神聖ロマール教会
神聖ロマール教会
一行はマーシャの転移魔法によって一瞬でクラールダンジョンへとやって来た。
クラールダンジョンは典型的な洞窟ダンジョンだ、最下層は想定250階以上。
クラールダンジョンの管理は現在ジンジャー領のコバルトジンジャー子爵の長男であるカバネルの指揮でダンジョン運営を行っているのだが、基本的には近くの村に丸投げしている形になる。
ダンジョンがあるトワイ村は獣人の住む村であり、この村の村長はラランカの父であるコザッタ・バイエルン(虎獣人)、先の徴兵部隊による強制徴兵から逃れ1年ぶりに戻って来た。
村は戦後の保証として人族に譲渡される形になったが、娘から一連の経緯を聞き現在の状況は安定している。
勿論コバルトジンジャー子爵から直々に村へとダンジョン管理を任されており、収入もそうだがアルフレア王国からは食料の供給も得ることができるので、ガリアナ魔王国領の村だった頃より数段良くなっている。
「娘よ、今日から姫様と合流するのだな」コザッタ
「はい父上」
「そうか隣の王国へ村を取られると聞いて又逃げなければならないと思っていたが、人族であれほど強くそして獣人の事を考えてくれる王族は他にはいないだろう、まさかお前が従者として仕えていたとはな」
「従者ではありませんよ父上、従者でも良いのですが姫様は私たちを友と呼んでくださいます」
「友か、良い響きだ魔王国でさえ我らを奴隷に近い扱いだったのに」
「姫様がいる限り我らの暮らしも安泰です」
「おお、そろそろ時間だな」
「では行ってまいります」ラランカ
村からダンジョンまでは約5kの道のり、クラールダンジョンは山裾の洞窟であり、入口は少し傾斜のある場所にある。
道というより階段が設けられていて、洞窟の手前には管理者用の小屋がいくつかある。
現在は村から2名そしてジンジャー領から2名が管理者として常駐している。
魔王国のダンジョン全てに言えることだが、ダンジョンは全て魔法によるアーティファクト、要するに魔術師による創作物である。
作成された年代はそれぞれに違うが、新しい物でも4千年以上昔に作られた物だと言う。
そしてダンジョンは永久に不滅ではない、この土地で採れる魔石をエネルギーにしてダンジョンは生きていると言って良い。
そしてここが肝心のところだが、ダンジョン内にいる魔物は倒すと魔核という石を残す、この石は魔石と同じで大きさによって魔力を含む量も違うが、一番の問題はこの魔核は外へと持ち出すことができないと言う事。
そうこの魔核を採ってすべて外へと持ち出すとダンジョン内には魔物がいなくなる。
自動で魔物を生成する魔法のダンジョンなので、魔核がなくなれば消滅してしまうのだ、だからダンジョン攻略をして魔核を集めた場合、それは全て元に戻さなければいけないのだ。
魔王国は一時ダンジョン内の魔物を戦争に使っていたが、魔物達は外で死んだ場合跡形もなく消え去り魔核も残さない。
それはダンジョンを守るための仕組みでもある、但し魔核以外のドロップアイテムやボスの討伐報酬は洞窟内の鉱石や金属などを使用して作られている為、外へと持ち出すことが可能となっている。
午前10時、山裾の転移魔法陣へとマーシャ達7人はやってくると、何やら騒がしい声が聞こえて来た。
「我らは神聖ロマール教会聖騎士団である、本日は神命によりこのダンジョンの攻略を始める」
「ですからそれは分かりましたから入場料を頂きます」
「我らは神聖ロマール教会…」
「なんでしょう?」フラン
「面倒くさい奴らがおるな」マーシャ
「もしかしてロマール教会?」リリアナ
そのいで立ちは純白のローブで青い縁取りの刺繍を施されており、位によって縁取りの色が変わるが彼らはほぼ聖騎士団の下っ端騎士。
下っ端と言えどそのローブは結構手の込んだ刺繍が施されている、当然のことながら魔法を付与された魔法具だ。
人数は11人と言った所だが一人だけ縁取りが赤いのは隊長格とみられる。
対応しているのは管理をしているジンジャー領の騎士隊員とトワイ村の戦士、彼らが現在は交代でダンジョン入管の制限をかけている。
