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罪に願いを 新世界の先駆者  作者: 綾司木あや寧
三章 森奏世界編
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異神の森 2

「マノ、どうして君は、俺の名前を知ってるんだ?」


 アルハと酷似した金髪の青年は名乗ってすらいない自分の名を当てたマノを訝しむ。


「そ、それ…は……」


 口籠るマノ。 この森奏世界に赴いた本来の理由として、クトゥルーの新支配者という新たな神をその身に宿す人間を発見した場合、拘束するためであり、その宿主候補者が今、目の前に未代志遠なのである。


「…………」

「……すまない、君にも言えない事はあるのは当然だ」

「すみません……」


 その後、二人の間にはしばらく沈黙が続いた。



 所変わってとある洞窟にて。


「うおおおおおオオォォォぉぉぉぉおお!!!!!? なんじゃこりゃあァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァ!!!!!!」



 迫る丸い巨石を背に向け、黒髪の少女を抱きかかえ、洞窟内部の斜面を下へ下へと向かって全速力で走る男がそこにはいた。


「え、なに、あのトラップ!? 絶対、人工的なんだけど!? 由利たん、何か知らない?!」

「ご…ごめんなさい……。 アルハさんとはじめて出会ったあの辺りしか知らないので、こんな坂がある事自体知りませんでした……」

「あー…そっかぁ~! そういやそうだったね、ごめんね~!(泣)

 あぁ……もう、無理…足、つりそう……。

 由利たん……少しでも開けた場所に出たら、由利たんだけは助けてあげるからねぇ…(泣)」

「そ、そんな…! あ…諦めたら、そこで試合終了です…よ…?」

「うぅ……由利たん……なぜに安西先生なのかは分からないけど慰めありがと……」(そうは言っても、アルハしゃん、神の力を酷使しすぎたせいでエネルギーが残ってなくてよ!? ファーwww)


 半狂乱状態のアルハは上前歯を出して笑っている。

 そうこうしているうちに、洞窟は分かれ道に差し掛かる。


「よっし! 分かれ道キタァァァ!」

「で、でも……私達が逃げた方に大岩が来ちゃったら……」

「問題ナッシング! 俺たちは道の狭い右に逃げる。 んでもって、通り抜けたら土の魔法で壁を作って大岩くんが通れないようにする!」

「な、なるほど……」

「ハッハッハッー! 我ながら天才的な作戦だァ…!」


 魔法が使えれば誰でも考えられそうな作戦である。


「由利、お前、魔力の使い方は分かるか?」

「あ…はい……多少は……」

「よし。 じゃあ、少しだけ魔力を貰うけど良いか?」

「は、はい…!」


 アルハの体に手を当て、魔力を送り込む。


「んっ……んん……」

「……よし、もう十分だ、ありがと」

「えっ、あっ…はいッッッ!! 〜〜〜ッ!」


 ほんの一瞬で魔力の譲渡が終わった事が不意だったのか、声を大にして返答をする由利。 彼女がアルハへ送った魔力量は最低威力のファボエルが一度使える程度だった。


「す、すみません……大きな声出しちゃって……」

「モーマンタイモーマンタイ! 人と話す機会が少ないとそうなっちゃうよな〜! 俺もあったし!」


 単純に他の神にハブられ、ボッチだっただけである。


 右の道へと入ると、すぐに後ろを振り返り、魔力で生成した武器を構える。


「は、ハンマー……?」

「っ……聖奥解放!」


 天井を掠めるように槌を殴りつける。 だが、その一撃だけで右への道入口付近は崩落し、大岩の進行を完全に妨げたのだ。


「…………」

「ニシシ……これぞ、ハンマー版ナイトオブセイバー!

 あれ? だったらナイトオブハンマーなのか?

 ねえねえ由利たんどう思う〜?」

「へっ…? あ、えっと……そう…ですね……?」

「あ、やっぱり!? だよな〜!やっぱナイトオブハンマーだよなぁ!!

 いやぁ、洞窟全体が崩落しないように調整すんの難しかったぁ! 威力低めにしたかったからファボエル一発分の魔力量だけ貰ったのは我ながら良い判断だったな、うん!」

「…………」

「……ん? どした?」

「……すごい」


 呆けた顔で思わずそう溢す由利。 アルハは優しく微笑みながら顔を横に振る。


「別に凄かないさ、武器の扱いや魔力の調整をすれば誰だって出来るからな」

「……あ、でも……さっきアルハさん自身が凄く評価していたので私もそうした方が良いのかなぁ……と思って……」

「あらま……別にそういう意図は無かったんだけどなぁ……」


 やれやれ…と、頭を抱え、一流の主人公アピールをするイケメンで優しくて高収入で結婚して子供が出来たら育児もちゃんとこなしそうで娘が連れてきた彼氏ともすぐ仲良くなりそうな男ランキング一位のアルハさん。 ヤッパイチルュウダヨナアルファシャンハァ!

 等という滑舌と給料が残念なトランプのカードを使って戦う男みたいな地の文で締め括り自画自賛する男。 頭のおかしさで言えば一流なのは間違いない。


「しっかし、だいぶ歩いたけど外の光すら見えないなぁ……」

「た…多分……今は……夜…じゃないでしょうか…?」

「あー……それもそうだなー……。

 だとしたら出口が森の中とかだと月の光も遮られてそうだし、風とかでも吹かない限りは……」


 ヒュオオオ!!

 前方から吹く軽やかな風。


「……えっと、アルハさん」

「なんでしょう由利ちゃん……」

「風……吹きましたね……」

「風…吹きましたね!」


 駆け足で奥へ奥へと進んでいく二人。 進むにつれて土の匂いしかしなかった筈の洞窟には草木の香りが立ち込めてくる。


「ペロッ……これは森の香り!!」


 風に乗ってきた草木の匂いを舐めるという謎行動をしつつもついに、、、


「あ…!」

「おっ!」


 二人は洞窟の外へと出られたのであった!


「…………え?」

「…………ん?」


 出た直後に違和感に気付いた、大地を踏みしめるような感覚が無い。 恐る恐る足元を見る。


「……え!?」

「……なるほど、大体分かった。 由利、よく聞け」


 芝生が遠くに見える。


「俺たちは、今から落ちる」

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