色欲の悪魔 2
「…………。
…………。
……………ん…」
背中が痛い、爆発でかなり皮膚が抉れてたのだろう。
出血が酷いせいで体は冷えて、瞼を開こうとする動作だけでも辛い。
でも、意識を失っている間の自然治癒のお陰で、爆発の瞬間に味わった苦痛よりかはだいぶマシになった。
「っ………」
意識が戻ってから一分、覚醒したことで自然治癒機能が向上したのか、先程よりも更に楽になり、ようやく瞼が開く。
「っ! アルハさん…!」
俺の真上から目覚めるのを見守っていた黒髪天パの少女は鼻先を赤くしながら、震えた声で俺の無事を確認すると、顔の口端が少し上がった。
悲しそうだった顔は、俺が生きていたという事の安堵からか可愛らしい微笑みになっている。
「うっ………うぅ……よかった……………」
ポロポロとこぼれ落ちる涙が頬や口に当たる。
温かい……って、なんか、状況的にこれはご褒美なのでは?
どうやら俺は、由利にひざ枕をしてもらいながら、スヤスヤとお昼寝をしていたらしい。 どうせなら意識がある状態で堪能したかった。 が、ずっとそんなことして由利に迷惑かけるわけにもいかないので上半身を起こす。
「う…う〜〜んぅ〜っ!!」
体を起こし、立ち上がって軽いストレッチをする。
「あっ……もう、平気なの…?」
「おう! 可愛い女の子に看病してもらったから元気百倍だ!
いっち、にー、さん、しー………」
「そ、そっか……」(かわいい、か……えへへ…)
緩む頬をむにゅむにゅと触って誤魔化す由利。
「なあ、由利。 俺、どのくらい寝てたんだ?」
「えっ、うーんと…五分ぐらい、かな……」
五分か……。
体感時間としてはクロノスと喋ってたのは三十分ぐらいだったし、あの空間はこっちの世界とは時間の流れが異なるみたいだ。
「俺が寝てる五分の間に、何か変わった事とかあったか?」
「う〜ん…………………あ!
あの爆発が落ち着いた後に、山羊の声がそこら中から聞こえたり、ぐわぁー!って声が空から聞こえてきたよ」
「山羊やぐわぁー!な声か……」
山羊はアスモデウスが使役する獣だろうけど、空から聞こえてきた声は……。
「っ……」
神王の瞳を開眼し、空を見上げる。
…………空を飛行する二つの人影。
一つは長髪に無精髭で局部だけを獣の革で隠している男。
もう一つは短髪でトーガを纏った女か。 ……手に乗せている何かを啜っている?
白くてドロドロした………。
…………。
「? アルハさん、何か見えた?」
「へっ!? あ、うん、いや…なんか空を飛んでいるから鳥かな!」
「そっかぁ、私も見てみ…」
「待ったッ!!」
「っ! な、なに?」
「いやぁ〜多分、アレは悪い鳥かもしれないし、見ないほうが良いかなー!あはは……」
「? そっか……」
ふぅ……誤魔化せた。
我ながら悪い鳥とはどんな鳥だと問いたいところだが、そんなことより考えなくちゃいけないのは、、、
「由利、俺は今から、お前と初めて逢った洞窟近くの泉に行こうと思ってる」
「洞窟……」
俺の言葉に反応してか、一瞬だけ由利の中から黒い魔力を感じる。
「そこに何かあるの?」
「ああ。俺の友達が悪魔に捕まっちゃったみたいでな、そいつを助けに行くんだ」
「そう…なんだ……。
あの、アルハさん…!」
「一緒に行きたいんだろ」
「う、うん……。 どうして分かったの?」
「どうして…って、そもそも一緒にいたいから森奏世界にまで来てくれたんじゃないのか?」
「あ…そ、そうだよね……うん…」
「俺も一人じゃ不安だったからな、由利がいてくれるなら心強いよ」
「そ、そんなこと……。 でも…うん……そう思ってくれてるなら、迷惑かけないようにするね」
? さっきまで感じてた黒い魔力が弱まった?
疑われているから力を隠した…?それとも、単純に動揺して…って、それは無いか。
(勘付いてはいるが、今はまだ攻め入った行動には移らないというところか………。
アルハ・アドザム……。
神でありながら他人の肉体に魂を定着させる事で世界に顕現する者がいたとはな……。
ラドジェルブ、キラジウスと呼ばれる神の奥義に近しき聖の奥義、更にはこの世界の神秘への知識量、間違いなく第一世代の神……今の妾では、到底敵いはしない。
しかし、あの洞窟にさえ……あの花さえ取り込めば……。
リリィ、汝の想いはよく分かった。
妾としては本来の力を取り戻して早々に始末しようとも思ったが、生かすぐらいの温情は施してやろう。
しかし……。
妾のリリィは可愛いのぉ〜! なんだ、あの愛くるしい微笑みは!!
迷惑だなんて……汝の笑顔が見れて迷惑だと思う輩がいれば妾が滅してやろう!
あ、やっべ、リリィが可愛すぎて魔力の制御が……)




