姿だが2種以上の動物を混ぜ合わせた生き物の総称でもある。
その大きさは想像より大きかった、全長は5メートルを超し高さは2メートル以上、その頭は1メートル以上あり毛の部分を入れると2メートルはありそうだ。
そして背中の羽は飾りではなく一応空も飛べるらしい、ここは洞窟の中なので飛ぼうとしてもそれほど高くは飛べないが、この手のキマイラの場合魔法も使えると言うのが一般的だ。
その一つが飛行魔法又は風魔法であったり、雷撃魔法を使えたりすることが現在までに分かっている。
そして尻尾の蛇は当然のことながら毒蛇でありかまれれば数秒で死に至る。
「防御魔法 避雷針!行くわよ!」リンダ
「お おう!」男子
相手のキマイラは立ち上がるとこちらを見て雄たけびを上げる、そして羽をはばたかせると体の周りにバチバチと雷を纏いだした。
「バチッバチッ!」
「せい!」
リンダの攻撃は宙を切る、キマイラは帯電したままバックステップでよけると、タテガミを震わせ目の前にいるリンダめがけて雷撃を落とす。
「バリバリバリ!」
「利くかー!」
事前に賭けた防御魔法避雷針の効果で雷撃は地中へと吸い込まれて行く、そしてキマイラはその大きな体を一回転。
その意味は尻尾にいる毒蛇の攻撃だ。
「シャー」
ちなみに半回転して少し止まるのがみそ、そうしないと敵に対する攻撃は尻尾を使った横殴りの攻撃にしかならない。
リンダの体に蛇が襲い掛かる。
横からロッドが盾を使い蛇の頭をパリィする。
「ドンッ」
ロッドの持つ盾は少し小さめのタワーシールド、丸盾の1,5倍の大きさが有り全身はカバーできないがその分軽く扱いやすい、もちろん金属製だがその盾には防御魔法と重量半減の魔法がかけられている。
「あ ありがと」
「どういたしまして」
「兄上今です!」
キマイラが又180度回転する隙に、トラムが飛び出すとその胴体に槍を突き刺す。
大きな図体その横腹に槍は突きだされるがそう簡単に突き刺さるかというと中々難しい。
獣の皮は結構厚くそしてぶよぶよしている為まっすぐには刺さりにくかったりする。
トラムが持つマーシャ謹製の槍でさえ敵の横腹の皮膚を切り裂くだけで留まった。
「ギャウ~」
この間に前衛4人が周りを取り囲む、その後ろから魔法師がバフを掛けていく。
「プロテクション、パワーアシスト、避雷針」
「ライトニングロッド、パワーアシスト」
「サンダーガード、プロテクション」
盾で毒蛇の攻撃を避け、順番に剣や槍でキマイラの体に損傷を与えていく、時折鑑定魔法で相手のHPを測りながら指示を出す。
「雷魔法が来るわ」チャッピー
「おう」
「バリバリバリ」
「今よ!」
「ズシュ!ザシュ!」
そしてHPが半減したところでリンダがキマイラの背中へと飛び乗った。
「バッ!」
「危ない!」
「なんの!」
リンダは拳法使い、相手のキマイラに決定的な打撃を上げられない、いや相手の体格に対して上げられないと言った所か。
正拳突きに魔法を纏わせ体重を乗せたならもしかしたら相手の胸に深々と突き刺さる攻撃を与えることもできるだろう。
だがそれは敵がかなり弱っていた場合だ、目の前のキマイラはHPが10万近い防御も1000以上あり彼女の正拳で1回に与えるダメージは300ぐらい、つまり300発当てないと敵のHPを削り切れない。
正拳突きも何回かは空振りする為、彼女はキマイラの背中へと飛び乗り直接脊椎への攻撃に切り替えることにしたのだ。
だがそうすると尻尾の毒蛇攻撃の的になるのが避けられない。
「バリア!」マーシャ
バシン!
背中に飛び乗ったリンダの背中に防御魔法のバリアを飛ばす、間一髪で尻尾の毒攻撃から逃れるリンダ。
「師匠サンクス!くらえ!」
「ドン!ドン!ドン!」
魔法で強化された拳、さらに重力魔法を拳に掛け背中からキマイラの首の根本へとリンダの正拳が突き刺さる。
一発目で脊椎が折れるとともにその攻撃から逃れようとキマイラの動きが激しくなる、だがそんなことお構いもせず次々と正拳を叩き込むリンダ。
「バキッ!グシャ!」
ついにHPは底を付きキマイラはその動きを止めると地面にへたり込む。
「ズズン…」
そしてその大きな姿が霧散していく。
「よし!やったわ」
「おめでとう」
「みんなのおかげよ」
そこには金隗とルビーの原石が数個ドロップアイテムとして残されていた。
「これは?」トラム
「鑑定」
それは小瓶に入った液体のようなもの、濃い青色の液体だが鑑定してみると解毒薬だと判明した。
「解毒薬みたいね」
「ほ~ではこの後で毒にやられても大丈夫なわけか?」トラム
「いいえ多分青色は蛇毒に限定されるわ」リンダ
「そうなのか、ふむふむ」
万能の解毒薬は基本的には無いと言った方が良い、あるとしたらそれは解毒薬ではなく事象の排除又は事象の巻き戻しと言った魔法になる。
聖魔法のポイズンクリアならば対応可能だがそれでも何段階かあるので全てをカバーするには高位の魔法を取得しておかなければならないだろう。




