在りし日の瑠璃 1
「ガタノゾア……!」
突如として現れた闇の支配者ガタノゾア。
彼女の出現により、マノは恐怖が蘇りベッドと壁の隙間に体を埋め、頭上に現れた衝撃でトーマは失神した。 いや、お前は失神するなよ。
「聖奥……」
「解放……」
「おおっとぉ! ちょっと待ってくださいよっ!
今の私は皆さんと争うつもりはないんですよぉ?」
俺と志遠の聖奥に警戒してか、両手を上げるガタノゾア。
「白銀の……」
「待て、志遠」
「!……。 どうして止めるんだ」
「ガタノゾアは戦う意思が無いと言った。 なら、無理に力を使う必要が無い」
「ですですっ!
さっすが創造神さまっ! よく分かってますねぇ!」
頷きながら笑顔を見せるガタノゾア。
「あ、でもぉ〜……。
バアルちゃんのことをガタノゾアって呼ぶのはちょっとイヤかもですっ! ちゃ〜んとバ・ア・ル・ちゃ・ん☆ って、呼んでくださいねっ? そっちの方が文字数も少なくて呼びやすくないですか?」
「何が目的だ?」
「ありっ? ガン無視されちゃいましたか……そうですか……悲しいなぁ…………。
と、まぁ……気を取り直してっと!」
バアルはトーマが横たわるベッドの足元側へと着地する。
「私がここに来た理由は一つ……。 璃空さん、もうまもなく、お姉さんと再会できますよっ!」
「……えっ? それってつまり……」
「はいっ! ルキさんがすぐそこまで来てるんですよっ!」
バアルは裏返した人差し指を璃空に見せながら、飯島瑠樹がここへ向かって来ている事を伝えた。
「姉さんが……」
「良かったですねぇ、璃空さん……」
感傷に浸る璃空。 ベルフェゴールの正体を知った今なら和解できるかもしれないが。
「おい、ガタノゾア」
「はいっ! なんでしょうか?」
「どういうつもりだ」
「? と、言いますとぉ?」
「今まで正面切っての戦いを避けていたお前が、わざわざ一人で来た事に違和感があるって言ってんだよ」
「ふむふむ……。 アルハさんは私が何かを企んでいると……」
腕を組み、うんうん……と首を縦に振るバアル。
「はいっ! そのとおりですっ!」
「っ……」
バアルは開き直ったように答えた。
「確かに私は悪い事を企んでますよ? でも、たとえ私が何か企んでいても、ルキさんと璃空さんのいざこざを無視する理由にはなりませんし、私は悪魔です。
悪い事をするのが本職なのに、企んでなかったらそれこそ矛盾が生じませんかね?」
「邪神のくせに、まだ悪魔を語るのか」
「あはっ……☆」
志遠の問いかけに、どちらとも言えない態度で、開いた口元を手で覆い笑うバアル。
(そろそろですかね……)「じゃ、続きは彼女との話し合いを済ませてからってことで……」
「「……?」」
バアルの台詞から数秒の後、部屋の窓から火のように赤い点が射し込む。
「邪奥解放……」
赤い点は華のように等間隔で並び、その中心に細剣を携えた人物が佇んでいる。
「マズい……。 志遠!」
「っ……!」
壁を貫く幾つもの花弁のような魔力の塊は、一瞬にして酒場と付近の建物全てを瓦礫の山へと変えていった。
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