ニルプス 3
玉座の間への扉が開かれる。
「っ! 凝りもせずに戻ってきたんですね」
玉座に座る人影は、当然ながらこちらの来訪を望んでいないらしく、不快そうな口ぶりだ。
「そういう事だ、覚悟は良いか?」
「覚悟? またやられる事を前提としたアナタ自身への戒めか何かですか?」
何度か来ては負けてたんだな。
「おい、殴られたくなかったらその呆れ顔やめろ」
「えっ!? アルハしゃん、そんな顔してた?」
「アルハ? ああ、今の貴様の名か。
していたとも。 ムカつくから是非ともやめろ」
「は〜い……」
「? そこにいるのは……」
強欲の悪魔はルイの斜め後方父親面をしている俺に気付いたのか、玉座から立ち上がる。
「今度はお仲間まで連れてきたんですか。
おかしいですね。 この国全員を洗脳して、アタシの支配下においたはずなんですけど……」
「そりゃこの国限定だろ? 俺はこの国の人間じゃないんだよ、それぐらい察しろよ悪魔ちゃん」
「……」
強欲の悪魔が右手を上げ、近衛魔法剣士達に指示を仰ぐ。
「あらら、怒らせちゃったか」
「役に立たんな、貴様」
「助けに来たのにその言い方はないだろ〜」
「なら、せいぜい近衛騎士共の足止めぐらいはしろ。 私は貴様が寄越した僅かばかりの魔力でヤツをブチ殺す」
「あの、ルイさん? 情報集めたいから半殺しにしてもらえません?」
「断る──ッ!」
身体強化の魔法を発動し、近衛騎士を掻い潜りながら強欲の悪魔へと接近するルイ。
「ヒッ……!」
予想外な動きに怯む強欲の悪魔。
「クタバレ!」
ルイは魔力で生成した槍を強欲の悪魔へ放つ。
「……!」
しかし、既の所で近衛騎士がそれを往なし、強欲の悪魔の盾となる。
「チィ……!
おい、アルハ! 近衛騎士の足止めをしろと言っただろ!」
「うわ、怖っ……育て方間違えたかも……」
愛らしい幼女の姿と相反し、ピリピリとしたオーラ全開の彼女には正直引いてしまう……。
「な、なぁーんだ……。 協調性の欠片も無いじゃないですか……」(これならワンチャン……)
「……あれ? 俺はいったい……」
「……へっ?」
「あっ! オーディン様!」
「っ! 私が分かるのか?」
強欲の悪魔の盾となっていた近衛騎士は唐突にルイの事を思い出す。 否、俺が洗脳の上書きをしたのだ。
他七名の近衛騎士達も各々思い出したようにあーだこーだと話し始める。
(ウソ……洗脳の効力が……。
……逃げなきゃ!)
強欲の悪魔が危険を察知し、背中を向けた瞬間。
音速の物体が彼女の真横から壁へと射貫かれる。
「…………」
「は……ははは……」
強欲の悪魔は声は震えていた。 それもそのはず、視線を戻すと、そこには鬼の形相をした幼女が魔力で生成した二本の槍を両手に持ちながら歩を寄せる姿があった。
(あ……これ、死ぬ)
強欲の悪魔の記憶はそこで途絶えた。
彼女の記憶に代わり解説すると、彼女の顔面を二本の槍が貫き、それで飽き足らなかったルイは一階まで何度も殴り、叩き落としたのだ。
強欲の悪魔の頭部は下顎部分のみ原型を残し、そこから上は消し飛んだように無くなっていた。




