異神の森 3
「ん……んぅん……」
「…………」(このマノという少女、ベルゼブブが言っていた強欲の悪魔と契約をした人間に似ている。 それに名前こそ違うが姓はランブルグというみたいだし、ミオ・ランブルグと何か関係があるのか?)
未代志遠は自身が住処としているドーム状の木の中で考えを巡らせていた。
(仮に名を偽って俺に接近したのであれば、この娘はその狙いは俺の中にいるこの異物の解放……)
「…………」
胸に手を当て苦い表情をする未代志遠。
(だが、この娘がそんな事をするとは思えない……いや、思いたくないのかもしれない……。 この娘を見ているとアイツを思い出す)
「……ユウキ」
「んう……くしゅん!」
「っ!」(そういえば今の時期、夜は少し冷えるんだったな)
肌寒そうにくしゃみをするマノに自分の掛物を重ねる。
「くぅー……すぅ……」
「っふふ…懐かしいな、この感じ……。
……やっぱりか」
わずかに頬を緩ませていた未代志遠はマノの頭を撫でると同時に悲しげな表情に戻り、再び考えに耽る。
(この世界、創造神アフラ・マズダ・スプリウムが造り出した世界に転生してから半年、今の俺には食欲、眠気といった感覚が無い。
食べれない訳じゃないし眠れない訳でもないが、別に食わずとも寝ずとも生きていける……この世界で意識が覚醒してからはそんな感じだった。
五感も視覚と聴覚以外は著しく低下しているし、それもこれも全てコイツが原因なのだろう)
服の内側から自分の胸元を確認する。
「…………」
未代志遠は奥歯を噛み締めながら胸部に蠢くソレを凝視する。
黒い六枚の花弁とその中心に目玉を持つ生命体に、、、
(花弁の色や形からして、これは黒百合の新支配者。
しかしこれ以上、俺の体を蝕む事はありえないだろう。
コレの元であるあの少女は異神の森の加護があるこの周辺の洞窟にに封印した。 普通の人間が入ればアレに喰われ、たとえある程度強い人間の力で共に脱出したとしても異神の森の加護により再び洞窟内部へと戻されるはず……)
シャシャシャァァァァアン!!!ドッッッッ!
「っ!?」
少し離れた場所から聞こえた女性の悲鳴と草木に擦れる音。その後、殴打するように何かにぶつかった鈍い音がし森は静寂へと包まれる。
(なんだ……この周囲に普通の人間はやってこれないは…ず……)
「あ……あ、が……」
胸部の黒百合の目玉が活発的に動く。 それに呼応し、胸元を押さえ苦しみだす未代志遠。
「ぐっ……う、あ……ま、まさか……!?」
「きゃぁぁぁぁぁ!!」
シャシャシャァァァァアン!!!ドッッッッ!
「ん……あ、れ…?」
地上二十メートル程度の木の上から真っ逆さまに落ちた由利は怪我どころか傷一つすら負わなかった。
「……?」
そして自分が何かを下敷きにしている事に気付き、おもむろに目線を落とす。
「……あ!? アルハさん!?」
そこには少女の体重を味わっています!と言わんばかりに満面の笑みを浮かべる変態がいた。
「だ、大丈夫ですか!? しっかりしてください!」
「ダイジョブダイジョブ〜。 だから、早く避けてもらえると嬉しいな〜」
「あ! ご…ごめんなさい!」
すかさずアルハから距離を取る由利。
「いっつつつ……って、何してんの?」
「え…えっと……距離を……」
「あー……なるほど…? にしても離れ過ぎじゃないか?」
その距離、なんと直線で百メートル!
「ご…ごめんな……さい……」
嫌われているのがよくわかる距離である。
(嫌われてねぇから!!)「その様子だと怪我は無いみたいだな」
「あ……はい……。
あの……アルハさん、それ……」
由利はアルハの右腕を指差す。
「お? あ……」
木の枝がアルハの右腕をぶち抜いていた。
「い゛っ゛て゛ぇ゛ぇ゛ぇ゛ぇ゛ぇ゛ぇ゛ぇ゛ぇ゛ぇ゛ぇ゛ぇ゛ぇ゛!!!!!!!!!」
それまではかすり傷程度と思っていたアルハは普通に傷を負った事に気付き、年甲斐もなく数分の間絶叫した。
「あ…あの……アルハさん…………大丈夫…ですか……?」
「………ダイジョーブ、ボク、ツヨイコ……ぱくりんちょ…あ、オイシイ」
木の枝を引き抜き、再生魔法で傷口を塞いだアルハは、周辺にあった魔力の実を口にしながらその場で休憩をしていた。
「洞窟を出れたには出れたけど、この辺りは結構変な感じがするな〜」
「変な感じ……ですか?」
「うん。 なんていうかさ、誰かが隠しているような場所っていうか……普通の人間なら来れない場所なんだよな〜」
「そうなんですね……」
「結界魔法も天使や悪魔以上……神様が使いそうなレベルの魔法だし……でもそれをしたのが管理神なら、真っ先に俺に報告するだろうし……う〜ん……なんなんだろうな、これ……」
「? どうして真っ先にアルハさんに報告するんですか?」
「ん? あ、俺、神だから」
「…………」
ヤバい奴と認識したのか、隣に座っていた由利は再び距離を置く。
「いや、ホントに神様だから!」
「あ…はい……。 アルハさんの事は信じていますけど…一応、離れてた方が良いかな……って……」
「信じてるって言いながら離れてるって信じてないよね!?」
「あ、いえ! 信じてますよ! でも、神様を自称してる人は…ちょっと……」
「うゆー(泣) ボクちゃんへの信頼ゼロ!? ゼロはウル○ラマンとバト○ピとニュースだけにしてよ〜(泣)」
「ウルトラ…? バトス…?」
わけのわからない単語を並べるアルハに四苦八苦する由利。
観測者の視点から言わせてもらおう、それでいいのだ。
「オメーはバカ○ンのパパかよ!」




