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罪に願いを 新世界の先駆者  作者: 綾司木あや寧
三章 森奏世界編
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色欲の悪魔 10

 大昔、クロノスが言っていた。

 人間を造り出す時に生じた根源的七大罪。 それが数多の天使が闇へと墜ちる原因ともなったとか。

 そして闇へと堕ちた天使たちは堕天使、または悪魔とされ、その中でも七つの罪を手にしていた悪魔は大罪の悪魔という呼ばれ方をされてた。


 だが、ある神が大罪の悪魔たち本人ですら知り得ない力を生み出した。

 それが魔転化。


 魔転化とは人の罪、獣の力、そして人や獣の上位種として存在する神使の知性。

 それらを一つの生命体として再構築させる事で一時的に神の代行者とする異能力である。


 回想開始。


『魔転化?神の代行者?』

『ああ。 私もよくは理解していないが、我々の世界のどこかで闇に堕ちた天使たちを束ね、復活を目論んでいる神がいるという噂を耳にしてね』

『はぁ……そりゃまた随分と図々しいヤツがいたもんだなぁ…』

『その神の候補として上がっているのが、君が旧き世界の宮殿に幽閉したアザトゥスだ』

『あー…そゆことか。

 あのクソ神、封印する前に薄ら笑いを浮かべてると思ったら、そんな細工をしてたのか』

『どうやらそうらしいね。

 □□□、もし君が魔転化した悪魔と相見える時は、万全を期した状態で戦いたまえ』

『ハッ! コンディションが悪いと負けるってか?笑わせんなよ、クロノス。

 オレを誰だと思って言ってるんだ?』

『分かっている。が、そんな君だからこそ油断をしないでほしい。

 アザトゥスは僕や管理神、天上の古株といった神よりも君を一番に憎んでいるように思えるからね。 どんな隙でも見逃さないはずだ』

『心配しすぎだよ。

 …ま、肝に銘じとくけどさ』


 回想終了。



「!………」


 起き上がる巨体。

 魔転化状態のアスモデウスは唸り声を上げるわけでも、なりふり構わず暴れ回るわけでもなく、水面に映る自分の姿を凝視し……。


「ァ………………ァ…ァ………」


 涙を流していた。


「っ……」


 その姿を目の当たりにしたからか、その異質さとは反して恐怖は感じなかった。


「おやおや? まだ理性的ですねぇ〜。じゃあ……」


 バアルの銀色の瞳があやしく光る。


「ガ…」


 直後、アスモデウスの虚ろげに上半身を揺らしだす。


「うん…いい感じですかねっ。

 じゃあ、アスモデウス様。 アルハさんを亡き者にしちゃってくださいっ!」

「…………………。

 ……………………。

 ………………」


 ピチャ、ドッ! 前方から姿が消えて一秒後に聞こえる水と地面を弾く音。


「っ!」


 どこだ…あの巨体がそんな簡単に隠れられるわけがない。

 ましてや今、この世界は初期化されて建物どころか草木の一本だって無い。


 隠れるとしても地中、もしくは死角となる……。

 上―――ッ!!


 ハ゛ト゛シ゛ャ゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ン゛!!!!


「おお〜っ……イイ感じにかわしましたねぇ」

「…………」


 危なかった…。

 アスモデウスは一切の殺気や魔力を発さずに、その巨体で俺の真上から落ちてきた。

 地面に接触する寸前、自分の周りだけ影で暗くなったから気付けたけど、あの魔獣に不可視化の能力があったりなんかしたらペシャンコだった……。


「ガ、ガ、・が、ガグ器がガガ下が5―――!!」

「ッ――!?」


 また消えた!

 今度も上か……それとも……。


「アルハさん後ろ!!」

「ッ!」


 俺に抱かれ、俺の背の方に顔を向けていた由利の声。

 すぐに視線を動かすと、アスモデウスの巨体がドラゴンの腹部を見せながら迫ってきている。


 躱せない…! なら、こちらの被害を少しでも抑える!


 ハ゛ハ゛リ゛ハ゛ハ゛ハ゛ハ゛リ゛…………

 雷鳴が魔力の剣に集まっていく。


「キラジウス!!!」


 ト゛ト゛ハ゛ハ゛ハ゛チ゛チ゛!!!!!ハ゛ッ゛コ゛ッ゛!


 ッッ……!?


 アスモデウスよ肉体と衝突した聖奥キラジウスは、ヤツの体当たりを受け流せなかった。


 キンッ…!


 持ち手から離れた魔力の剣は、その刀身を維持できずに消滅する。



 そして最悪な事に、今の攻撃で右腕に二つの悪い出来事が起きてしまったらしい。

 一つはアスモデウスの突進により右腕の骨が粉々に…うん、もう、グニャングニャンになるぐらいには粉々になってしまった事。 正直、そこら中を転がり回って泣き叫びたいけど、由利にそんな姿を見せられないので、どうにか意地と根性で堪えている。

 んで、もう一つ……つーか、これが一番キツい……。


「あははっ! アルハさん、気付いちゃいましたぁ?」

「っ……」

「アルハ…さん?」


 神としての再生能力が封じられた。



「いくら人の肉体でも、いくら弱体化していても、いくら追い詰められていても、いくら死の淵に立たされたとしても、アナタは絶対に負けなかったでしょう。

 それはなぜか? 答えは簡単…。

 アナタは神様だからです!」


 ドバシャンッ!!


