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罪に願いを 新世界の先駆者  作者: 綾司木あや寧
三章 森奏世界編
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異神の森 5

 時間は少し戻り、未代志遠の隠れ家にて、、、


「マノ……マノ…!」

「ふにャ…? みしろしゃん……?」


 未代志遠の呼び声に、まだ眠いのか目をこすり涎を垂らしながら応答するマノ。


「少し出る、この中は周囲に展開したものより更に強い結界で守られているから俺と同等以上の力を持つやつでも来ない限りは破られないはずだ」

「誰か見つけたんですか?! もしかしたらアタシの知り合いかも…!」


 意識が覚醒したマノは、頬を叩いて気合を入れる。


「アタシも行きます!」

「駄目だ」

「どうしてですか!」

「俺が住処として使っているこの周辺の森は、俺の魔力で霧を生み出している。

 俺の許可がない限り出るのは勿論、入ることも出来ない。

 そんな空間に入り込めるということは、相当な力を持った奴だ。

 君の仲間かもしれない。 だが、そうじゃなく七つの大罪のような危険な存在だった場合、君を戦いに巻き込んでしまうのは出来るだけ避けたいんだ」

「で、でも……」

「……分かった。 じゃあ、手を出してくれ」

「? はい……」


 言葉の意図を理解できずに手を重ねるマノ。


「"ノスパイフ"」

「へっ? のすぱ…い……ふ…………」(あ…れ……?)


 瞬間、触れる行為が合図だったかのようにマノの視界が歪みだす。


「み…しろ……さ…………」

「悪いな。 俺なんかのために誰かを危険な目に合わせるのは嫌なんだ」

「わ……た、し……ぁ……………。

 っ………………。

 …………………………」


 朦朧とする意識の中、必死に瞼を閉じまいと唇を噛みしめるも、抵抗虚しく深い眠りへと落ちていくマノ。


(このザワつく感じ、俺と似た姿をしてるという男が侵入者の正体だろう。

 七つの大罪でないことは分かっていた。 が、そいつがこの姿について何かしらの情報を持っているのなら……)


 時を(今に)戻そう…!


「で、ここに来て、俺が敵かもしれないと思って殺意ゼンカーイ!でブラッドブーストを使った攻撃を仕掛けたけど失敗して、一時退却しようと思ったら腕掴まれて背負い投げされて俺に縄で縛られていると……」

「…………ああ。 それに……」

「っ……!」


 不意に志遠と目が合う由利。 その瞳から放たれる殺意の目線に由利はたじろぐ。


「ちょっとちょっと〜!」

「っ……」

「ウチの由利、睨まんといて〜!

 ホンマ嫌われるで〜?」


 アルハもそれに気づいたのか志遠の肩を撫で触りつつ、本当の関西人にフルボッコにされそうな関西弁でなだめる。

 アルハの真後ろに由利が隠れた事で、目を合わせられなくなったからか志遠の殺気は薄れていく。


「てかさてかさ〜! 知り合った女の子を怪我させないためにー?一人で戦地に赴いてー?俺と戦った結果〜?負けちゃったんだよねぇ〜?」

「愚かだと言いたいのか」

「ううん、ダサすぎて草ァ!! ウヒョヒョヒョヒョ〜wwwwww

 って、思ってる〜!」

「…………」


 志遠の眉が僅かに動く。

 今の会話の流れで、こんな返しをされるとは思わなかったのだろう。


「まあ、元気出せよ!(笑)」


 ポンっ、と軽く肩を叩きつつ縄を解くとニンマリとキモチ悪い笑顔で慰める……。


「っ…………」

「………? 何だ?」

「……いや、うん……そういうことね……オッケ~」

「??」


 慰めも束の間、志遠に触れた事で何かを察したのか、今度はしばらくの間、肩に手を当てる。


「っ……? お前、何を……」


 その不可解な行動を問いただそうとアルハの顔を見る。


「…………っ!」(何だ……この目は……)


 先程まで青く澄んでいた瞳の色は黄金に変色する。

 それが体質的なものではなく、神秘の力が関わっているという事に志遠はすぐに気付いた。


(目に魔力が集中している……?だとしたら魔眼の類か…?

 だが、この世界に魔眼なんてものや、それを人為的に造り上げたという話は聞いた事が無い……)


「深く気にするな。 それより……」


 ニシシ…と歯を出してアルハは笑みを浮かべる。


「お前のそれは解呪した、だからもう大丈夫だよ」

「っ!?」


 その言葉を聞き、すぐに自分の胸元を弄る。

 異物のような感触は無い。

 服の内側を覗き込む。

 目玉の付いた百合のような物体は無い。


「……そんなバカな」

「そんなバカな事がありえちゃうんだよな〜。

 だから、由利の事は経過観察期間って事で今は見逃してくれよな〜頼むよ^〜」

「…………」


 志遠は何も言わずに立ち上がると、濃霧の方へと進んでいく。


「およよ~?」

「っ……」


 とぼけた顔をするアルハへと振りかえる。


「どうした? 仲間の元に行きたくないのか?

