色欲の悪魔 14
視線をこちらへと向け、その場所を理解するアスモデウス。
「そこだけに聖奥の力を集中させたのね」
彼女が見ていたもの、それは俺が左手に携えていた魔力の剣だった。
「ああ。 お前の技は俺の技より強い。
攻撃の範囲も、その威力も。 気温低下や時間の流れを加速させ、周囲にすら影響を与えるぐらいにな。
でも、欠点がある」
「欠点?」
「お前のその技は範囲の広い技なんじゃない、広げなきゃいけない技なんだよ」
「っ!」
「確かにあの技は強い。 俺の聖奥みたいに力を一点に集中させて使えば、その瞬間に俺はポックリ逝っちまうだろうな。それはアスモデウス、頭の良いお前ならすぐに分かっていたはずだ」
「…………」
「でも、それが分かるって事は、そうした場合のデメリットも理解したはず。
武器に必要以上に力を加えれば、壊れちまうって事も分かってたんだろ? こんな風にさ……」
左手から剣を手放す。
剣が重力に従い、地面へとぶつかった瞬間。
ガシャァァァァン!
俺の剣はコンクリートに落としたガラスの様に粉々に砕け散った。
「ま、俺は……」
左手を軽く振り、新たな剣を生成する。
「こんな感じで燃費の良い武器を作れるから、あんまし困らないけどさ」
「まあ、すてき」
「うわっ、心にも思ってなさそう…。
まあ、武器を壊されたくない理由があるから仕方ないんだろうけど、俺を倒すつもりでいるなら、後の事なんて考えない方が良かったかもな」
「っ! どこまで分かってるの…」
「どこまで…ってのは、愛用の武器であるその軍旗の槍が自身で消費した魔力を時間差で自分に還元するってとこぐらいは……」
「全部じゃない」
「にしし…。ま、これでも俺、知恵の神様だからな。そのぐらいは分かるさ」
そう。アスモデウスは悪魔であって神じゃない。
神であれば並外れた再生能力があるが、それを彼女にも当て嵌めるのは間違いである。
「自分が神だったからすっかり忘れてたよ。
再生能力が無いのにどうして世界を初期化するほどの力を使って尚、あんな大量の魔力を秘めた最奥の技を使えるんだろうってな。
だけど、それは最初のアクスリウルペネトレイルの後に分かったよ」
最初のアクスリウルペネトレイル後、アスモデウスは再度、同じ邪奥を用いて俺に攻撃を仕掛けようとしたが、彼女は少しの間、白兵戦を行っていた。
「もしかして魔力が尽きたのかと思ったけど、その後またあのヤバい邪奥を躊躇わずに使ってて分かったのさ。
こっちが怯んだ絶好の機会に邪奥を使わなかったのは、自身へ還元される前で、魔力が足りなかったから…ってな」
「……そう」
はぁ……と、ため息を吐くアスモデウス。
「でも、それが分かったから何?
分かったからワタシの槍を壊せば勝機を見出だせるとでも?」
「ま、ムリだろうなぁ〜」
「っ……」
俺の言葉に目を丸くするアスモデウス。
「ぷっ…ふふっ! じゃあ、どうして言ったのよ!ふふっ…変なの」
「答え合わせだよ、それ以外に理由なんて無い。
お前、可愛い上に強くて頭も良いからな」
「……強いのも知恵があるのも神がそういう風に造ったから。容姿は……。
……あの子から盗ったから。 ワタシに残っている物なんて美への執着ぐらい……」
「………! アスモデウス、鼻から……」
「? あ…」
彼女は鼻血を流している。
「あーあ……せっかくアナタが顔を狙わないでくれてたのに……。
……本当に、もう少しで終わりみたいね、ワタシ」
鼻血を拭うと、吹っ切れたように槍を再三構える。
「邪奥解放!」
全身から感じる冷気、軍旗の槍に螺旋状に集まりだす黒い魔力。
アスモデウスはまた技を使うつもりか!
でも、魔力はまだ回復して……。
ピキッ……。
アスモデウスの槍にほんの僅かに亀裂が入る。
「っ! まさか、お前……」
「ワタシ、醜いモノはキライなの。
だから、キレイなままで全部終わらせる……。
そのためなら……」
可視化された黒い魔力が今までの最高量で槍に吸収されていく。
「もう、これで終わっても悔いはない」




