水明世界編 0※
作者の誕生日記念投稿です。「断罪者の審判 色欲」の後日談みたいな感じで、いつか書く水明世界編の話を書きました。
黄昏の空広がる世界の居城にて
「ただいま戻っちゃいましたぁ!」
「……」
艶やかな黒髪に茜色の瞳をした女が騒々しい身振り手振りをしながら城へと足を踏み入れる。
「おや? もしも〜しっ!ベリさん聞こえてるぅ?」
「……」
それに動じる事なく、珈琲を片手に読書をする眼鏡をかけた細目茶髪の男。
「えぇ〜……無視?無視なの?そういうお年頃なのぉ…?」
「バアル」
「おっ! なになにぃ?」
「うるさい」
「……ひどぉーい。 せっかく半分だけでも色欲の権能を回収してきたのにぃ……」
「色欲の権能を回収…? それはつまり……」
右手でサムズアップをしながら、左手から回収した禍々しい魔力の塊を見せつける。
「殺しちゃいましたっ!テヘっ!」
「……そうですか。 では、色欲の権能はアザトゥス様に献上するように」
「はーいっ!」
軽快な足取りで中央の間からアザトゥスのいる最深部へと向かおうとするバアル。
「バアル」
「はいはーい?」
「参考までに訊ねますが、なぜアスモデウスを殺害したのですか?」
「バアルちゃんの私的な理由とアザトゥス様への反逆的な理由……どっちの理由で聞きたいですかっ?」
「後者で」
「了解ですっ!
色々端折っちゃうとアスモデウス様、魔転化状態でもないのに支配者の権能を二つ以上使ったから死んじゃったんですよ。
でも、完全に魂が消失する直前に神ってるアルハさんが転生聖奥を使っちゃったんですっ!」
「転生聖奥……リーンカーネーションですか」
「リーン……? はいっ!それですっ!リーンカーネーションですっ!
それで、アスモデウス様ったら何を思ったのか、その転生を受け入れそうになったんですっ!おっどろきー!
なので……」
ルンルンとスキップをし、ふふふふ…と笑いを堪えるバアル。
「なので、アスモデウス様が死んで肉体が消滅した空間だけを森奏世界から切り離して、そこだけを別の世界としちゃいましたぁ!
それから、その空間の時間を巻き戻して、生きていたアスモデウスの頭をかち割っちゃいました!キャハっ!
あ、でも、安心してくださいよぉ? 存在する時間を私がアスモデウス様を殺す直前から殺して死ぬまでの数分間だけにしたので、過去に戻ってやり直そう!なんて考えは出来ないし、私が研究した人工神の権能による隔離なので、アルハさんのような創造神でも、見つけ出す事は不可能ですっ!」
「そこまでしたんですか」
「はいっ! そこまでしちゃいましたっ!
それじゃ、バアルさんはアザトゥス様に色欲の権能をプレゼントしちゃいに行くのでサラダバーですっ!」
パタンっ……最深部と中央の間を繋げる扉が閉まる。
「っ…………」
コーヒーカップをテーブルに置き、指を額にあてながら大きくため息を吐くベリアル。
「ベルゼブブにどう説明すれば……」
「聞いちゃったー聞いちゃったー♫」
「!?」
バアルが去り、中央の間にいたのは自分だけだと思っていた。
そんな折、突然の耳に入った声に驚いたベリアルは立ち上がって辺りを見回す。
「ベリアルったら、そんな事をベルに隠そうとしているんだ」
「貴女様は……」
宙で横向きに寝そべるような体勢でベリアルを見下ろす少女。
少女は床に足を着けると、ベリアルの元へと歩み寄っていく。
「ベリアルは悪い子ね」
「サン様……貴女様はルシファー様と紫闇世界に赴かれた筈では?」
「自分の立場が危ういと論点ずらし……ベリアルったら、可愛いんだから」
立ち上がったベリアルの肩に手をかけ、椅子に座らせるサンと呼ばれる少女。
「……」
「でも、その質問には答えてあげる。
ルシファーはセイメイとかいう男と紫闇世界を制圧するから、サンは必要無いって」
「セイメイ……」(別根世界のワールドマスターか。 赤陽世界での一件以来、どこに雲隠れしたかと思えば、そんなところに……)
「そ。 だから暇になっちゃったんだー」
「そうでしたか」(なら、こちらが劣勢を強いられている水明世界にでも……!?)
ベリアルの口の中に柔らかく暖かな物が入っていく。
交わる舌の上では、互いの唾液が絡み合い、ふわふわとした甘美な行為に満足したサンが半歩後ろへと下がる。
口の回りに残っていたベリアルの唾液を指で拭い、その指の唾液を啜る。
「う〜〜ん! 幸せ……」
恍惚の表情で唾液を拭った指を見つめるサン。
「…………」
放心状態で目を大きく見開くベリアル。
「あなたが目を開けるところ初めて見た。
ベリアルって、とってもキレイな目をしてるんだね」
「サン様……どういうつもりです……?」
「怖そうな顔をしてたから?」
「私が言ってるのはそういう事ではなく、なぜ口づけを……」
「なぜって……好きだから?」
「っ……」
「あなた、バアルみたいに本当は強いから自惚れるちゃうって事しないでしょ? だから好きなんだ」
「私は身の丈にあった態度を取っているだけであって……」
「ふーん……そうなんだ。 じゃあ、それでもイイよ。
で、話は戻るけど、ベリアルはサンにお願いしたい事があるんじゃない?」
「……参りましたね。 こちらの考えを見抜いていたとは……」
「好きな相手のことだもん、それくらい分かるよ」
無邪気に笑みを浮かべてベリアルの瞳をまっすぐに見つめる。
「では、サン様。 ベルフェゴール様の援軍として水明世界へ赴いていただけますか?」
「うん。イイよ」
「……詳細な情報の開示を求めないのですか?」
「えっ? それって必要?
ベルルがピンチだからフォローに回ってほしいって事じゃないの?
なら、別に聞かなくても良いと思っただけ」
「……」(この女、本気でそんな事を?)
「じゃ、行ってくるけど……」
「?……」
言葉を詰まらせるサタン。
ベリアルに背を向け、転移魔法を発動を開始する。
「もし……もしもサンが死んじゃう様な事があったら、その時はベリアルがサンにとどめを刺してね?」
「それはどういう……」
転移の直前、ベリアルへと顔を振り向けたサタンは、物憂げな表情を覗かせていた。
「…………」(何だこの感情は……心を乱されるようなこの嫌悪感は……)
「私は……。
…………。
…………?」
サタンが立っていた場所に何かが落ちているのに気付いたベリアルが手をのばす。
「これは……」
そこにあったのは極彩色の羽根だった。
「おやおや……これは面白い関係ですねぇ……」
中央の間の扉越し。
気配を、魔力を押し殺し、耳をすませていたバアル。
「これは……うんっ。 少し予定を変更しましょうっ!」
口端を上げ、悪戯な笑みを浮かべると、アザトゥスへの色欲の権能の譲渡を放棄。
自らが所持したまま、何処かへと転移するのだった。
サタン
一人称 サン
七つの大罪、憤怒を司る悪魔。
下記の容姿はサタンに願い、肉体を捧げた人間の特徴である。
髪型 外側にはねたセミロング
髪色 明るめの灰色
瞳の色 薄紫
肉体年齢 13歳
身長150cm体重44kg




