ニルプス 6
「イヤです!」
「そこをなんとか──」
「イヤ! イヤ! ぜっっっっっっっったいイヤ!!!」
「…………」
「随分な言われ方をされてるな? 私が目を離してる間に何か無理強いでもしたか」
ニルプス城地下牢にて。
俺、アルハ・アドザムは赤陽世界の管理神から自分の身を守るため、強欲の悪魔に同行してもらえないかと頼み込んでいた。
「どうしてアタシがアナタみたいな変質者と一緒に行動しなきゃいけないんですか!」
「へ、変質者……」
「失礼な悪魔だな。 否定はしないが」
お前はどっちの味方なんだ……。
そんな事を考えていると、ルイがおもむろに牢の扉に手をかける。
「アルハ、入るぞ」
「え? あ、おう……」
「っ!」
牢の中へと入ってきたルイに警戒する強欲の悪魔。
ルイは俺たちのそばまで近づき……。
ゴッ!
「ガっ!?」
左手で強欲の悪魔の脳天にゲンコツを入れた。
「え……」
うつ伏せで倒れる強欲の悪魔は白目を剥いたまま気を失っている。
「あのー……ルイさん? 何をなさってやがるんでしょうか?」
「これで連れていけるだろう? よかったな」
「……」
ここで思い出してほしい。
こんな雑な手を使っているのが金髪碧眼幼女の見た目をした管理神オーディンであることを。
「どうしてお前が管理神になれたんだろうな……」
「二代目就任時に残っていた神が私以下のカスばかりだっからな。 ゼウスは当時クソジジイだったから論外、シヴァは管理に向かず、ラーも月光世界の性質的に任せられない。
となると、一番マシな私に白羽の矢が立つのは当然の事だ」
「一番マシ……?」
「……何か含みのある言い方だな?」
鋭い目つきでこちらを睨みつけるルイ。
「あ、いや! なんでもないです……」
クロノスもこんなのしか選べなかったと思うと可哀想だな……。
「そんな事より中庭に行くぞ」
「? おう……」
ルイに急かされ、地下牢から出た俺は、彼女を追うようにニルプス城の中庭へと向かう。
「んで、ここに何があるんだ?」
「あれを見ろ」
中庭の一角、ルイの指差す先には人一人が立てそうな魔法陣が描かれていた。
「あれって転移魔法陣か?」
「そうだ。 貴様の目的は先日聞いていたからな。
この件が一段落した後に他の六大世界へ赴くつもりだったのだろう? なら、転移直後の負担を少しでも減らそうと思い、使い切りの転移魔法陣を作っておいたのだ」
「ルイ……」
どうだ……! と、言わんばかりの表情が見た目通りの子供らしさが出ていて少し可愛いと思ってしまった。
「さ、ソイツが目を覚まして騒ぐ前に早く行け」
「おう! ありがとな、ルイ」
「っ……」
顔を背けたルイは、もうそれ以上こちらに目線を向けはしなかった。
転移魔法陣は真上に立った途端その力を発揮し、俺と俺が担いでる強欲の悪魔を赤陽世界へと飛ばした。
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『何でアナタは死なないの? あたしは死んだのに』
死を願った者は彼女を恨んだ。
『なーんだ、まけたんだー。 アタシの力をあげたのに』
力を与えた者は彼女に呆れた。
『何で蠢鈴□くんのそばにいないの? 私が内にいるのに』
別根の者は彼女を憎んだ。
何者にもなれない彼女の腸で。
第一章はこれで終わりです。




