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罪に願いを 新世界の先駆者  作者: 綾司木あや寧
二章 赤陽世界編
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幕間 暴食者、守護者、外界者

「ぷはっ!」

「目を覚ましたか、ベルゼブブ」

「ありがとう、境界の守護者サマ」

「俺をその名で呼ぶのは嫌味か?」

「フフフ……さあ、どうだろうね?」


 富士山内部のマグマへと沈んだはずのベルゼブブは、真っ白い虚無のような空間にて、仰向けの状態で目を覚ました。

 彼の側には、銀色の短髪に透き通るような青い瞳をした青年。


「っ………」

「?? どうした、ベルゼブブ。 何か言いたげだな」


 守護者と呼ばれる青年の髪が揺れている。それは風に吹かれてという意味ではなく、生き物の…例えて言うなら軟体生物のようにウネウネと。


「いや…別に?」

「……そうか」


 はぐらかされた事を理解した上で、それ以上の深堀りをしないのは、守護者と呼ばれる青年も現状の関係を壊したくないからなのだろう。


「それより見たかい? 彼はブラッドブーストすら会得しているらしい」

「……そうらしいな」

「あれれぇ? 守護者サマはちょっと怖いのかなぁ?」


 ベルゼブブが茶化すように問い掛けるも、守護者と呼ばれる青年は興味なさげに真っ白な虚無から外側の世界を見せる出口に目線を向ける。


「……繋がったぞ。

 そんなに暇なら魔界に戻り、旧支配者共に今回の件でも報告しろ。 俺は用事ができた」

「アルハ・アドザムに会うつもりならやめた方が良いよ」

「アルハ……誰だ、それは?」

「君の姿を勝手に使っている人でも天使でもない彼の事さ。 君が天使や神の切り札であっても、今の君はRPGで言えばレベル1の勇者。

 素晴らしい役職でも、レベルが低ければ推奨レベル40の敵は倒せないよ?」


 これから起こるであろう展開を、ゲーム感覚で愉快に説明するベルゼブブ。


「何故、俺がヤツに会うと?」

「う〜ん…勘、かな。 僕、天上の神様と違って誰かの心を読むとか、そういう一芸を持ってるわけじゃないから」


 張り付けたような笑顔を見せるベルゼブブ。


「クククッ……………ハハハハハハハハハハッ!!」


 何を思ったのか青年は開き直るように笑う。


「笑わせるなよ、バアルゼブブ。 異能という点で劣ったとして、お前も天上の神と何ら変わりない神の一体じゃないか」

「あ、ひどーい! 僕の事、そう呼ばないでって言ってるのに〜……」

「お前も俺の事を境界の守護者と呼んだろう?」

「あー……それもそうだね!」

「………フン。 俺が行こうとしてるのは森奏(しんそう)の世界だ、ドッペルゲンガーなんかに興味は無い」


 真っ白な虚無に生じた二つの空間の裂け目、片方は黄昏の空が広がる世界、片方は見渡す限り森となっている世界だった。

 境界の守護者は、それ以上、口にする事なく、空間の裂け目から森奏の世界へと飛んでいった。

 守護者が森奏の世界へと行くと同時に空間の裂け目の一つが消失する。


 一人、真っ白な虚無の空間に取り残されたベルゼブブは、閉じた裂け目を眺めながらほくそ笑む。


(やっぱりアフラ・マズダが模した未代志遠とは違うなぁ。 いくらアザトースといえど、新たに創造されたこの世界に、既に無い事にされている世界にいた一個人を造るのは難しかったか。

 ……いや、むしろ、アフラ・マズダの創造力が異常なのか?)


「しっかし、分身体が一撃で殺られちゃうなんてなぁ……相手を舐めていたにしても、アレはちょっと……かなり予想外だったなぁ」


 残るもう一つの空間の裂け目に歩を進ませながら、そんな事を語る。


「でも、試作品にしては上出来かな。 神器を持ったスサノオとツクヨミを相手取って勝っちゃったぐらいだし!」


 黄昏が広がる世界の空の雲は、時間が加速しているかのように動いている。


「ベルゼブブ」

「……!」


 真っ白な空間を抜け、黄昏時の世界へと足を踏み入れたベルゼブブの前には、人の型を成した闇があった。


「貴方が迎えてくれるなんて珍しいですね?」

「我が与えた分身能力の具合が気になったのでな」

「あ、不安で様子を見に来てくれたんですね、ちょっと可愛いかも!

 簡潔に報告するなら、神器を持ったスサノオとツクヨミは倒しましたよ」

「ほう……そうか、天照大御神の実弟を…」

「はい。 でも、もっと精進しなくちゃですねぇ。

 なんせ、分身体の発動条件がこの境界路で眠ってる時だけだし、分身体が倒されると最悪、数日間意識が戻らないというデメリットもあるんで……」


 肩をすくめ、苦笑するベルゼブブ。


「それだけか?」

「……それだけ、とは?」

「その分身体を倒したのは、ただの人間ではないのだろう?」

「……何故、そう思うんです?」

「回りくどい回答から察するに、汝には分身体討伐者の目星がついていないと見える」

「……」

「……」


 強風の音に混じり、微かに嘲笑うような声が聞こえてくる。

 人型の闇は、アルハ・アドザムの正体について「汝には目星がついていない」と言った。

 言い間違いかもしれないが、「汝にも」ではなく「汝には」と……。

 では、この闇には目星がついているのだろうか?


「まあ、それはさして重要ではない。 此度の目的である傲慢の契約者の模造は完了した」

「え、もうですか?」

「汝が生み出した分身体を真似て作り上げたモノがすでに赤陽世界へと送り込まれている。

 ベルゼブブ、汝の任は解かれた。 羽目を外し過ぎぬ程度に休暇を取ると良い」

「分かりました」


 休暇……と、言っても、やる事なんてほとんど無い。 英気を養うより、あのアルハ・アドザムというヒトモドキを観察したいという気持ちの方が今は強い。

 境界の守護者である未代志遠と同じ姿をした人でも天使でもない誰かが、偽物でも傲慢の契約者としてボクの神様が造った久導星明(くどうせいめい)を見たらどんな反応をするのだろうか?

 そんな事を考えながらも、分身体の初生成や操作で魔力を消費してたらしく、黄昏時の世界に一つだけ聳え立つ王城の一室にて、ベルゼブブは一瞬にして眠りに落ちた。

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