璃失選択 3
「貴方が、怠惰の悪魔」
璃空の言葉に首を縦に振るベルフェゴール。
「と、言っても今のワシは君を傷付けるどころか拘束することもままならない。
大罪の悪魔としての特異な力は君の姉と契約した時点で全て譲渡したからな。
ここにいるのは悪魔の残骸。 腹を裂こうが頭をかち割ろうが何も出てはこない」
「そんな……僕は……」
「分かっておる。
永い間、暇だったのでな。 茶化しただけだ」
ホッホッホ……気の抜けた笑い声を上げると、ベルフェゴールは気怠そうに記憶の中の飯島瑠樹へと歩みだす。
「お前さんが欲しいのはこれだろう?」
「えっ……」
ベルフェゴールが手のひらを大きく広げ、飯島瑠樹の頭を掴む。
「ガぇっ」
胴体から引き千切られる刹那に感じた痛覚が悲鳴とも異なる音を出す。
「くれてやろう」
「……」
ベルフェゴールは捻り、引き千切った飯島瑠樹の頭を璃空の足元へと投げ渡す。
瑠樹の体はベッド横の椅子に姿勢正しく座り、頭部は今も尚、ベッドから上半身を起こしている弟と会話をするように穏やかな表情で言葉を放ち続けている。
「っ……」
「怯えることはない。 所詮は記憶が作り出した幻想。
都合の悪い事は遮断している筈だ」
「え……?」
「それに、キサマがいるという事は、早々に壊れんよう工夫をするだろうしな?」
訝しげに部屋の天井を見やるベルフェゴール。
「?」
つられるように璃空の視線も部屋の天井へと向けられる。
「おじいさん、何も……」
「随分と手を拱いているようだな、闇の支配者よ」
「…………。
…………。
…………あーあ、目ざといおじいちゃんですね?」
瞬間、天井の日が当たらず影となる部分が黒に染まっていく。
「っ……!」
黒いそこからは人の形をした誰かが足をのぞかせる。
「困りますよ? 我々とアナタ達大罪の悪魔はアルハ・アドザム……もとい創造神アフラ・マズダ・スプリウムの滅びを願いとして掲げているのに……」
人の形をした誰かは古めかしい制服を身に纏っている。
「その願いに必要な大罪の権能をそうポンポンと受け渡しちゃうとか……」
死体のように青白い肌。
「これは裏切りでしょうか? いえ、疑問の余地は有りませんっ!
マジひゃくパー裏切りですっ!」
鮮血のように赤い瞳。
「なので、色欲や憤怒のように……」
肩下まである黒い髪は艶やかでありつつ、潜在的に恐怖を感じさせる。
「我ら支配者の養分となってください」
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