25層
25層
一方チームマーシャは25階層転移魔方陣へとやってきていた、この階層は魔狼の群れとオークの部隊が登場する。
そうこの層はいわゆる群れで襲ってくる魔物が多い、そのため一人で攻略するのはやや困難だが、魔狼もオークも魔法の類は使わないので戦士系の冒険者でも人数さえいれば何とか踏破できる。
そして25層は初心者のパワーレベリングにも適している、特にオークはガタイも人とさほど変わらない割に得られる経験値が高く、そしてやっつけた感が大きい。
今回初参加のトラム第二王子とローラン公爵家のご令嬢リンダを先頭に立たせ先行させる。
そのやや後ろから魔族の従者をサポート役に回し殿をマーシャ達が続く。
左右には獣人2人が目を光らせているので先頭2人の新人は前だけを注意すれば良い形だ。
「本当に大丈夫なんだろうな!」トラム
「何?まだ怖いの?」
「あ あたりまえだ、ダンジョンも魔物も俺は始めて見るんだぞ」
第二王子は魔物を使った訓練は避けてきた、別にさぼり癖がついているわけでは無い、単純に魔物に対しての免疫が無いと言うだけ。
彼は未知な生き物に対して怖がっているだけで剣術も魔法も劣っているわけでは無い、対人戦であれば同クラスの相手ならば負けることは無いぐらい訓練もちゃんとしているのだ。
だがそれは完全に安全が保障されている状況下での事、いくらマーシャがいるからとはいえダンジョン攻略で絶対安全はあり得ない。
怪我はするだろうし毒にやられたり洗脳されたりもするかもしれない、その怖さが先に立ち彼は今までことごとく魔獣戦から逃げていたのだ。
長男が先の戦いでマーシャのお・か・げ・で手柄を立てることができ、戦争という国の一大事に参加し結果としていくつもの経験をすることができた。
本来ならばその場へ第二王子も行かせることを考えていた王様、だがマーシャが現地へ旅行がてら行くと知り、第二王子トラムの実戦訓練を先延ばしにしていた。
そこへ婚約者であるリンダ嬢からの提案でマーシャのダンジョン攻略に託けて第二王子トラムの実戦デビューを計画したのだ。
「そうなのですか?」フロウラ
「俺が初めてじゃ悪いか?」
「だれも悪いとは言っておりませんよ王子」ジル
「でた!」
「バフを掛けます、プロテクション・アタックアップ・フィジカルアップ」リリアナ
「さあ行くわよ」リンダ
リリアナのアシスト魔法3種を身に受けた2人、リンダは魔狼に向かい突き進み、トラムはやや遅れるも後を付いて行く。
魔狼とみられる群れ、その数は10匹を超える。
1匹の大きさは2メートル以上あり、真っ黒い毛に覆われ通常の剣やナイフだと中々傷を負わせることも難しい。
やや王子が出遅れた感じだが、その後ろからはチームマーシャの三従者がゆっくりと歩いていく。
「どりゃ!」
リンダ嬢の攻撃は先頭の魔狼へと放たれ見事にその鼻面を強打する、そのパワーはすぐ後ろの魔狼をも巻き込み数匹が鳴き声を上げて後ろへと吹き飛んだ。
ギャンキャン!
「すごい!」トラム
「どう?」リンダ
「トラムも頑張って!」
「お俺もか…」
向かってくる先頭の魔狼を強打し数匹を吹き飛ばしたおかげで、10数匹の魔狼は様子をうかがうかのようにマーシャ達の周りを囲みだした。
「お兄様チャンスですそのまま槍を突き刺して!」
「え~」
「トラム今なら魔狼も単体ですから行けるわよ」リンダ
様子を見て魔狼はすぐにこちらへ反撃に出ることができなくなった、周りを取り囲むように動き出す、これなら1匹に的を縛って攻撃してもすぐに他の魔狼は手出しできない、もし他の魔狼も襲ってくればこちらも仲間が対処する手はず。
「やればいいんだろやれば!」
トラムはそう言うと手に持った槍を前に構え、左手には盾を添えて1匹に狙いを定めて突き出した。
ゴシュ!
