天上会談
本編とは関係あるけど森奏世界編、魔剣使徒編とは関係の無いお話です。
天上世界。
そこは神のみが住まう事を許された黄金の世界。
ある者は世界に生命を産み落とし、ある者は世界を破壊し、またある者は世界を創り出す。
管理神の存在しない世界は、そういった天上世界の神の力で造られていた。
そしてその世界にある宮殿で今、とある議題が取り上げられていた。
「クロノスよ、あのアルハという男は何者なのだ」
ローブで全身が覆われた老いた男の神が淡々とした口調でクロノスへと問う。
「さあ……? ただ、神王の瞳を行使するところを鑑みるに我々同様、第一世代の神である事は間違いないかと」
「それは理解しています。
ですが、神でありながら地上に降り、人としてではなく神としての力を行使している事、そして現時点で最上位の神である貴方がそれを黙認していた事に異を唱えているのです」
ローブで全身が覆われた別の神が答える。
声からして女神である彼女は、最古参であるが、その声は若々しい。
クロノスはその女神の言葉を聞き終わった後、目を開く。
「彼が……アルハが使用した神の力は、その一切が人の枠を超えておらず、いわばオーディンが人の身でグングニルを使用するのと何ら変わりないと判断したためであり……」
「おい、オヤジ殿。 そりゃ結果論だろ」
「っ……」
ローブで全身が覆われた一際小柄な神がクロノスの言葉を遮る。
「アルハだかなんだか知らねぇが、神の戒律を守れねぇならブッ殺す。それが昔からの習わしだ。
アマテラスの両親やルナを殺しといて、あのよく分からねぇ神は生かして良いなんて理由にはならねぇだろ」
「……その通りだ。 だが、彼は――――!」
「だが? だがじゃねぇだろクソ親父!
テメェ、なんであんなヤロウの肩を持ってんだ?」
「それは……」
「よせ、ゼウス」
「っ! お前は……」
クロノスとローブを纏った小柄な神、ゼウスを仲裁したのは金髪碧眼の幼い姿をした女神、オーディンだった。
「オーディン……戻っていたのか」
「ああ。 私も少しクロノスと話があったのでな」
「クソ親父と……?」
「自分の育ての親をクソ呼ばわりか……良いご身分だなゼウス」
「当然だろ! コイツはオレ様達に黙ってアルハとかいう訳の分からねぇ神を擁護して――――」
「知っている。私も奴とは知り合いだ」
「なんだと!?」
オーディンの一言で集まった神々がザワつく。
「オーディン、どういう事です?」
「言葉通りだ、私は創生神クロノスと創造神アフラ・マズダ・スプリウムからの名を受け、アルハ・アドザムを支援していた……それだけの事だ」
「クソジジイも噛んでんのかよ……!」
「無論だ。 そうでなければ、クロノスほど戒律を順守する神が口を濁し、ただの神を擁護するような真似はしない。
それぐらいキミでも分かるはずだ、ゼウス」
「っ…………」
「他の神々も、今はクロノスの言葉に耳を傾けてほしい。
議論はその後でも遅くはないだろう?」
「「………………」」
オーディンに諭され、居合わせた神は口をつぐむ。
「……クロノス、話を」
「うん。 ありがとう、オーディン。
先も話したように、アルハの力の行使は人が扱える程度のものであり、それ単体が世界を作り変えれるほどの驚異とはならない。 故に私は、彼の行動に目を瞑り、彼の行動による利益を優先した。
その利益とは、今、六大世界の封印を解き、かの邪神を復活させようと目論む大罪の悪魔を無力化させる事である」
「なんと……!」
「邪神!?」
「んだよ、それ……聞いてねぇぞ……」
「……」
クロノスは左手を上げ、会場を静める。
「皆、色々と言いたい事はあると思うが、現時点で自由に行動を起こせるのが彼しかおらず、創造神からの許可も下りていたとはいえ、誰にも相談しなかった私にも責任がある。
許してくれとは言わない。 が、今は容認してほしい」
その後、神々は小言を吐きながらも、オーディンの助力もあり、どうにか話を収められたクロノス。
会談が終わり、宮殿内からはほとんど神が去ったころ……。
「大変だな、奴の尻拭いは」
「ああ、そうだね……て、君はあいも変わらずブラックなんだね」
「そういう貴様こそ、そんな甘ったるい飲料を良くも飲めたものだな」
「ふふふ……飲み慣れると、これでも甘さが足りないと思ってしまうけどね」
互いのコーヒーのこだわりを解説しながら談話するクロノスとオーディン。
「オーディン、重ねて言うけどありがとう」
「? 私はありのままの事を言ってまでだが?」
「そうかもしれないけど、それでも君が居てくれたお陰で僕は救われた。
流石は僕と彼を除いての最古参の神だ」
「……女神相手に老いぼれ呼ばわりとはな」
「あ、いや、そういうつもりじゃ……」
「冗談だ。 私だって、これでも最古参としての責任ぐらい持ち合わせているつもりだぞ?」
「っ……。 君は変わらないね」
「不老不滅こそがこの世界の神だからな、変わらなくて当然だ」
「いや……みんな変わってしまったよ。 アマテラスも、ファウヌスも、そして僕も……。
変わらないのは君とアルハだけだ」
「私とアイツを同じ枠組みにされるのは解せんな……」
「え……? でも、オーディンは昔からアルハの事が好きじゃ……?」
「ブフっ!? なななななななななな!?!?!?」
クロノスの言葉に同様を隠せずにいるオーディン。
吹き出したコーヒーが服の袖に染み着く。
「いつも彼が側にいるときは、表情が自然で、幸せそうに見えてたけど……」
「そんなあからさまに違っていたのか……」
「違っていたね。
もっとも、何故かアルハ派気付いていなかったけど」
「……奴にとって私は、いつまで経っても娘という事なのだろう」
「オーディンが娘だとすると、彼の妻にあたるのは……」
「ステラだろうな。 昔、プロポーズしてたぐらいだし」
「ああ……そんな事もあったね……。 あれは、いつの事だったか……」
「…………」
その場の空気が一瞬だけ重くなる。
「……私とアルハが、ステラの両親を殺害した後の事だ」




