璃失選択 4
「……アスモデウスが消息を絶った事は瑠樹を介して認知していたが、まさかサタンまでも」
「はいっ! さっき殺して、魂は私ちゃんの中に、肉体は複製品を作るためにパンデモニウム強制送還しました!」
一切の曇り無い晴れやかな笑顔で答える黒髪の少女。
「ふっ……この期に及んで未だバアルの名を語るか」
「……こっちの方が色々と都合が良いんですよ。 天上の神々も悪魔一匹程度にかまける程ヒマではないようですし」
「成る程、悪魔として動いているのは神からの干渉を避ける為か」
「はい。 神のくせに人間に媚を売りすぎて消えた月光神もいますしね!アハっ!」
「…………」
バアルを自称する少女に睨みをきかせるベルフェゴール。
そんな態度に物怖じせず、真っ赤な瞳でベルフェゴールに不気味さが滲み出た笑みを向ける。
「何がおかしい」
「……? 私、笑ってました?」
「ああ、気味の悪いほどにな」
「おやおや……それは失礼。
では、時間も惜しいのでちゃっちゃと終わらせましょうか!」
瞬間、璃空とベルフェゴールの視界から黒髪の女が消失する。
「消えた!?」
「ッ! 少年よ、姉の肉体を守れ!」
「時間切れです」
抑揚の無いバアルを自称する女の声、それが合図かのように病院の一室だった空間が崩れだす。
「うわぁッ!?」
足元が崩れ、奈落へと落ちる璃空。
(飛行魔法が機能しない!?
そうか、ここは姉さんが人間だった頃の記憶だけで生成された空間。 ただの人間が空を飛ぶという認識は存在しないから……)
「ふんッ!」
しかし、背から二対の翼を広げたベルフェゴールが間一髪で璃空の腕を引き、すくい上げる。
「無事か、璃空よ」
「あ、はい……ありがとう──」
「邪奥解放!」
「「!!」」
黒髪の女が紡ぐ言の葉は老人と少年を屠らんと照準を合わせる。
「覚醒める冥府の華」
花の形を両手で作り出し、黒い魔力の花弁が放出される。
「邪奥解放!」
璃空を片腕に抱えた状態のベルフェゴールは魔力で生成した剣から邪奥を放たんと身構える。
「少年よ、我が翼を一対与える」
「え?」
「その翼でこの空間を飛翔し、己が姉弟ぐらいは守ってやるのだ」
「っ……。 はい!」
瞬間、背中に走る僅かな痛みを感じた璃空はベルフェゴールを押し退け、彼から貰い受けた翼で崩壊を起こす精神世界を駆け上がる。
「こちらの攻撃を無視して仲良くお喋りなんて、ずいぶんと余裕ですね!」
「ふんっ、大罪の悪魔をナメるな。 彼の刃は異を無に帰す!」
放たれた剣戟は黒い花弁を相殺する。
「!?」
否、剣戟は黒い花弁がなかったように溶かし、その力を衰えさせる事なくバアルを迎撃する。
「っ……!」
手で空を凪ぎ、生み出した微風から槍のような得物を生成する。
「……成程。 異能力を無力化させる怠惰の大罪魔法と最奥の力を融合させた技」
「左様。 しかし不思議だな。
何故、防げた?」
「…………あはっ☆」
ベルフェゴールからの問いにバアルは取って付けたような笑みを浮かべる。