ギイム 6
「ともかく、ベルゼブブにその二つの神器が奪われたらかなりマズいからな、ちょっと一飛びして助力するわ」
「もう行っちゃうんですか〜?」
「ああ。 それで、悪いんだけど、マモンを預かっといてもらえるか」
「はぁ〜い、分かりました〜」
「ええ!? アタシ、ハブられるんですか!?」
「いても、強欲の力は使わせられないし、その姿のままじゃ肉弾戦も期待できないからな。
じゃ、行ってくる」
「いってらっしゃ~い」
「あっ…!」
呼び止める間も無く、アルハはアルエリテスを使い、富士山へと飛行した。
(一人で行動するんなら、アタシを連れてきた意味無いじゃないですか!)
「?? マモンちゃん、どうかしましたか?」
「別に…何でもないです……」
「…………あ!」(うふふ……なるほどです♪)
「……何ですか…って、へ?」
「ぎゅぅぅぅぅぅうううう…! うふふっ!」
「な、なんですか!?」
置き去りにされふてくされていたマモンは不意に抱きしめられ顔を赤らめる。
「お気になさらず! ただ、可愛いから、ぎゅうううってしたくなっただけですよ〜ぉ」
「???」
ト゛コ゛コ゛コ゛コ゛コ゛コ゛オ゛オ゛オ゛オ゛オ゛オ゛オ゛オ゛オ゛オ゛オ゛オ゛オ゛ン゛!!!!
(っ! 今のは……)
富士山から轟く爆発にも近い衝撃音。
(スサノオのやつ、草薙剣を使ったのか?)
「っ……」
魔力を集中させ、瞳が黄金色に染まる。
瞬間、アルハの脳内には現在の富士山内部の光景が広がる。
そこには銅剣を携えた強面の男と自身の周囲に勾玉を浮かばせている中性的な青年が三対の黒翼を広げる男と対峙していた。
「……」
ただし、無傷の黒翼の男とは違い、銅剣を持つ男の両腕の腕は肉を削ぎ落とされ、勾玉を浮かばせる青年の頭部は何かに貫かれたような傷口がいくつか見られる。
(絶体絶命って感じかぁ……。 いくら神の力を封印してるからってアイツらが追い詰められるって事はベルゼブブは相当な悪魔なんだなぁ…)
「っ!」
空中で動きを止めるアルハ。 眼前には複数の虫が羽をはためかせていた。
「蝿……」
蠅は、ここから先へ行かせないと言わんばかりに複眼で睨んでいるように見える。
(ベルゼブブの眷属……にしては、少し頼りなくも思えるが……。
試してみるか)
両手で輪廻を描き、巨大な火炎の塊を形成し、それを天に掲げつつ、広げるように横に下ろしていく。
一つの大きさは縮小されるも、合計で十二の火炎魔法となる。
「知性があるなら、せいぜい足掻けよっ!」
放たれる火炎魔法ファボアル。 ただの虫であれば抵抗する事なく炎に包まれ見て不愉快食べて吐き気の焼き虫の完成だろう。
しかし、、、
蝿たちは烈風魔法、水流魔法、氷結魔法を駆使して相殺する。
「うそぉーん……」
簡単に倒されないにしろ、魔法で対抗するとは思わなかったアルハはお口アングリーバードである。
「クッソぉ……ダイ大のフレイザードだって五連なのにこっちは十二連だぞ!?
初見殺しってレベルじゃねーぞ!?おい!」
ネットで流行ったような台詞で愚痴をぶつけるアルハの事などつゆ知らず、蝿たちはただ立ち塞がるだけ、、、
「でも、よく防いでくれたよ……ありがとな」
それを予見したようなアルハの言葉の後に、空からは光芒が降り注がれる。
「………!………………………………………!!!!!!」
いわゆる虫の知らせで危険と判断したのか、逃げ惑う蝿の群れ。
しかし逃げ場が無いほどの範囲の光芒を浴びた蝿たちはみるみるうちに消滅していく。
それは、光の熱によるものではなく、光により影が消えるような現象だった。
「……ま、これも聖奥みたいなものだよなぁ。
名前つけるなら……ラドジェルブ!だな!」
アルハが火炎魔法発動時の動作には必要の無い行為がいくつかあった。
それは決して厨ニ脳によるカッコつけではなく、後の聖奥に必要な動作だった。
「所詮は虫ケラってわけか。 ベルゼブブの野郎……俺を虫以下だと思ってんのかぁ…?
ま、無視されるよりかはマシか! ガハハ!」
死んでしまえ。
名 ラドジェルブ(radojelB)
種類 特殊型
使用者 アルハ・アドザム
魔法属性 光
魔力消費量 無し〜低
胸の前に手を突き出し輪廻を描き、その手で空に翳す事で大地に向け光芒を下ろす聖奥。
不浄を払い、病を退け、闇を討ち滅ぼすとされている。
名前の由来はヤコブの梯子である。