 俺の後ろについて来ないでこの霧に入ると二度と出られなくなるぞ」

「え! 良いの!?マージ・マジ・マ○ーロ!?」

「ああ、マジだ。 不愉快ではあるが、彼女…マノが悲しむ姿は見たくはないし、貸しが出来てしまったからな」

「やったぜ。

 ヨシ! じゃあ、由利も行こーぜー!」

「えっ!? あ……はい…………」

「…………」

「う……っ…」


 無言で、ただ静かに、横目で志遠に見られている事に抵抗があるようで由利の足取りは重かった。



「この霧っ、濃いッッッ!!」

「そう…ですね……」

「俺の魔力で生み出しているからな」

「………え、誰もツッコんでくれない感じ?」

「今、ツッコむところあったか?」

「いや、どうあがいても濃霧!な所に自分から入っていってこの霧濃いって……的な呆れツッコミを期待してたんだけど……」

「そうか。 自分から入っておいてこの霧濃いってどういう頭をしてるんだ。

 これでいいか?」

「……しおんきゅんってさぁ、陽キャから嫌われてそうだね」

「誰がしおんきゅんだ、お前とそこまで仲良くなった覚えは無い」

「エッ〜! 昨日の敵は今日の友って言葉があんじゃ〜ん!」

「日をまたいですらいないのにそんな言葉を使うのか」

「あ、ホントだ〜!www

 じゃあ、数刻前の敵は今の友って言葉を作ろう!」

「勝手にしろ」

「や~い、未代の陰キャ〜(笑)」

「……お前のそれは、陽キャというよりもウザ絡みしてくるクソ野郎みたいだな」

「いやぁ〜それほどでも〜(*´ω`*)」

「褒めてないからな」


 その後もアルハはつまらないギャグやウザ絡みをし続けた。 が、その全てを容姿が酷似した男には無視され、黒髪癖っ毛の暗い雰囲気の少女からは(空返事で)肯定された。


 霧の中を進んで三十分。


「ん? おや……おやおやおや……」

「どうしたクソギャグ製造機」

「誰がクソギャグ製造機じゃい!

 いや、霧が薄くなってるな〜って……」

「もうすぐ俺の隠れ家に着くからな、霧が消えていくのは当然だ」

「ん〜〜っ?」

「……どうした、またつまらない事を言うつもりか?」

「ちょっと!人をいつもつまんない事言ってる奴みたいに言わないでちょうだい! 失礼しちゃうわ!

 俺が言いたかったのは、自分の隠れ家周辺だけ霧を出してると、空からの侵入が簡単な気がすると思ったんだよ」

「空からこの森を観察した場合でも、上空には別の霧を出現させているから此処を探し当てるのは容易じゃない」

「はぇ^〜…すっごい……」


 更に進むと、霧は完全に無くなり、生い茂る緑が一面に広がっていることが視認できるほどとなっていた。


「おおおおお!! お……お………え…?

 あの、未代さん?」

「何だ?」

「え、隠れ家って……これ、家…? いや、家じゃねーな……」


 そこには中が空洞になったドーム状の木がいくつかあり、ある木の中には果物やキノコのような食材が、ある木の中には毛布が何枚か入っている。


「? どう見ても家だろ」

「いや、家じゃねーよ! お前、どこのホームレスだよ!?」

「誰がホームレスだ、ちゃんとホームがあるだろうが」

「どちらかと言えばドームじゃねーか!

 普通の人間はな、こんなモノをホームとは言わないの!」

「普通の人間なら他所様の家にお邪魔したのにホームレス扱いしない」

「ざんね~ん! アルハしゃんは神様でぇ〜す!」

「奇遇だな、俺も境界の守護者という概念だったんだ。

 だから、人間の感性を完全には理解していないんだ」

「理解してなくても、これが家じゃねぇ事は普通分かるわ。

 こんな森のド真ん中、草木葉っぱ使って寝る=野宿だからな?」

「どう見ても家だ」

「野宿」

「家」

「野宿!」

「家だ!」

「家だ!」

「野宿だ! あっ……」

「ほら見ろ、やっぱ野宿じゃないか!」

「これは流れでそう言っただけだ。 家だ!」

「まだ言うのか……」

「あのぉ……」


 二人が声のする方へと顔を向ける。


「何してるんです…?」


 口論で目を覚ましたのか、微睡んだ目のマノがアルハ達の会話に入る。


「マノたぁ〜ん!」

「ヴェあ!?」

「すぅ~…ハァ〜…マノおっぱいのふわふわもちもち感触と女の子特有の甘い香りktkr大草原不可避」

「ぎゃあああアアアア!?」


 脊髄反射でキモヲタのように異性の名を叫び、自らの顔を胸に埋めつつ、早口で感想を述べる性犯罪者(アルハ)の行動でマノは意識が覚醒。

 連続して頭にグーパンを振り下ろすが、それがむしろご褒美になったのか、アルハの口端は少し上がっていた。



「ふんっ…!ふんぐっ…!死ねっ!死ねっ!死ねっ!!!」

「マノ、腕を後ろで組んでてくれ」

「えっ? はい……」


 志遠に言われるがまま殴り続けていた腕をまわす。 当然、調子に乗ったアルハはこれでもかと柔らかな胸元にスリスリと顔を擦っていた。


「えい」


 間の抜けた志遠の掛け声と共にゴチュ…と硬いものと柔らかなものを殴りつけたような音が鳴る。


「あ……」


 アルハは頭部に違和感を覚えた。

 途端、目の上から赤い汗が流れてくる。


「あ………」


 おかしいと思い、片手をマノの胸から自分の頭へ伸ばす。


「あ……………あ…? あ」


 そして気付く。

 アルハの頭には、先程まで志遠が腰に差していた剣が刺さっている事を。

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