「キャンキャンキャン」
突き入れた槍がうまく急所を捉えたらしい、すぐに魔狼はチリとなりドロップ品である魔核をその場に残し消え去った。
「お見事です」フロウラ
「やればできるじゃない」リンダ
「そ そうか」
(思っていたより行けるじゃないか)
勿論マーシャ達と一緒でなければそう簡単にしとめることはできないだろう、手に持った槍はもちろん魔法の槍であり数種のアシスト効果が付与されている、マーシャ謹製の極上品。
その上リリアナによりバフを掛けられているのだから、突き出された槍には命中補正も利いており一発で魔狼の心臓へと突き刺さった。
その後はリンダ嬢が相手を翻弄し、弱越しになった魔狼を見つけては第二王子の槍が魔狼の心臓へと突き刺さる、いつの間にか10数匹いたはずの魔狼の群れは全部片付けられていた。
「初戦は終わりましたね」リンダ
「お見事です王子」フロウラ
「なかなかね」ジル
「もっとビビりだと思ってたわよ」カユーラ
「だ 誰がビビリだ!」
「これで怖がりは卒業ですね兄上」マーシャ
「いや マーシャやリンダのおかげだ」
「安心はまだ早いわよトラム」リンダ
従者達がドロップ品を集めている間に向こうの方からオークの部隊が近づいてくる。
「くそ~今度はなんだ」
オーク、身長は大きい個体で2メートル通常は人間とほとんど変わらないが一番の違いが大きなお腹と豚のような頭、知能はゴブリンより高く武器や武具を身に付けて戦う。
その膂力は人より上だが、彼らは魔法を使えない分こちらに分がある、但しあの大きな体で特攻を仕掛けられると中々手ごわい。
子作りのため好んで女性に寄って来ると言う話を聞くが、ダンジョン魔物の場合そこまでの嗜好性は無いようだ。
その代わり彼らは逃げることなく突き進んでくるようになっている、その目には怒りをその口からは飢えを感じる事だろう。
ちなみに彼らの持つ武器は槍や剣、盾や鎧と言った一般的な武具のため、対人戦と同じような経験ができる。
「う 臭い」
先ほどの魔狼とはまた違う臭いがオークの体や口から漂う、魔物はいちいち体を洗ったりはしないが食事もいらないため、この臭いはダンジョンマスターによりそういう味付けをされていると考えてよい。
オークの群れは15匹を超えていた、今回はトラム王子とリンダ嬢だけに任せてはおけない。
獣人の従者2人がその横に出てくる。
「この数お二人では骨が折れるでしょう」フランカ
「私達も加勢します」クローネ
そういうと獣人拳法の使い手である二人は取り囲もうとするオークへと攻撃を仕掛けて行った。
そのスピードは人を上回り、縦横無尽に野山を駆け回る。
腕にはマーシャ謹製の腕輪と小手を付け、オークに次々と襲い掛かる。
オークの群れが2人の攻撃に気を取られている隙にトラムとリンダは残るオークへと攻撃を仕掛ける。
「ソイヤッ!」
バシン!ゴガン!パン!
リンダの拳法がオークの顔や足に叩き込まれる、相手の動きを止めた後に顔めがけて鉄拳が炸裂する。
獣人2名の戦闘も圧巻だった、オークの分厚い脂肪の壁などものともせず突き入れられる拳や手刀、もちろん魔法具を身に付けておりその力は数倍に跳ね上がっている、本来彼ら獣人が持っている戦いのセンスを魔法具が何倍にも底上げしている。
骨の折れるような音はオークの足の骨や頭蓋骨が粉砕した証、破壊力はかなりの物だ。
その活躍に負けじと槍を持ったトラムもあぶれて単体になっているオークへと槍を突き入れる。
今度は魔狼のように毛は無いが分厚い脂肪は槍で突き刺すには相応の力が必要だ。
突き出された槍は一回目まるで滑るように外された。
ズリュ
「くそ!」
「足からよ!」
横から声がする、その言葉に反応してトラム王子は槍の突く先を足へと変更する。
オークの上半身には鎧が邪魔をして槍は中々刺さらない、だが足には脛当てなどは装着しておらず。
今度はそのむき身の太ももや足先を狙い槍を突き入れる、うまく刺されば相手の動きを止められるがうまく刺さらずとも皮膚が傷付けば、オークは徐々に動きが鈍くなって行く。
そしてようやく突き入れた槍がオークの太ももへ突き刺さり、足が止まった所で顔めがけて槍を突き入れる。
ズシュ!
「これでどうだ!」
槍はオークの目を突き抜け頭の後ろへと貫通していた。
「お見事」リリアナ
そんな戦いを数回経験し、ようやく26階層の転移魔法陣へとやって来た。




