月光世界(影) 5
「はぁ……はぁ……はぁ…………ふぅ〜……。
なんとかなった……のかな?」
ガン!!
「ヒッ!?」
ガン!ガン!ガン!
「な、なんだ……殴ってるだけか……はぁ〜……」
サファイアに触れ、その力を解放した事でゾンビの女性の一撃を躱したアタシことマノ・ランブルグは、寝室へと先回りし、扉に鍵をかけ、ダイヤモンドの魔宝石で増幅した防御の魔力を部屋全体に使用。
現状、この部屋は要塞と化したのです!!
でもまさか、サファイアの力が加速能力だったとは……。 っていうか、加速や防御が高まってるのに傷一つ付けられないってどういう事なんですかね!?この腕輪!!
実は、先程の攻撃を躱した直後、ダイヤモンドによる硬さとサファイアによる速さが合わされば少しぐらいは傷を負わせる事が出来ると思い、ダイヤモンドで剣を生成したのですが、やっぱり少しどころか一切ダメージを与えられず……。
魔宝石は突出した強さはあるけど、それ以外では無意味……という事なのかな……?
ダイヤモンドは防御力、サファイアは加速力とすると、残り四つはなんだろ……。 どうせなら攻撃力や治癒能力のある魔宝石を使いたいのになぁ……。
「色合い的にはルビーが攻撃力アップ……かも?」
「ん……んぅ〜!」
「っ! レヴィさん!」
「マノちゃん?」
目を覚ましたレヴィさんは背伸びをしながら、首を傾げている。
「その服……鎧? どうしたの?」
「へっ? …………あ! ち、違うんですよ! これは……えっと……」
って、何が違うんだアタシ! 普通に答えれば良いのに!
「えっとですね……。 この鎧は、左腕につけてるこの腕輪の力というか……その……」
「ふ〜ぅん……うん。 だいたい分かったから大丈夫だよ」
「分かった…?」
「それ、魔宝石が埋め込まれているんだね」
「っ! そ、そうなんですっ!」
「で、その魔宝石の力が発動された結果、半透明な鎧みたいな物を纏っている……こんな感じ?」
「はい!そうなんです!」
あぁ〜……なんて理解力のある人なんだろう……しみじみ……。 アルハさんだったら「バカは無理して喋んなよ〜草」とか言うんだろうなぁ……。 ……あ。
「そうだ、レヴィさん、体はもう平気なんですか?」
「……あー、うん。 私、鍛えているから、普通の人より治りが早いんだ」
「そうなんですね! なんか凄い!」
「うふふ……」
「えへへ……」
ドンッ!!!
「「ッ!!」」
先程よりも大きな打撃音、二人同時に扉の方へと視線が向く。
「マノちゃん、これって……」
「端的に説明すると、この建物にゾンビみたいな人が入って来て、レヴィさんを襲おうとしてるみたいなんです」
「ゾンビ……?」
「はい。 何か心当たりは無いですか?」
「……ううん、分からない」
「そうですか……」
「もしかして、マノちゃんが魔宝石の力を使っている理由って……」
「あ、はい。 恩着せがましいかもですけど、ゾンビさんからレヴィさんを守るためです。
……本当は追い返そうとも思ったんですけど、今、使える魔宝石は防御とスピード限定っぽくて、工夫してもそれ以外の用途としては使えないみたいなんです」
ドンッ!!!
「っ…………」
「……鳴り止まないね」
「ですね……。 ここを離れた方が良いんじゃないでしょうか?」
「うん。 マノちゃんが言ってる事が事実なら、この聖域も安全じゃないみたいだし、もしかしたら他の聖域も……」
「聖域っていくつかあるんですか?」
「うん、全部で四ヵ所あるよ。 ここは魔獣を危険度が一番低かったから使っていたんだけど……まさか、女の人のゾンビがいたなんて……」
レヴィさんも知らなかったって事は、あのゾンビは例外的な存在らしい。
「ゾンビは他に何か特徴はあった?」
「えっと……。
背丈は140半ばぐらい……体からは生臭いニオイがして、手に錆びついた棒みたいな物を持っていました。
あっ! あと、ハーフアップのツインテでした!」
「…………そっか」
あれ? 今、一瞬、笑った……?
「人の言葉とかは話せていた?」
「はい。 途中までは呻き声とかを言い放っていましたけど、アタシの気配を察知した時は誰!ってしっかりと言葉を言ってました。
首のあたりが鋭利な物でズタズタにした痕があったので、それで普通に喋る事が難しかったのかな…と思います」
「……うん、分かった。
ありがとね、マノちゃん」
「いえ! お役に立てたのなら光栄です!」
「ふふっ……じゃあ、マノちゃん」
「はい!」
「この部屋に張っている魔法を解いて、そのゾンビさんをやっつけよう」
「はいッ! ……はい?」
「や、やっつける……ですか?」
「うん」
「…………」
急な討伐発言に戸惑うアタシを尻目にレヴィさんは話を続ける。
「マノちゃんが見たゾンビは、多分、この影の世界に封印した悪魔の成れの果てだと思うの」
「悪魔の成れの果て……」
「うん。
悪魔の名は、リバイアサン。
七つの大罪が一つ、嫉妬を司る悪魔」
「リバイアサン……」
面識は無いけど、創造神が世界を創り出した七日間の間に生まれた最古の生命の一つだという事は知っている。
水より生まれたその獣、蛇のように体をうねらせ、天空をも駆け抜ける。
物理的な力は大罪の中で四番目だけど、魔力の質や量ではルシファーと並ぶほどの強さを誇るって、アモちゃんが言ってたっけ……。
「あのゾンビさんが……」
「うん」
「…………」
「……? どうしたの?」
「あ、いえ……その……。
あのゾンビさんが、そこまで恐ろしい感じには見えなかったので……。 出来れば、戦意喪失ぐらいにしてもらえないかなぁ……なんて」
「マノちゃん……」
「ご、ごめんなさい! レヴィさんは命をかけて悪魔の封印を任されているのかもしれないのにこんな事言っちゃって……。
……でも、リバイアサンだとしても無力化は不可能ではじゃないと思うんです」
「どうして?」
「アタシの知り合いに光……みたいなものを束にして浄化する技を持ってる人がいて、その人の技を使えば、もしかしたら……って思って……」
「光の束?」
「はい。 ラドジェルブっていうんですけど……」
「っ……」
「…………? レヴィさん?」
「……へ? あ、うん、続けて」
「? はい。
そのラドジェルブは、体の中にある悪いものを消し飛ばしちゃう能力を持っていて、なんと!強欲の悪魔の力を封印したんです!」
まあ、その強欲の悪魔ってアタシなんだけど……。
「……そうなんだ」
「はい! なので、アタシがそれを真似すれば……」
「マノちゃんは出来ると思っているの?」
「え……」
食い気味に否定的な意見を述べられてしまった。
「えっと……分かんないですけど……やってみるだけやってみれば…!」
「根拠も無いのに?」
「…………」
「それに、この世界には陽光も月光も無いんだよ? どうやって光を集めるの?」
「そ、それは……。
…………あれ? アタシ、集める光が太陽や月の光だって言いましたっけ?」




