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罪に願いを 新世界の先駆者  作者: 綾司木あや寧
二章 赤陽世界編
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傲慢に巣食うモノ 2

「ほゥ……何故そう思う?」

「オレのマイベストフレンドに神様に詳しい奴がいるんだよ。 でも、そこにお前みたいな魔力を持った神はいなかった。

 考えられる可能性は二つ。

 お前が他の神と複合して久導星明の肉体となっている事。 もう一つは、万物を統べるぐらいのイカれ野郎が新しく神を造ったか……。 ま、前者はありえないだろうな」

「何故だ?」

「複数いるんなら、もっと頭使ってるからオレは生きてねぇってだけの事だよ。 生まれたての赤ちゃんなら、相手の力量を理解しないでナメてるだろうしな」


 小馬鹿にしながらの答えだというのに、クトゥルーの支配者は口端を上げる。


「フッ……憶測だけであの方が造るという考えに至るか、末恐ろしいな」

「あれ? てことは、後者は図星だったって受け取っても良いのかな?」

「……フフッ、ああ、その通り。 我はクトゥルーの最高神アザトース様の偉大なる計画のために生まれた神。

 キサマら人間が記したクトゥルー神話の神が旧支配者ならば、我はこの六大世界に深淵を齎す新支配者と言ったところだ」

「新支配者……」


 まんまな呼び名ではあるが、カッコつけて痛々しいネーミングになるよりは遥かに良いと思えてしまう。


 そして、この会話の最中で星明の皮膚はペリペリと剥がれていき、その奥からはクラゲの様な透き通る皮膚とその内側にナメクジを詰め込んだような不気味な肉体が姿を見せている。


「それがお前の本来の姿か」

「ん? ああ……久導星明の皮が剥がれていたか。 彼奴の姿のままでいるつもりだったが如何せん滅びを拒んでいたために力が反発したせいか、あの姿を維持する事が不可能となったらしい。 だが、これはむしろ僥倖だ」

「反発、ねぇ……」


 だからこそ先程の聖奥結界には能力増幅や耐性低下等の効果の一切が無かったのだろう。

 どれほどの状況でも、久導星明という人間自体は他者や世界に危害を加える事を是とはしなかったようだ。


「っ……!」


 力を集中させ、瞳を黄金色に染めあげる。


「その瞳……アマテラスが言っていたな。 それはキサマが本来の力を解き放つ時の行為だと」

「わーお、聴力たっけー。 もしかして電車とかでイヤホンの音とか盗み聞きしてたタチ?」

「ぬんッっ!!!」


 バチンッ! ビギギ……。


「っ!!」


 バギゴキバァァーーン!!!


 冗談には聞く耳を持たずといった感じで星明の皮が剥がれきった腕を鞭のように振るい、こちらを叩き潰しにかかる新支配者を名乗るクトゥルーの神。

 剣で防ごうとしたものの、その柔らかな感触とは裏腹に異常なまでの強度に魔法で生成した剣は一度の防御で再使用不能となるほどの亀裂が走ったため受け流し、その触手は天照城内の一部を吹き飛ばす。


「っ………」(うわぁ……えっぐ……。 未来予知が発生してなかったらちょっとヤバかったなぁ…!)

「良い判断だ異邦者」

「え〜ほんとぉ? じゃあ、ご褒美にお名前教えてほしいなぁ」

「名前だと……」

「イエース! ナマエー!」

「……」


 訝しげな表情をするクトゥルーの新支配者。

 わずかに顔をうつむかせ、口元に手を当てる。


(おっと? そんな考えちゃうほどの事言ったっけ?)「あ、ムリそうなら別に……」


 バゴガガガァァーーーーンッ!!!

 唐突に腕の触手が振るわれる。 が、これは受け止めも往なすこともせず避ける事に徹する。

 その結果、天照城の損壊率は一割ぐらい増えただろう。


(あっぶな!? あんにャロ……)「やってくれたn……」

「ラ・イレブ」

「っ……。 ラ・イレブ……」

「如何にも。 偉大なる王より頂戴した我が名だ」


 ラ・イレブ。

 クトゥルーの新支配者がそう名乗る。


(聞いたことないしクトゥルーって感じもしないな)「で、そのラ・イレブ様は何で開幕マノを狙ったんだ?」

「あの者は我ら新支配者の手足として動いている大罪の切り札になりかねないのでな、そんなモノを野放しには出来ぬ。 それだけの事だ。

 キサマこそ、あの者の肩を持ったところで利益など無いというのに、なぜ庇い立てをするのだ」

「う〜ん……気まぐれかなぁ」

「気まぐれ?」

「そ、気まぐれ。 それに本当にやんなきゃならないバケモノとかがこうやって出て来る事もあるし……」


 右手に持っていた壊れかけの剣を放り捨て、左手の剣を右手で直に掴む。

 右手からは血が滲み出ている。


「気まぐれで都合良く欲しい物が手に入るんだ、お得だろ?」


 右手を顔の前に突き出すと、手のひらを地面へ向けて血液を落とす。

 血が腹部付近まで落ちた瞬間、その血は体の周囲を駆け巡り、全身が真紅の闘気に包まれる。


「いくぞ……」

「その姿は……まさかッ!」


 ドガッッッッ!!


