ニルプス 5
強欲の悪魔が眠りについていた間に記憶から読み取れた事。
大罪の悪魔は人の願いを叶える力を持っていて、願いの代償として人間は肉体と魂を捧げなければならない事。
ここに関しては俺も知識として持ち合わせている。 もっとも、後天的な能力のため、これしか知らないが……。
肝心なのは願いを叶える対象。
年齢は十代の少年少女が選ばれる傾向にあるが、その理由が大人よりも騙しやすいというしょうもないものらしい。
「なのに、お前は"死にたい"と思っていた奴を選んだんだな」
「……」
「願いは叶って肉体が手に入ったみたいだが、魂は食ってないし、なんかお前自身がグチャグチャだしで、俺の理解すら超えてるんだぞ?」
「アナタの理解を超えてるからなんですか? というか、グチャグチャってどういう意味ですか?」
「……」
強欲の悪魔は自分という一つの存在に複数の魂が混ざっている事を理解していなかった。
「お前、本当に何も知らないのな」
「!……。 知ってますよ! アタシは強欲を司る大罪の悪魔マモン!」
「お前が肉体を奪って、今使ってる肉体の本来の名前は?」
「ミオ・ランブルグです! ……記憶を読み取ったのにそんなのも分からないんですか? ダッサ!」
……凄い勢いで罵られた。
「月光世界を襲撃するように指示したのは?」
「それは──!?」
慌てて口をおさえる強欲の悪魔。
「あっぶなかったぁ……」
「ちぇっ……吐かなかったか……」
「セコいですよ誘導尋問とか!」
「頭脳派と言ってほしいな……!」
「そんなんだから幼女に脅されるんですよ……」
「アイツ、見た目こそ幼女だけど、クソババアだからな!? 俺と数百年しか変わらないからな!?」
「あーあ! もう一度戦えたら、あんな幼女ぐらい簡単に……」
瞬間、強欲の悪魔の腹部からバチバチッっという火花が飛び散る。
「イぎっ!?」
服が焼け、牢屋内に焦げた臭いが漂う。
「ィ……た…………」
「ルイのやつ、腹に主従契約用の印を刻んだみたいだな」
「主従……契約?」
「子供騙しみたいなもんだ、その内消えるから気にしなくていいさ」
「……アナタ、この印を消せるんじゃないんですか?」
「消せるけど代わりに隠してる事、教えてくんないかな〜」
「お断りします!」
「ふんふん……大罪の長はベルゼブブか。 アイツ、雰囲気だけは余裕ぶるんだよなぁ」
「な……ッ!?」
こちらの言葉に驚きが隠せない強欲の悪魔。
俺が本当に知りたかった事は彼女自身も知らないので読み取る事は出来なかったが、彼女が記憶している数百年の出来事ならすでに閲覧済みだ。
「アルハ、何か情報は得られたか?」
「!……。 オーディン!!」
野良犬のように唸り声を上げて、ルイに威嚇する強欲の悪魔。
「おう! 大罪の長はベルゼブブだってさ」
「言うなッッ!」
「お〜……こわ……」
「ベルゼブブか……ルチーフェロよりはマシだろうが今の貴様が正面から戦うには少々分が悪いかもしれんな」
「だな。 んで、問題があって……。
ベルゼブブは赤陽の世界を制圧するつもりらしいんだよ……」
「? それのどこが問題…………なるほどな」
「正直、赤陽世界はルイに行ってほしいけど、お前はこの世界や連絡のつかない魔剣使徒も心配だろうし無理だよなぁ……」
「ちょっと!!」
「ああ。 前回、私が同伴した時ですら一晩明かしたぐらいだったが……」
「お前がいたから一晩で済んだんだよ……。 どうすっかなぁ……」
「アタシを無視しないでください!!」
俺達は騒がしい悪魔を見ながら、ベルゼブブへの対処で頭を悩ませる。
騒がしい少女の姿をした悪魔を……。
「「……あ!!」」