ニルプス 1
「ありがとう、お兄ちゃん!」
「おう」
月光の世界ア・ヌールに存在する六カ国の一つ、ニルプスの城付近。
この俺、アルハ・アドザムは城の兵士に襲われていた幼い少女を助けた。
「ケガ無いか?」
「うん! へいきだよ!」
少女はニッコリと笑みを見せる。
……正直言って、コイツの正体を知ってる立場としては、この笑顔を見せられるとむず痒くなってしまう。
「で、何でこんな事になってるんだ?」
「え……えっと……」
少女はニルプス城へと目を向ける。
今は何も聞かず黙って案内しろ……という事らしい。
「入らないのか?」
「入りたいけど、前来たときは門番さんに追い返されちゃった……」
「追い返され……」
コイツが追い返される? 散々パワハラされたからって事で納得は出来るが、コイツならどうとでも……。
……いや、今はそれどころじゃないな。
「分かった。 じゃあ、一緒に行くか」
「うん!」
少女の手を引き、正門前へと着くと、当然といえば当然だが数名の兵士が門を守っており、敵意むき出しで金髪碧眼幼女と俺へ得物を向ける。
「……随分なご挨拶だな? この国の王はいつから暴力的な思想を持ったんだか……」
「ニルプス王はお忙しい。 部外者が──」
「入れろ」
「…………」
こちらと視線を合わせた兵士達が得物を下げ、正門を開く。
「っ……」
一瞬で解決した事に驚いたのか金髪碧眼の幼女は呆気に取られているが……。
「見覚えあるだろ?」
「えっ……うわぁ! お兄ちゃん凄いんだね!」
「……だめだこりゃ」
監視の目を欺くためか、まだ演技を続けるらしい。
「なんだキサマら!? 敵襲! 敵襲ゥゥぅ!!」
「うっさいから思考停止しろ」
正門を抜け、中の大広間に到着すると、凡そ五十名程度の兵士が俺達を発見。
……したものの、俺の黄金の瞳を見た事で兵士達は皆、考える事が出来なくなる。
俺達は早々に玉座がある上の階へと進む。
「っ……」
「洗脳の上書き、簡単過ぎないか?
よく、この程度の相手に負けたな、お前」
「王様の部屋には、強い人がいっぱいいるよ?」
「りょーかい。 近衛魔法剣士のことな」
最上階、玉座の間の前。
扉の向こうからは合計九名の魔力反応。 内一つは人間とは少し異なる魔力。 八つは魔法剣士のものだろう。
「もう目の前なんだ、いい加減教えろよオーディン」
「……」