 バアルが喋っている側へと歩み寄り、バアルの周囲を自分の体で壁を作るアスモデウス。

 こんな事を彼女が耳にすれば疎ましく思うのだろうが、その姿は主人を守ろうとする忠実な犬だった。

 あの行動には彼女個人の意思が全く感じられない。


「神には様々な加護や神通力がありますが、その中でも全ての神に共通した能力が一つ…それは、肉体や魂の再生能力です。

 まあ、本来であれば、この能力もその神様に該当する世界……この世界ならファウヌス様、もしくは初期化時が水明世界と同種なのでティアマト様じゃないとその再生能力が存分に発揮されませんが、例外的にアルハさんやクロノス様はどこでもひゃくぱーせんとの再生能力ですからねぇ。 カミサマって、ちょっとズルいですよねぇ?なので!

 永遠、不滅といった概念を断ち切っちゃいましたぁ!パチパチパチ〜!」

「断ち切った…だと?」

「はいっ!

 実は少し前に、アスモデウス様は私が丹精込めて作ったお薬を飲んだんですけど……。

 彼女は私が邪神王の瞳で洗脳を行った事で、「ああ、これは自分を操るための薬なんだな」と思ったでしょうけど、そうじゃなかったのです!

 その薬には、ほんの少しだけ私の血と魔力、それと支配権能を混ぜ込んでいたんです!」

「っ……」

「あ! 今、アルハさん、「いくら悪魔でも神でもない奴が一つの肉体に二つ以上の神の権能を詰め込んだら肉体は…!」って思いましたよね?

 はい!その通りですっ!

 だから、私の支配権能は私が承認するまでは封印しておいたんですよっ!

 …そして、魔転化後に私が目をピカッ!と光らせましたよね?」

「……そういうことか」

「ふふっ! 察しが良いのは話を円滑に進められるので助かりますっ!

 魔転化とは、人、天使、獣の要素を複合、再構築させて、一時的に神に等しい存在を生み出す異能力。

 神様だったら、複数の権能を持ち合わせていてもおかしくないですよねっ?」

「…………」

「おやおや〜? もう交わす言葉も無い!って感じですかねぇ? それとも……」


 バアルが俺に……というか俺が抱えている由利に指を差す。


「動きづらいから、コイツを手放したいなぁ…なぁんて思っちゃったりぃ?」

「っ…!」


 自分の事だと気付いた由利が気まずそうに目をそらす。


「由利、アイツの言葉に耳を傾ける必要はない」

「でも……私がいるせいで…」

「お前を抱いてるのはお前のためじゃない。 俺の自己満足だ」

「…………」

「だから、由利が迷惑だなんてこれっぽっちも思ってない」

「……」

「……あ、もしかして成人男性の抱かれるなんて吐き気を催すぜ…!ってこと!?

 アルハしゃん悲C…ぴえん…(´;ω;`)」

「そ、そんなこと…!」

「なら、俺の自己満足に付き合ってくれないか?」

「……」


 由利が首を縦に振る。

 この子は転生前の境遇上、誰の言葉でも受け入れがちだからなぁ……。

 それに、今、由利を降ろして色欲の魔法がかけられた水に触れると何が起こるか分からない。

 動きづらいってのは否定できないが、総合的な判断として、これが一番マシなだけである。


「せっかく自由に戦えるように宥めておいたのになぁ…」


 パチンっ!

 バアルが指を鳴らす。


「!……」


 と、同時に、魔転化状態のアスモデウスがこちらを眼光を向ける。


 来る…!


「じゃ、アスモデウス様、あの二人の処分お願いしま〜すっ!」

「…さい……」

「……え?」

「っ?」


 バチンッ。


「……えっ?」

「なに…ッ!?」

「……あ、れ…?」


 アスモデウスが行動に一番驚いたのはバアルだっただろう。

 衝撃音と共に、彼女の視界の位置は低くなり、瞳に映る色が赤一色になっていく。


「なん…で……」


 気がついた時には、アスモデウスの前足に下敷きになっていた。

 彼女の体の厚さは三分の二程度に圧縮され、無理な圧迫により破けた皮膚からは中身が溢れかけている。


「ワタ…シニ……さしず……スるな……」

「あ、ちゃ〜……これは予想が…」


 バギバギグヂュッ!!!


 アスモデウスの前足部分の水面が赤く染まる。


「……………………」


 バアルの声はもう聞こえない。 魔力も完全に感じられない。


 彼女を踏み潰した当人は動物が汚物を隠す要領で前足部分の水を掻く。

 周辺に飛び散る血肉の中には眼球、腸、臓器といった部位も見受けられた。

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