勿論例外なく入場料は一人金貨1枚であり、全員から徴収する為聖騎士団であろうとその責務からは逃れられない。
「どうしたんじゃ」マーシャ
「姫様、それがこの方々が入場料を払わず入ろうとしているようで」ジンジャー領騎士隊員
「全く厚顔無恥も甚だしい、世の中の仕組みに従えぬとは、後は妾に任せよ」
「ありがとございます、お願いします」
聖騎士団の隊長格とみられるガタイの良い男の元へと近寄るとその顔が一瞬ゆがむ。
「これはこれは第3王女マーシャ様ご機嫌麗しく」
「ああ一応妾を見て王族だと言う事は分かっておるのだな」
「もちろんでございます、それでは王女様のお力で入場の許可をお願いいたします」
「金は持って来たのか?」
「は?」
「私に頼むならばそれ相応の対価が必要だとは思わないのか?」
「え?」
「だから言っておろうが!妾を侮辱するのか!」
「お おいくらで?」
「おぬしたちの人数は、ひーふーみー…金貨22枚じゃ!」
「それは…」
「安いかならば金貨33枚でいいぞ」
「33枚?いやいやそれは御冗談を」
「妾が冗談を言っていると思うのか!」
「ひ~ か…かしこまりました22枚で」
「最初から言われた通り入場料を払えばこのようなことにならぬものを、妾に余計なことをさせるから損をするのだ分かったか!」
「ひ~」
「受け取れ、それから妾たちの分もな」
「ありがとうございます」騎士隊
「どうした?おぬし達入らぬのか?」マーシャ
「おい行くぞ隊列―進め!」
神聖ロマール教会の聖騎士団は11人で1グループの様だ、多分今回が初めての挑戦ではないのだろうか。
マーシャは係の者にチームマーシャの入場料を渡すと話を聞いた。
「あの者達のダンジョン攻略申請は出ておったのか?」
「いいえ、本部からは受けてないですね」
「まったく宗教組織がその威光を笠に着て我が物顔でずるをしようとは情けない」
「全くどうしようもないですね」リリアナ
「宗教自体は別に悪くはないのだが、そこに権力が生まれると人はそれが自分の力だと勘違いする」
「姫様!」ラランカ
「姫様、遅れてしまいました」クローネ
「いや妾も先ほど来たばかりじゃ、どうじゃ村は?」
「はい村人はほとんど帰還することができました」
トワイ村は徴兵を逃れる為に村人達は散りじりに逃げたが、数人はつかまり魔王軍の辺境部隊としてアルフレア王国軍と戦うはずだった、マーシャの力で戦争は回避され徴兵された村人は現在全員が解放されたようだ。
トワイ村は獣人の村であり猫系獣人が多く住む村だ、ホブルート領まで徴兵を逃れ彷徨っていたラランカとクローネの2人だったが、マーシャのおかげでいち早く村に帰還することができただけじゃなく、ジンジャー子爵との橋渡しまでしてもらったのだ。
通常ただの戦争報酬として組み込まれただけならば扱いは最低となり、村も存続できるかはわからない所だが、マーシャの計らいでダンジョンの管理人として協力することで、仕事も得ることができた。
現在は入管管理と緊急救出隊の管理も任されている、もしダンジョン内で事故が起こったとしても救出隊を組織して置けば救助に向かう事が出来る。
この形式は今まで魔王国では無かったことだ、魔王国のダンジョン運営はせいぜい入場料の徴収と魔核の買い取りだけだったからだ。
入出場ゲートの横にはお宝買い取り専門店がいくつか出店している、魔核の買い取りだけではなく、ドロップ品の買い取りもここでしてもらえる。
勿論ポーションなどの薬類も用意してあり、今は他のダンジョンより準備は整っている、勿論店の運営も村人の獣人達だ。
「面倒な人たちがかかわりだしましたね」リリアナ
「まあ1層からの攻略じゃから、現時点では我々の邪魔にはならんじゃろ」
「救助隊のお世話にはなりそうですね」フラン
「姫様そろそろまいりましょう」
マーシャ達は転移魔法陣がある1階層の入口へと向かう、そこには獣人の係官がいてちゃんとお金を払ってきているのかを確かめる。
魔法があるこの世界では、1層ダンジョン洞窟内に近い場所へ転移して金を払わずに中へと入ることも可能だからだ。