 考える隙など与えない。

 剣の平たい部分でラ・イレブの脳天を叩き潰した直後、クラゲの皮膚であるヤツの体内では虫が頭から下の方へと押し込まれ、口からも何匹か吐き出している。


「聖奥解放……」


 口が開けたのを確認し、そこに聖奥ナイトオブセイバーの力を宿した剣を突き刺す。


「ォガウァ!?」

「聖奥解放……」


 突き刺した剣に新たな聖奥を発動する。


「ポイニクスブレイズ」

「!?」


 避けようと動くラ・イレブだったが、逃れようとする刹那に頭を抑え込む。

 ゴウォォォォォ………という音と共に青紫色の炎が体内に注ぎ込まれていく。


「あ゛あ゛ア゛ァ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛ァ゛ァ゛ァ゛!!!!!!!」


 体内の虫たち燃え広がる炎、断末魔の叫びをあげるラ・イレブに対して攻撃の手を休める事なく斬撃の聖奥ナイトオブセイバーと火炎魔法の上位互換とも言える聖奥ポイニクスブレイズを連続で体内に放ち続ける。


「…………」


 全身真紅の姿から元の姿へと戻る。 変身していたのは十二秒間。 その短時間の間に二十回以上の聖奥を内部に受け続けたラ・イレブの体は水分を失い、枯れ果てた事で肉体を構成していた虫が燃えカスとなり周辺に広がっていた。


「なぁーにが新支配者だ、この程度の神ならクロノスが今すぐ新しい神を造ったほうが強いじゃんか」


 瞳を閉じ、瞼を開くと、アルハの目を透き通るような水色2戻っている。


「……?」


 アルハは天照城内部の柱を不思議そうに見る。


(この柱だけ腐敗している……。 それにあのクトゥルーの神……。

 いくらなんでも弱すぎる。 こっちがステラを傷付けられて頭に血が上ってたとはいえ、スプリウムじゃなくてブラッドだぞ?

 自分の弱点をあんな簡単に突かせるのも違和感がある。 俺なら絶対にしない。 前もって対策を講じるのが当然だ)


 様々な事を思索しながらも一つだけ損傷の度合いが異なった柱に触れる。

 ヌチャァ……。


「っ!」


 手に当たる粘液のような感触。


(まさか……)「ッ!」


 瞳の色を再度黄金色に染め、その柱を凝視する。


「これは……」(転移魔法……いや、残留魔力は感じられない。 となると、魔力を含まずに空間転移をしたのか?

 そして、この粘液……。 なるほど、ラ・イレブは体の一部分だけでも残っていれば復活が出来る類らしいな。

 そういえば、ヤツが姿を現した時に発動した聖奥結界は別空間を作り出すものじゃなかった……)

「……なんだ、アイツも初めから戦う気なんて無かったんじゃないか」


 自嘲気味に笑みを浮かべるアルハは、聖奥ラドジェルブで天照城とその周辺地域を浄化。

 さらに、瞳の力で天照城を元の姿へと完全に修復させるのだった。

ラ・イレブ(lA ileB)

クトゥルー神話の神アザトースが新たに造り出した神。

かつて世界を掌握した旧支配者とは異なり、古の時代、創造神アフラ・マズダにより世界の片隅に追いやられた後にアザトースが後世を支配するために生み出した神であり、新支配者という枠組みである。

基本的には人型、四足獣型で、クラゲの皮膚にヘビの腕、体の内側はミミズ、ヒル、ナメクジが詰め込まれているものの、臓器や骨、血管等の人体構成は人間に近しい。

顔のパーツには唇にミミズ、舌に引き伸ばしたヒル、目鼻耳にカタツムリの触角が用いられている(アルハと対話、戦闘を行っているので五感の把握は出来ているようだ)。

ラ・イレブのクラゲの皮膚は常に透明なので、内側の虫が蠢いている事を常に視認できる状態にある。

身長体重は自由に変化させる事が可能。 旧支配者を見た人間は発狂すると言われているが、新支配者は声を聞く、触れる、匂いを嗅ぐといった行為で精神を破壊し廃人にさせる。

例外的に人間の完全上位種。又は新支配者が気に入った人間は上記の精神崩壊を起こさない(尚、気に入った人間だからといって無事で済むわけではないのであしからず)

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