特に1層の階層転移魔方陣(1層ポータル)があるこの場所は、うまく行けばすぐに違う階層へと転移して逃げることも可能だ。
「ようこそ姫様本日の攻略開始はどの階層から始められますか?」ダッダン係官(黒豹獣人)
「今回は25階層からじゃ」
「かしこまりました」
「慣れて来たわねダン」ラランカ
「また後でねダンにい」クローネ
「姉さんクロちゃん!お土産待ってます」
「知り合いか?」
「はい年下の従妹になります」
ラランカ・バイエルンの父は村長でありその兄弟は5人いてその一人ヴォイシェ・バイエルンの3番目の息子がダッダン・バイエルン(18歳)。
トワイ村には猫系獣人が現在150人前後暮らしている、大きく分けると白虎獣人・黒豹獣人・虎獣人・豹獣人・猫獣人と5種族が同じ村で暮らしている。
彼らはお互いに別々というわけでは無い、豹属性と虎属性でつがいになる場合もあるが、面白いことに必ず2人以上が生まれ両親どちらかの属性を受け継ぐ。
外見で見分けがつくのは毛の色と肌の色ぐらいだ、その他では虎・豹・猫で体の大きさが違う事ぐらい。
だから組み合わせが分かれば系統がすぐにわかると言うわけ、とりわけ虎獣人が一番体も大きく身体能力も高いと言われている。
全員が魔方陣の中に入るとマーシャが階層を告げる。
「転移25階層!」
そして手を上げると10人が25階層転移門へと移動した。
ダンジョンの階層は1階層ごとに次の階層の手前にポータルが有り、そこから最初の出入り口にある魔方陣へと帰還することが可能だ。
そして10階層ごとにいわゆるボス部屋と言う物が有りその手前には安全地帯が設けられている、そこで階層ボス攻略前の休憩や準備を行う事ができる。
失敗しても死ぬことは無いが振出しに戻されペナルティが課せられる、と言う事で必ず必要な物それは帰還石、リザインストーンともいう。
もしボス攻略戦において無理だと感じた時は帰還石を使用すれば強制的に1階層最初の転移ポータルへと移動できる。
そしてもう一つの脱出方法が復活魔法を使う事、現実世界では使用するのがむずかしい復活魔法だが、ダンジョン内に掛けられたルール魔法により1時間以内であれば復活魔法やポーションによりその場で復活できる。
復活ポーションも存在するので、魔法が使えない人でもポーションを手に入れることができれば楽にダンジョン攻略をすることができるのだ。
一層でリバイブポーションをドロップする割合は0,1%、10階層で1%となっている。
当然だがLUK幸運の数値を上げておけばその割合もアップする、マーシャは当然のことながら初期スキルとしてLUKの数値が100%なので、モンスターを倒した時のドロップは必ず手にはいる、しかも5割方でレアドロップ品が手にはいるのだ。
もし死ぬような所まで行ってもダンジョン1層に戻るだけで済むので、最初の内はペナルティは無いが回数が上がるに従い多くのペナルティが付与される。
そして同じ階層で3回死ぬと10階層下まで転送可能階層が下げられるのと24時間バッドステータスを付けられると言うおまけがつく、もちろんダンジョン内のみのデバフだ。
ちなみにレアドロップに対してのLUK効果はマーシャがラストアタックを取った場合のみこの設定が当てはまるのでボス戦ではマーシャ以外がラストアタックで倒した場合はかなりLUKの%は低くなる。
今回2名が初めての挑戦となるので本来ならば1階層から攻略しなければならないのだが、攻略階層の設定には裏技が適用されている。
簡単に言えば人数割で攻略階層を割り増しできるのだ、現在の人数は10人、そのうち30階層まで踏破済みなのは6人=30×6=180、獣人2名はすでに37階層まで踏破済みの為2名で74、そうすると180+74=254、254÷10=25,4。
という計算の適用により今回チームマーシャは25階層からの攻略が可能となる、ちなみに一度25階層に途中からでもマーキングしてしまえば次回はそこからすぐに攻略可能となる為、金貨を沢山所持していれば他の冒険者の踏破階数を使えば1階層から地道に攻略する必要も無いと言う。




